慟哭の時

レクフル

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第七章

一人だった

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私を見て泣いたウル。

ウルの名前はウルリーカと言って、ウルって言うのは愛称だそうだ。

ウルの涙を拭うと、少しずつ話してくれた。



ウルは親のいないエルフだった。

エルフの住む森にある村で、ウルはいつも一人だった。

でも、知り合いはいっぱいいて、その中で暮らすにはなんの苦労も無かった。
夜は誰かの家で食事をすることが多く、皆ウルには優しく接してくれる。
皆がウルを気遣って、食事の世話をしてくれていた。
一緒に暮らそう、と言ってくれる人達もいたけれど、仲良く暮らす人達の中に入っていく事が申し訳なくて、いつもそれを断っていた。

親は、母の記憶だけがある。
けれどウルが幼少の頃に、狩りに出て行ってから帰って来なくなった。
それからウルは、ずっと一人で母の帰りを待っていた。

そんなある日、一人の人間がエルフの森に迷い混んだ。
しかし、その人はエルフの感じにどことなく似ていて、本当にただの人間なのかと思う程の雰囲気があった。

それがリサだった。

リサは、この森の一角にある鉱石場の鉱物や鉱石を採取しに来た、と言っていた。
エルフは元々警戒心が強く、それが異種族であれば尚更の事で、リサが現れた時も皆が警戒したけれど、リサとは何故かすぐに打ち解けられた。

リサはウルの母親に似た雰囲気を持っていた。
初めて見た時、ウルは自分の母が帰ってきたと思って、リサに抱きついて泣いてしまった。

少しの間、リサはこの村に滞在することになって、ウルの家に泊まる事になった。
それはウルがリサから離れなかったからだ。
リサが自分の母ではない事は分かったけれど、それでもウルはリサからは離れなかった。

リサはエルフの森の奥にある鉱石場へ行き、ある鉱物・鉱石を求めて毎日朝から晩まで探し続けていた。
それにはウルも積極的に手伝った。
リサは優しくて、温かくて、本当のお母さんみたいな感じがした。

数日間そうやっていたけれど、不意にリサは帰ると言い出した。
求めていた鉱石が見つかったからだ。
ウルは悲しくて、でも引き留める事は出来なくて、涙を堪えてリサを見送るところで、一緒に来る?と優しく微笑んで言うリサの言葉に、躊躇うことなく喜んでついていった。

それからは今いるこの家で、リサとウルの二人の生活が始まった。

リサは錬金術が得意で、様々な物を作り出していた。
色んな鉱物を混ぜ合わせて強度な金属にしたり、逆に柔らかい物にしたり、依頼を受けて物を作り出したりしていた。
ウルはいつも側でそれを見ていて、いつしか自分も真似る様になっていった。
リサは優しく、少しずつウルに錬金術を教えてくれた。

リサがエルフの森から採った鉱物と鉱石を合わせて、何かを作り出そうとしていたけれど、それがなかなか上手くいかなくて、何度も失敗して、何度も作り直していた。

何を作ってるのか聞くと、ゆっくりとリサは話してくれた。

リサには娘がいて、その子には異能の力がある。
その力のせいで人に触れる事が出来ずに、娘はいつも悲しい思いをしていた。
だから、娘に能力制御の腕輪を作るんだ、と言っていた。

リサからその話を聞いた時は、嫉妬の様な感情が胸に湧いたけれど、時々リサがするその娘の話を聞いていると、段々それはまるで自分の姉の様な感じがして、いつしかウルは会いたいと思うようになっていった。

その娘の名前が、アシュリーと言った。



「もしかして……リサの名前は……ラリサなのか?」

「そうやで。」

「母は……こんな所にいたんだな……」

「こんな所ってなんやねん。」

「あ、いや、すまない。まさかこんな遠い所にいたとは思わなくて……」

「そうなんか?アンタはずっと何処にいたんや?」

「私と母は、ずっと旅をしていて、一つの所に留まるなんて事はなかったんだ。それが、突然母がいなくなって……」

「そうなんや……アンタも母親を待ってたんやな……」

「ウルはそれから、ずっと一人でここにいたのか?」

「一人は慣れっこやったしな。いつ帰って来るか分からへんし。錬金術の練習しながら、時々エルフの森に行ってたりしててん。けど……リサじゃなくて、アシュリーがやって来るとは思わへんかったわ。最初、顔を見た時リサに似てたから一瞬戸惑ったけど、アシュリーは女の子の筈やから、アタシの思い違いと思ってん……けど、やっぱりアンタがアシュリーやってんな……」

「うん……小さな頃から、ずっと男の子として育てられたから。」

「それはなんでなん?」

「……私には勝手に魅了の効果が出ているらしくって、それで惑わせてしまうらしいんだ。だから少しでも回避する為に男の子として育てたんじゃないかな?今は制御できているけどね。」

「そやったんか……でも、髪も銀色やと思っとった……」

「父親が銀色じゃなかったんだろうな。」

「今、リサが何処におるか、アンタらも分からへんのか?」

「……まぁ、な……」

「なぁ……」

「ん?」

「その……えっと……」

「どうした……?」

「いや……やっぱり良いわ……」

「言いたい事は言って良いから。なに?」

「……………ちゃ……」

「え?」

「……姉ちゃって……呼んでもええ……?」

「……ウル……うん……いいよ?」

「……ありがと……姉ちゃ……」


思わずウルを抱き締めた。
きっと一人でずっと寂しかった筈で……
こんなに小さいのにずっと一人で、ただ帰ってくるのを信じて待っていて……
それはきっと寂しくて悲しくて、どうしようもない夜もあった筈で……

ウルを抱き締めると、ウルは大きな声で泣き出した。
ずっと人の温もりに触れたかったんだろう。
その気持ちが、私には痛い程分かる。

ウルにつられて、私も思わず涙が出た。

しばらくそうやって抱き合って、二人で泣いちゃったんだ……






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