慟哭の時

レクフル

文字の大きさ
上 下
297 / 363
第七章

発音が難しかった

しおりを挟む

甲板に出て、少し風にあたる。

ウルはさっき寝ていたので、あまり眠くないみたいだ。

夜の海を眺めながら、ウルに少しずつエリアスの事を話す。

エリアスが奴隷になったのは、孤児院で酷い扱いをうけて、逃げ出したところで盗賊に捕まって売られて奴隷になって、そこを逃げた訳じゃなくて魔眼に目覚めて怖がられて捨てられた事、それからは一人で生活してきた事を話した。
その後冒険者となって実績を積み、今はオルギアン帝国のSランク冒険者だと教えた。

母親を殺したって言うのも、まだ物心つく前の、歩くことも出来なかった位の幼かった時に、客として来ていた私と離れるのが嫌で、訳も分からずに炎で母親を焼き殺してしまったと話していた事を伝える。
私達異能の力を持つ者は、幼い頃はその力の制御が難しく、家族や自分自身も力の犠牲になって息絶えてしまうこともあると話した。

エリアスもまだ自分の事も能力も分からない時の事で、そのこと自体何も覚えて無かったようだけど、それを知ってからは自分を責めているんだと……

ウルは何も言わずに私の話を聞いていて、少ししてから下を向いたまま「分かった。」と、一言呟いた。

それから、私の記憶が無くなってしまって、何処かに行ってしまった私をエリアスがずっと探し続けてくれていた事を話すと、ウルが涙を流しだした。


「え……ウル、どうしたんだ?なんか変な事、言ったかな……?」

「アタシ……なんも知らんと……ごめん……!」

「知らないのは当然だ。私もエリアスが探しに来てくれた時は、全然信用出来なくて……最初は凄く素っ気ない態度をとってしまったんだ。孤児院に遊びに行って、私の後をついてきたエリアスが、そこにいた逃亡奴隷の子供の代わりに自分がそうだと言って捕まって拷問を受けて……何とか助けられたけど、だからシアレパス国では、一部の人にエリアスが逃亡奴隷だと思われてるんだ。」

「そやったんやな……」

「リフレイム島は罪人が奴隷になるみたいだけど、他の国ではそうじゃない事が多いんだ。奴隷だとしても何の罪もない人や子供もいる。それを分かって欲しいかな……」

「うん……分かった……」

「ありがとう。ウル……寒くなってきたね。部屋に戻ろうか?」

「うん。」

「あ、それと……エリアスはベッドでそのまま寝かせてあげたいんだ。夜、少し気になるかも知れないけど……」

「え?あぁ、寝言がうるさいってヤツやな。」

「……まぁ……うん……」

「それくらいどうって事ないわ。」

「……うん。」


部屋に戻って、エリアスの様子を見る。
まだ眠っていて、そっと髪を撫でると、その手を取ってエリアスがゆっくり目を覚ました。


「エリアス、ごめん。起こしちゃった……」

「……ん……あぁ……大丈夫だ……楽になってきたし……」

「無理しないで……?」

「心配性だな……大丈夫だって。」


そう言うとエリアスが私の手を引っ張ってきた。
体制を崩して、エリアスの胸に飛び込む感じになる。
エリアスは私を下に寝かせて覆い被さるようにして、それから口づけてきた。


「ん……エリ、アス……待っ……」

「待てねぇ……」


激しく口づけを繰り返して、私になにも言わせないようにする。
エリアスの事しか考えられなくなりそうで、このまま身を委ねてしまいそうになる……

でも……!


「待って……!ウルが……っ!」

「あ……」


後ろを見ると、ウルが私達をジーっと見ていた。


「すまねぇ……」

「邪魔して悪かったな……」

「ウル、そうじゃない……!」


すぐに起きて、ベッドから出る。
エリアスも起きて、そのまま部屋から出て行こうとする。


「エリアス、どこに行くの……?」

「え?あぁ、今から寝るんだろ?俺は外で寝るから。」

「え?いいやん、一緒に寝たら。寝言位気にせぇへんで?」

「またアシュレイに襲いかかるかも知んねぇしな。今まで寝てたし、ちょっと晩飯も食いてぇし。」

「エリアス……」


エリアスは微笑んで、手をヒラヒラさせて出ていった。

寝る用意をすると、ウルが今日も一緒に寝たい、と言ってくる。
二段ベッドの下で、ウルと一緒に布団に入る。
ウルと少し話をして、それからウルが少しずつウトウトしてきて、静かに寝息をたてだした。

しばらくウルの髪を撫でていて、完全に寝入ったのを確認してからそっとベッドを出る。
部屋を出て、エリアスを探しに行く。
甲板に出ると夜風が冷たくて、装備類を全て外して軽装になった身に風が突き刺さるように感じる。
上衣を持ってくれば良かった……と思いながら甲板のベンチを見ると、エリアスがそこにいた。

急いで行くと、ベンチに座ったエリアスは、やっぱり痛みに耐えていたところだった。
横に座って、体を支える様にして抱き締めると、エリアスはニッコリ微笑んだ。

寒そうにしている私を見て、外套を私にも被せてくれる。
エリアスの体温を確認しながら、いつものように体を冷したりしながら寄り添うようにして……

気づくとそのまま眠ってしまっていた。


「姉ちゃ……」


ウルの声が微かに聞こえて目を覚ますと朝日が昇って来た頃で、ウルが目の前に佇んでいた。

私の横にはエリアスがいて、私達はお互いを支え合う様にして寄り添って眠っていたようだ。


「あ……ウル……」

「そんなにアタシと寝るの、嫌やったん?そんなにエリアスと一緒が良かったん……?」

「え?あ、いや、そうじゃなくて……」

「嫌やったら嫌って言うたらええやんか!」

「違っ……!ウル!」


ウルが走って行く……!
ウルと寝るのが嫌とか、そうじゃないのに!


「ん……アシュレイ……どうした……?」

「あ、えっと……ウルが……私とエリアスがここにいるのを見て……怒っちゃったんだ……」

「そっか……アシュレイ、そのまま寝ちまったんだな……悪かったな……」

「エリアスは悪くないんだって!私が寝てしまったから……!」

「もう夜に俺の所に来なくて大丈夫だから。ウルの側にいてやってくれねぇか?きっとウルは不安なんだ。自分の事を一番に思ってくれる人がいて欲しいって思ってんだよ。」

「でも……」

「俺は大丈夫だ。ありがとな……俺もアシュレイに甘えちまってたな。」

「そんな事……!」

「ほら、早く行ってやれって。きっとアシュレイが来てくれるの、待ってる筈だから。自分への愛情を確かめてぇんだよ。」

「うん……分かった……」


エリアスに言われて、すぐに部屋へ戻る。
ウルは昨日と同じ様に二段ベッドの下で布団にくるまっていた。
布団を退けようとするけど、ウルに妨害されていて退けられない。
横に添うように寝て、布団にくるまったままのウルを抱き締めた。


「ウル……ごめん……ウルと寝るのが嫌とかじゃないんだ。エリアスの事が心配だったから様子を見に行って、ついそのまま寝てしまったんだ。」

「……………」


布団がモゾモゾと動きだして、ウルが顔をゆっくりと出す。
でも、私と目を合わせなくて、ちょっとモジモジしている感じになっている。
私も布団の中に入って、ウルを胸に抱き寄せる。


「姉ちゃ……アタシの事……嫌いじゃない?」

「嫌いな訳ないじゃないか。」

「ホンマに?」

「うん。ホンマに。」

「フフ……姉ちゃ、発音可笑しいで?」

「そう?なかなか難しいんだな。」

「……怒ってごめん……」

「ううん……ウルは何でもちゃんと言ってくれるから、分かりやすくて助かる。一緒に旅をするんだから、ちゃんと分かり合って行こう?」

「うん……」

「ウルの事も大切だから……」

「姉ちゃ……ありがと……」


ウルとやっと目が合って、二人で見つめ合って微笑んだ。

それから、まだ起きるのは早いかなって言い合って、二人で布団にくるまって寄り添うようにする。

少ししてエリアスも戻ってきて、私達を見ると微笑んで、それから一人ベッドに横たわる。

そうやって三人で部屋で、もう一度ゆっくり眠りについていったんだ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。 女性は従姉、男性は私の婚約者だった。 私は泣きながらその場を走り去った。 涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。 階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。 けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた! ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

処理中です...