269 / 363
第七章
逆恨み
しおりを挟む「あの、リドディルク皇帝陛下?」
「え?あぁ、すまない、少し考え事をしていてな……」
「お疲れではないですか?すぐに休まれますか?」
「いや、大丈夫だ。あれから……俺がここに来た時から、この国はどうだ?」
「リドディルク皇帝陛下が各部署の者達に助言して下さった事を遂行すると、本当に上手く事が運びまして、皆が驚きと喜びの声を上げておりました!私の側に置いた侍従は聡く、よく動いてくれる者で、その眼力に感服致しました!」
「そうか。それは何よりだ。」
「それを踏まえて、相談したい事がございまして……」
それからシルヴィオが今抱えている問題等を話し合った。
話を聞くだけでも、その状態が前よりも分かるようになってきたので、的確にアドバイスをしていく。
シルヴィオはそれを侍従に書き留める様に言い、真剣に聞いて納得していた。
ふと、感情に動きがあった様なので、それをしっかり読み取る……
そう言えばそんな奴がいたな……
「時にシルヴィオ陛下。ニコラウスはどうしている?」
「え?!……あ、はい……そうですね、お伝えしておかなくてはいけませんでしたね……」
「何かあったのか?」
「いえ、まだそうと決まった訳ではありませんが……以前リドディルク皇帝陛下に言われた通りニコラウスに任せていた仕事を調査してみたところ、言われていたように横領が発覚致しまして……それもかなりの額だったので、責任を取らせる為に更迭し、出向させました。」
「ほう。出向と言う左遷だな。どこに?」
「はい。アクシタス国です。私の妻の父親、つまり義父がアクシタス国で財務大臣をしておりまして、勉強をさせる為に義父に私からお願いしたのですが……」
「ニコラウスはどうしたんだ?」
「そこでも横領をした様で……」
「どこに行っても変わらない奴だったんだな……」
「私もそんな事をされては面目も立たず……横領した額はこちらで補填し、ニコラウスの処分は義父に任せたんですが……」
「ニコラウスはどうなった?」
「義父の妹君の嫁ぎ先である、シアレパス国の伯爵でリカルド・リンデグレン邸で侍従として働かせる事にした様です。」
「そこでも何かしたのか?」
「それが……まだなにも分かってはいないのですが……リカルド氏が何者かに殺害されまして……それから程なくして、義父の妹君、つまりリカルド氏の奥方になる方が不審死で発見され……子供や継ぐ者がいなかったリンデグレンはそのまま衰退するかと思われたのですが……」
「それをニコラウスが継ぐ形になったのか。」
「はい……侍従として働きながら、リンデグレン邸の事をしっかり把握し、運営等も側で勉強していた様でして……リカルド氏が亡くなられてからは代わりに仕事をしていた様ですが、同じ様に、いえ、それ以上に功績を残す程の働きぶりだった様で……皆が感心した程だったそうです……」
「それは……不味いな……」
「やはりそう思われますか?」
「ニコラウスは決してバカではない。聡く、要領も良いし、人当たりも悪くない。それを良い様に使っていければ良かったんだが、何故か間違った方向へとその能力を使い気味だ。リカルド氏は……ニコラウスに殺されているな。その奥方もニコラウスによって殺害されているだろう。しかし、何の証拠もない。これではどうにも出来ないな……」
「あぁ……やはり私が思った通りだったんですね……!」
「それからニコラウスの動きはどうだ?」
「今のところは特に何も……しかし、これからどうなるか……」
「そうだな。アイツの性格ならば……自分をこんな所に送り込んだ者達を恨むだろうな。」
「それは私と……もしかしたら……リドディルク皇帝陛下もでしょうか?!」
「そう考えておいた方が良いだろうな。」
「何て事だ……」
「これからのシアレパス国の動きをしっかり把握しておく必要があるな。俺も気にしておくが、気を許さない事だな。」
「分かりました。助言を頂き、感謝致します……!」
厄介な奴だな……
特に俺を恨んでいるだろうな。
自業自得だと言うのに、ああ言う奴は何か都合の悪い事が起きると何でも人のせいにして、自分は悪くないと思いがちなんだ。
ニコラウスの動向も気にしなければな。
アクシタス国との条約が結ばれた後、やはりシアレパス国まで行って、エリアスの事とニコラウスの事を調べるとするか……
その夜は、簡易な食事会が行われた。
俺の意向を汲み取って、シルヴィオは贅沢をする事なく、しかし料理はもてなす心のこもった物が用意され、旅で疲れた体に効果のあるものばかりが並んだ。
その場には各部署の担当者が現れて、また俺に助言を求めてくる。
それは、この国を良くしようと思っての行動だから、俺は喜んで話をした。
皆、有り難そうに俺の言う事を真剣に聞いてくれていた。
良い国だな……
この国はもっと良くなっていく。
それが俺には嬉しくて仕方がないんだ……
だからそれを邪魔しようとする者は排除しなければならない。
その為に出来ることはしていかなければな。
王城で一泊し、それからまた馬車での移動だ。
出発する時は、以前と同様に見送りが多く、皆から感謝の言葉を向けられた。
それは言葉だけではなく、その気持ちも伝わって、それだけでも俺に力を与えてくれたんだ。
それからアクシタス国へ。
滞りなく進み、オルギアン帝国を出て十日と半日程で、アクシタス国の王都リニエルデに到着した。
翌日、王都の中央広場で大勢の観衆が見守る中、オルギアン帝国とアクシタス国は条約が結ばれ、晴れてアクシタス国はオルギアン帝国の属国となった。
貧困に喘いでいた民衆からは歓喜の声が響いたが、貴族や富豪等と言った上層部の者達からは、負の感情がてんこ盛りかと言う程俺に注がれた。
それでも、これで奴隷制度を廃止でき、貧富の差を少しずつでも無くせていけば、この国は今よりもっと繁栄する。
一部の者だけが豊かな国等、いずれ破綻して行くんだ。
俺を暗殺しようとする気配があちこちから感じ取れるが、ひとまずはこれで落ち着くだろう。
ちょっとやそっとの暗殺者には殺られる訳はないが、まぁ今のところ防げる範囲内なので良しとしよう。
そう言ったらゾランに、良しとしないで下さいっ!と怒られた。
これでやっと少しは時間が出来た。
さぁ、俺もシアレパス国へ行くとしようか。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します
Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。
女性は従姉、男性は私の婚約者だった。
私は泣きながらその場を走り去った。
涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。
階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。
けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた!
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる