慟哭の時

レクフル

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第七章

誤解

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船に乗って、アクシタス国の港町トルニカへ向かう。

到着までは一日半程かかる。

あんなに楽しみにしていた船に乗ったのに、ウルは浮かない顔をしていた。
甲板にあるベンチに座って、ずっとムスッとした感じでいる。


「ウル……さっきはごめん。その……怒った訳じゃないんだ……」

「姉ちゃは……エリアスを信用してんのか……?」

「え……それは勿論……」

「エリアス、悪いことをしたって言うてたやろ?!それでもか?!」

「それは……きっと何か理由がある筈で……」

「なんやの?!その理由って!」

「それは分からないけど……」

「アタシは信用出来ひん!調子の良いヤツって思ってたしな!」

「ウル……」

「姉ちゃも、早くアイツの本性に気づかなアカンで!」

「エリアスをアイツなんて言わないで!」

「姉ちゃ……」

「アシュレイ、そんな大きな声出すんじゃねぇよ。俺の事はいいって言ってんだろ?」


いつの間にか側に来ていたエリアスが、私達のやり取りを見て、私に注意をしてきた。
エリアスを見て、ウルはキッと睨んで、それから私の後ろに隠れる。
エリアスは申し訳なさそうに笑って、私達の側から離れた。

甲板で船のへりに腕を置いて、エリアスは海を眺めていた。
その姿が寂しそうに見えて、涙が出そうになる……

ウルが寒いから部屋へ帰りたい、と言ったので、二人で部屋まで戻る。
ここは三人部屋で、狭いけれどベッドも三つある。
一つは二段ベッドになっていて、ウルは部屋に着くなり二段ベッドの上に行って、布団に潜り込んでしまった。


「ウル……?」

「眠いからちょっと寝る。」

「そう……分かった……」


せっかく楽しみにしていた船なのに、ウルの機嫌はすこぶる悪く、私の言うことも今は聞いてくれなさそうだった。
多分、それはウルもそう思っている訳で、リフレイム島の奴隷への思考がこびりついている状態で、そうじゃないと言ったところで今はまだ分かり合えそうにない……

ウルがベッドに入って頭から布団を被って、私とは遮断した感じになって、仕方なく部屋を出た。

甲板まで戻って、エリアスの横に行く。


「アシュレイ……ウルは大丈夫か?」

「うん……今は部屋のベッドで籠ってる。」

「そっか……悪かったな……」

「エリアスは悪くない!何にも悪くない!」

「ハハ……そうか?」


寂しそうに笑うエリアスに、思わず抱きついてしまう。
エリアスも私を抱き寄せて、私の頭に顔を寄せる。


「アシュレイが分かってくれんなら、俺はそれで良いんだ。あんまりウルに強く言わねぇでやってくんねぇかな?」

「うん……ごめん……」

「アシュレイが謝る必要なんかねぇだろ?」

「でも……」

「俺の事より、ウルのフォローしてやってくれ。ウルはずっと一人だったろ?きっとすっげぇ寂しくて、それがやっと外に出れて嬉しい筈の旅なのに、俺の事でこんなことになって……ウルの味方が誰もいないんじゃ、それは可哀想な事だからな。」

「うん……その……」

「ん?どうした?」

「さっきエリアスは……悪いことをしたって……それって……何をしたの……?」

「…………」

「あ、いい、言いたくなかったらいいんだ!私はエリアスを信じてる!だから、言わなくても……!」

「……母親を……」

「え……?」

「俺、母親を殺しちまったんだ……」

「そうなんか……!?」


ウルの声が後ろから聞こえてきて、思わず振り返るとそこにはウルがいた。


「ウル……!」

「やっぱりそんな悪い奴やったんやな!自分の母親を殺すなんて、そんな酷い事するなんてあり得へんわ!!理解出来ひん!!」

「……ハハ……そうだな……」

「ウル、これにはきっと理由が……!」

「どんな理由があっても、絶対にしたらアカン事やろ!最低や!お前は最低の人間や!!」

「ウルっ!」


走り去っていくウルを追いかけようとして、でもエリアスの事も気になって見ると、「行ってやってくれ。」ってエリアスが言う。
言われて、後ろ髪を引かれる思いで私はウルの後を追って行った。

部屋に戻って行くのが見えて、私もその後を追って部屋に入る。
ウルはベッドに入って、また布団を頭から被って一人で籠っている。


「ウル……!」

「分からへん!なんで姉ちゃがあんなんと一緒におるのか分からへん!姉ちゃなら他に良い人とか絶対すぐに見つかるのに!あんな酷い事する奴となんで一緒におるん?!」

「それは……!」

「騙されてんのかも知れん!アイツに良い様に言われて、姉ちゃは騙されてるんや!」

「そんな事ないっ!」

「けど、アイツ自分の母親を殺したって言うてたやん!そんな奴の側になんか、怖くておられへん!」

「けど……」

「けどなんなん?!姉ちゃもいつ同じ様に殺されるかも分からへんねんで!?そんな奴と一緒におるとか、もう分からへんわ!!」

「ウル……」


何を言っても、今は分かる筈もなく……
私の言葉も届かなくて、ウルは布団にくるまったままだった。


「ウル……これだけは聞いて?私はエリアスに助けられたんだ。エリアスは悪いことをして奴隷になったんじゃないんだ。母親の事も、きっと理由がある筈で……だからエリアスを怖がらないで……」

「………………」

「ウル?」

「……知らん。寝る。」


頑ななウルに今はこれ以上何も言えなくて、そっと部屋を出た。
甲板に戻ってもそこにはエリアスがいなくって、何処に行ったのかと思って探していると、食堂にいて、エールを飲んでいるのが見えた。


「エリアス……」

「あ、アシュレイ、ウルは大丈夫か?」

「さっきと一緒で、聞く耳を持ってくれない。今はそっとしておくしかないかな……」

「そっか。悪ぃな。こんな事になっちまって。」

「ううん。横、座っても良い?」

「あぁ。アシュレイも飲むか?っても、飲んでも酔えねぇけどな。」

「そうだな。けど、私も飲む!」

「だな。飲まなきゃやってられねぇ事もあるからな!」


そう言い合って、エリアスと二人で飲んだ。
どれだけ飲んでも酔えないけれど、私もエリアスも、ついつい飲んでしまう。

エリアスは今までの私との旅の話をしてくれた。
その中で、グリオルド国に行った時の話をして、そこで自分の生まれた村に行って、自分の父親に会い、なぜその村を出る事になったのか……なぜ母親を殺してしまったのかを話してくれた。

それはまだ歩く事も出来なかった赤ん坊の頃の事で、何も分からない、自分の力も分からない、制御もできない頃の事で……
でも、エリアスはそれを知ってからは、きっと凄く気にしているんだろう……
前に、夜に傷痕が痛むのは仕方のない事だって……
これは自分の戒めだからって言ってたのは、自分が母親を殺してしまった事への戒めだと思っているのかも知れない……

私がエリアスを見ると、何泣きそうな顔してんだよ!って言って笑って、頭をワシャワシャする。
それからウルの事が心配だから、様子を見に行って欲しいって私に頼んでくる。
エリアスはそうやっていつも、自分の事より人の事を心配する。
なんでそれを分かって貰えないんだろう……

部屋に戻ってウルの様子を確認する。
布団にくるまったままで、そっとそれを退けると、ウルが寝息をたてて眠っていた。
ウルの目に涙の痕があって、ウルもきっと、なんで自分の言うことが伝わらないんだろうってジレンマを感じていたんだろうな……

そっとウルの髪を撫でると、ウルがゆっくり目を開けた。
私を見ると微笑んで、手を握ってくる。


「ウル?もう夜になったよ?お腹すいてない?」

「ん……お腹すいた……」

「食堂行こう?」

「うん……」


そう言ってベッドからウルが降りようとしたところで、舟が大きく揺れた。
私とウルはベッドにしがみついて、その揺れに耐えていた。
少しして揺れが収まって、何だったんだろう?って思いながら部屋を出る。
廊下を船員が走っていて、何かあったのかも知れないと思って、ウルと手を繋いで甲板に行く。

するとまた、船が大きく揺れだす。
船員達や、乗客達がなにやら騒ぎ出す。

もしかしたら……魔物が襲ってきているのかも知れない……!





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