慟哭の時

レクフル

文字の大きさ
上 下
273 / 363
第七章

そして腕輪は

しおりを挟む
ノエリアにここを出ることを告げた翌日、出ていく準備をして、もう一度ノエリアに会いに行く。
勝手に出ていく訳にはいかないし、彼女には本当にお世話になったから、ちゃんとお礼を言って出ていきたい。

エリアスもそう思っているから、二人でノエリアの部屋の前まで、足を引きずる様に歩くエリアスを支える様に、腕を掴んで一緒にやって来たんだ。

ノックをして、返事があったので中へ入る。
ノエリアは机で業務をしていたようで、私達を見てソファーへ座るように促した。
けれど、エリアスは立ったままで、ノエリアに話をしだす。


「ノエリア、ありがとな。ここまで回復出来たのはノエリアのお陰だ。この恩は忘れねぇ。ノエリアに何かあって俺の助けが必要になったら、俺はノエリアを必ず助ける。覚えておいてくれ。」

「今が助けて欲しい時だとしたら?」

「え……それはどう言う……」

「エリアスさんがここを出て行く事に困ってて、それが助けて欲しい事だと言ったら?」

「それは……」

「ふふ……冗談よ。私の方こそ、エリアスさんとリュカさんと会えて、私の日常になかった事をいっぱい体験できて楽しかったわ!ありがとう!」

「そんな体験とか……あったかな……?」

「良いのよ!私の中ではもう完結しているから!本当に充実した日々だったわ。ありがとね!でも、エリアスさんを好きな気持ちはまだ完結してないから、その気になったら教えてね!いつでも女の子の良いとこ、教えてあげるから!」

「ハハ……なんか、敵わねぇなぁ。流石はノエリア・オルカーニャだ。」

「それは褒めているのかしら?」

「ったりめぇだ。アンタ、良い女だ。」

「今頃気づかないでよ。そう思っても出ていくくせに。」

「そうだな。けど、また遊びに来るぜ!もてなしてくれんだろ?」

「えぇ!勿論!楽しみに待ってるわ!」


一時はノエリアとどうなるのかと気になったけれど、彼女はとても潔い性格なのか、私達が出ていく事をアッサリ認めてくれた。
ノエリアが商人として大成しているのが納得できる。
エリアスも恩を感じていたけれど、私が助ける事が出来なかったエリアスを助けてくれたノエリアに、私も恩を感じているんだ。
エリアスと同じ様に、ノエリアに何かあれば、私で出来る事をするつもりだ。

ノエリアや医師達、使用人達に見送られて、ノエリアの邸を出る。
ノエリア達はずっと私達を見送っていた。
本当に有難い人達だった。

エリアスを支えて、ゆっくりゆっくり歩いていく。


「エリアス……大丈夫?無理して歩いてるんじゃないのか?」

「大丈夫だ。これくらい、どうって事ねぇよ。」

「すぐに回復させたいんだけど……」

「外じゃ誰に見られてるか分かんねぇからな。宿でもとって、その部屋で回復してくれたら助かるんだけどな。」

「そうだな……」

「インタラス国の王都の部屋、覚えてねぇよな……?」

「え……?」

「俺と旅をしてた時、いつでも帰って来れる様に、ずっと借りっぱなしにしてたんだ。今もそうしてんだ。アシュレイがいつでも帰って来れる様に……」

「王都の……部屋……?」

「あぁ。まぁ、無理に思い出そうとしなくても良いけどな。」

「王都……コブラルの……」

「アシュレイ……?」


目の前が歪みだして暗闇に包まれてから、また明るくなって景色が変わった。
気づくとそこは部屋の中だった。


「あれ……ここは……?」

「アシュレイ!思い出したのか?!」

「何だろう……頭にこの部屋が見えて……勝手に移動した感じで……ごめん……」

「いや、いい!ありがとな!アシュレイ!ありがとう!」


そう言いながらエリアスが私を抱き寄せた。


「お礼なんて良いのに……回復させて……いい?」

「あぁ。頼む。」


エリアスと抱き合ったまま、回復魔法を施した。
淡い緑の光に包まれて、エリアスの傷が癒えていく……


「痛いの、無くなった?」

「あぁ、無くなった。ありがとな。」

「良かった……」

「アシュレイ……」


エリアスが私を見つめて……

それからゆっくり唇を重ねてきた……

二人抱き合って、優しく何度も口付けを繰り返す……

エリアスが私を抱き抱えて、ベッドに連れて行って、ベッドに腰かける感じになって……
私の頭を支える様にしようとした時……


「……いつっ…!」

「エリアス?どうしたの?」


エリアスが自分の左手を見る。
まだ包帯が巻かれていた状態だったその手から、血が滲み出していた。


「え……なんで……」


エリアスが包帯を取って左手を確認すると、杭で打たれた傷痕から、血が出ていた。
私はすぐに回復魔法をかける。
エリアスは手を握ったり開いたりして、その感覚を確認していたけれど、また血が滲み出してきた。
あまりちゃんと動かすのも難しいみたいだ……


「え……?完治しない……?なんで……!」

「アシュレイ、記憶が無くなってから、誰かに回復魔法を使った事はあるか?」

「……孤児院にいる子が高熱を出した時に一度だけ……」

「その時は大丈夫だったか?」

「うん……すぐに熱はひいて、そのまま眠った感じで……」

「そっか……」

「なんでだろう?!エリアスの怪我が完治しないの、なんでかな?!」

「もしかしたら……その腕輪のせいかも知んねぇな。」

「え……?」

「能力抑制の腕輪に、魔力抑制の石も着けてっからな。色んなモンが抑えられてても仕方ねぇな。」

「でもそうしたら、エリアスの傷がそのままで治らないじゃないか!」

「まぁ、それは仕方ねぇよ。こうやってここまで治してくれただけでも、有難てぇ事だからな。それに、放っときゃそのうち治るだろうしな。」

「けど!」

「気にすんな。大丈夫だから。」

「腕輪……外したら、ちゃんと治せる……」

「そうかも知んねぇけど……」

「エリアスの腕輪があるなら、私のも外せるんだろ?じゃあ、それで外せばいい!」

「いや、もし腕輪が壊れでもしたらどうすんだよ?!また誰にも触れなくなんだぞ?!」

「けどエリアスがこのままだったら、冒険者としてやっていけないじゃないか!」

「俺の事より自分の事も考えろよ!」

「私はエリアスに触れたらそれで良いっ!」

「…………マジか……」

「……マ、マジ……だ……」


エリアスが私をギュッて抱き締める。


「俺もアシュレイに触れんならそれで良い……」

「うん……エリアス……」


エリアスはそう言ってから、自分の左手首にある腕輪を見せた。
私も左手首にある腕輪を袖をまくって出して、エリアスの腕輪と合わせる。

腕輪と腕輪が合わさって、それが光を放ち、私の手首とエリアスの手首から、腕輪が抜け落ちて……

落ちた二つの腕輪が共鳴し合うように重なって金属音が響いたかと思うと、二つの腕輪が一つになって、それからいきなりくだけ散った。


「え……?!」

「なんだ?!なんで壊れんだよ?!」


身体中に力が漲ってきて、抑えられていたものが溢れてくる感じがした。

私とエリアスは二人して、呆然としたまま暫く動けないでいたんだ……







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。 女性は従姉、男性は私の婚約者だった。 私は泣きながらその場を走り去った。 涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。 階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。 けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた! ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

処理中です...