290 / 363
第七章
一人だった
しおりを挟む私を見て泣いたウル。
ウルの名前はウルリーカと言って、ウルって言うのは愛称だそうだ。
ウルの涙を拭うと、少しずつ話してくれた。
ウルは親のいないエルフだった。
エルフの住む森にある村で、ウルはいつも一人だった。
でも、知り合いはいっぱいいて、その中で暮らすにはなんの苦労も無かった。
夜は誰かの家で食事をすることが多く、皆ウルには優しく接してくれる。
皆がウルを気遣って、食事の世話をしてくれていた。
一緒に暮らそう、と言ってくれる人達もいたけれど、仲良く暮らす人達の中に入っていく事が申し訳なくて、いつもそれを断っていた。
親は、母の記憶だけがある。
けれどウルが幼少の頃に、狩りに出て行ってから帰って来なくなった。
それからウルは、ずっと一人で母の帰りを待っていた。
そんなある日、一人の人間がエルフの森に迷い混んだ。
しかし、その人はエルフの感じにどことなく似ていて、本当にただの人間なのかと思う程の雰囲気があった。
それがリサだった。
リサは、この森の一角にある鉱石場の鉱物や鉱石を採取しに来た、と言っていた。
エルフは元々警戒心が強く、それが異種族であれば尚更の事で、リサが現れた時も皆が警戒したけれど、リサとは何故かすぐに打ち解けられた。
リサはウルの母親に似た雰囲気を持っていた。
初めて見た時、ウルは自分の母が帰ってきたと思って、リサに抱きついて泣いてしまった。
少しの間、リサはこの村に滞在することになって、ウルの家に泊まる事になった。
それはウルがリサから離れなかったからだ。
リサが自分の母ではない事は分かったけれど、それでもウルはリサからは離れなかった。
リサはエルフの森の奥にある鉱石場へ行き、ある鉱物・鉱石を求めて毎日朝から晩まで探し続けていた。
それにはウルも積極的に手伝った。
リサは優しくて、温かくて、本当のお母さんみたいな感じがした。
数日間そうやっていたけれど、不意にリサは帰ると言い出した。
求めていた鉱石が見つかったからだ。
ウルは悲しくて、でも引き留める事は出来なくて、涙を堪えてリサを見送るところで、一緒に来る?と優しく微笑んで言うリサの言葉に、躊躇うことなく喜んでついていった。
それからは今いるこの家で、リサとウルの二人の生活が始まった。
リサは錬金術が得意で、様々な物を作り出していた。
色んな鉱物を混ぜ合わせて強度な金属にしたり、逆に柔らかい物にしたり、依頼を受けて物を作り出したりしていた。
ウルはいつも側でそれを見ていて、いつしか自分も真似る様になっていった。
リサは優しく、少しずつウルに錬金術を教えてくれた。
リサがエルフの森から採った鉱物と鉱石を合わせて、何かを作り出そうとしていたけれど、それがなかなか上手くいかなくて、何度も失敗して、何度も作り直していた。
何を作ってるのか聞くと、ゆっくりとリサは話してくれた。
リサには娘がいて、その子には異能の力がある。
その力のせいで人に触れる事が出来ずに、娘はいつも悲しい思いをしていた。
だから、娘に能力制御の腕輪を作るんだ、と言っていた。
リサからその話を聞いた時は、嫉妬の様な感情が胸に湧いたけれど、時々リサがするその娘の話を聞いていると、段々それはまるで自分の姉の様な感じがして、いつしかウルは会いたいと思うようになっていった。
その娘の名前が、アシュリーと言った。
「もしかして……リサの名前は……ラリサなのか?」
「そうやで。」
「母は……こんな所にいたんだな……」
「こんな所ってなんやねん。」
「あ、いや、すまない。まさかこんな遠い所にいたとは思わなくて……」
「そうなんか?アンタはずっと何処にいたんや?」
「私と母は、ずっと旅をしていて、一つの所に留まるなんて事はなかったんだ。それが、突然母がいなくなって……」
「そうなんや……アンタも母親を待ってたんやな……」
「ウルはそれから、ずっと一人でここにいたのか?」
「一人は慣れっこやったしな。いつ帰って来るか分からへんし。錬金術の練習しながら、時々エルフの森に行ってたりしててん。けど……リサじゃなくて、アシュリーがやって来るとは思わへんかったわ。最初、顔を見た時リサに似てたから一瞬戸惑ったけど、アシュリーは女の子の筈やから、アタシの思い違いと思ってん……けど、やっぱりアンタがアシュリーやってんな……」
「うん……小さな頃から、ずっと男の子として育てられたから。」
「それはなんでなん?」
「……私には勝手に魅了の効果が出ているらしくって、それで惑わせてしまうらしいんだ。だから少しでも回避する為に男の子として育てたんじゃないかな?今は制御できているけどね。」
「そやったんか……でも、髪も銀色やと思っとった……」
「父親が銀色じゃなかったんだろうな。」
「今、リサが何処におるか、アンタらも分からへんのか?」
「……まぁ、な……」
「なぁ……」
「ん?」
「その……えっと……」
「どうした……?」
「いや……やっぱり良いわ……」
「言いたい事は言って良いから。なに?」
「……………ちゃ……」
「え?」
「……姉ちゃって……呼んでもええ……?」
「……ウル……うん……いいよ?」
「……ありがと……姉ちゃ……」
思わずウルを抱き締めた。
きっと一人でずっと寂しかった筈で……
こんなに小さいのにずっと一人で、ただ帰ってくるのを信じて待っていて……
それはきっと寂しくて悲しくて、どうしようもない夜もあった筈で……
ウルを抱き締めると、ウルは大きな声で泣き出した。
ずっと人の温もりに触れたかったんだろう。
その気持ちが、私には痛い程分かる。
ウルにつられて、私も思わず涙が出た。
しばらくそうやって抱き合って、二人で泣いちゃったんだ……
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します
Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。
女性は従姉、男性は私の婚約者だった。
私は泣きながらその場を走り去った。
涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。
階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。
けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた!
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる