慟哭の時

レクフル

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第七章

君は今

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執務室でいつもの様に仕事をしていると、大きな音でノックがされたと思ったら、返事を待たずに勢いよく扉を開けてエリアスが入ってきた。


「よう!ディルク!相変わらずしけたツラしてんなぁ!」

「エリアス……ノックの返事位待ったらどうだ?」


エリアスはソファーにドカッと座って、背もたれに体を寄っ掛からせて、頭を上にして寛いだ状態になる。


「悪ぃな!ついやっちまうんだ。まぁ、気にすんなよ!」

「俺にそんな口をきくのは、今ではエリアス位だ。」

「なんだ?俺にも敬う様な態度を取れってか?」

「いや……そのままがいいな。急に態度を変えられると、その方が気持ち悪い。」

「だろ?……で、今日呼び出したのは何なんだよ?」

「エリアスがオルギアン帝国のSランク冒険者となってから、もう2年になるだろう?規約では、2年間はSランク冒険者でいて貰わなくてはいけなかったが、エリアスが契約を更新しないのであれば、またAランク冒険者に戻る事ができる。どうする?」

「そっか……あれからもう2年経つんだな……」

「……そうだな……」

「ったく……今どこにいんだよ……」

「そう言えば報告がまだだったな。ラザスの村はどうだった?」

「俺がすぐに報告しねぇって事で、成果が無かったのは分かんだろ?……何の目撃情報もなかったぜ。」

「そうか……」

「そっちはどうだ?諜報員からは何か情報は無かったのかよ?」

「こちらも相変わらずだ。全く情報は無いな。」

「まぁ、ディルクの顔見てたら、聞かなくても分かってたけどな。疲れてそうだな。ちゃんと休めてんのか?」

「まぁ、な。相変わらずやる事が多くてな。それでも、皇帝になりたての頃よりは時間に余裕はあるがな。」


扉がノックされて、ミーシャがお茶とお菓子を持ってやって来た。


「エリアスさん、こんにちは!」

「ミーシャ!相変わらず元気そうだな!」

「はい!私はいつでも元気です!今日のお菓子は私が作ったんです!食べてみて下さい!」

「そうなのか!?じゃあ、遠慮なく頂くとするぜ!」


エリアスがミーシャの作ったケーキを手で掴んで口に入れた。


「あ、エリアス……そんなに一度に口に入れたら……」

「う……っぐ………」

「あれ?」

「エリアス、無理をするな!」

「い、や……大丈…夫……だ……」

「あの……ダメでしたか……?」


お茶をグビグビ飲みながら、少し目が潤んだエリアスが引きつるように笑いながら言う。


「お茶が旨く飲めるケーキだった……ちょっとビックリしたけどな……」

「そうなんですね!良かったっ!」


嬉しそうにミーシャが去って行った。


「しかし……なんでこんな味になるんだ?不思議だな……」

「そう言いながら、全部食べてるじゃないか。凄いな。尊敬する。」

「んな事で尊敬されてもな。不味かろうが、気持ち込めて作ったモンを無下にできっかよ。ゾランも大変だな。」

「ハハ……そうだな。」


また扉がノックされて、次はゾランがやって来た。


「あ、エリアスさん、おかえりなさいませ!」

「よう!ゾラン!今ミーシャの作ったケーキを食べたところだぜ。すっげぇ才能の持ち主だな。ミーシャは!」

「あ、ハハ、そうですね……私も毎回途方に暮れているんです……」

「上達して貰うしかねぇよなぁ。もうすぐ結婚すんだろ?」

「そうなんですよねー……シェフ直伝とか言って作ってるんですよ。でもなぜそうなるんでしょう?不思議です……」

「アシュレイは料理が上手だったぜ?」

「それはレクスも言っていたな。俺は食べた事が無かったが……」

「そうだったな!残念だなぁ?」

「ちょっと、エリアスさんっ!そんな嬉しそうにっ!ところで、どうだったんです?アシュリーさんは?!」

「なかなか手掛かりが掴めねぇな。」

「そうなんですね……」

「ゾラン、報告があるんだろう?」

「あ、はい、失礼しました。アクシタス国との条約内容に許可を頂きました。これで晴れてアクシタス国はオルギアン帝国の属国となります!」

「そうか。では、条約を結ぶ日取りを決めてくれ。それは……」

「レンナルト皇子とヴェストベリ公爵の結審が終了したので、後は判決を言い渡すのみとなりますが、その日の後に条約を結ぶ日を設定致します。」

「相変わらずだな、ゾラン。それから……」

「聖女様の事ですね?それは後程ジルドに報告させます。」

「分かった。」

「では失礼致します。エリアスさん、また時間がある時に剣の稽古をつけて下さいね!」

「あぁ、分かったぜ!」

「やっと一段落つきそうだな……」

「大変そうだな。俺には真似できねぇ。」

「俺だって嫌だ!エリアスみたいに自由にアシュリーを探しに行きたいんだぞ?!」

「分かってるよ。アシュレイを探す事を、オルギアンからの依頼にしてくれてるから、自由に探しに行きながら、金に苦労しなくて済んでる。これはディルクのお陰だからな。感謝してる。」

「珍しいな。エリアスからそんな言葉が出てくるとは。」

「ディルクの苦労が分かってきたからかな。結果が出せねぇのはすまねぇってしか言えねぇけどな。」

「いや……俺もエリアスには感謝している。アシュリーを……アシュリーの事を思って探しに行けるのは、エリアスしかいないからな……そうしてくれているから、俺はここで仕事をしていられる。エリアスがいなかったら、俺はこの国を放り出していたのかも知れない。」

「ディルクならやりかねねぇな!けど、見つかったとしても、俺はディルクに遠慮しねぇぜ?」

「分かっている。どうするかはアシュリーが決める事だ。負ける気はしないがな。」

「相変わらずムカつくなぁ!まぁ、事実負けてたけどな!ハハハっ!」

「エリアスのそう言うところは嫌いじゃないぞ?で、どうする?まだオルギアン帝国のSランク冒険者でいてくれるか?」

「そうだな……ちょっと考えさせてくんねぇかな……」

「もちろんだ。猶予は一ヶ月はある。ゆっくり考えてくれ。」

「そうさせて貰うぜ。明日からまた旅に出る。次はシアレパス国に行ってみるぜ。」

「……頼んだ。」


エリアスは微笑みながら、俺用に置いてあった軽食のサンドイッチを取って口に入れてから、手をヒラヒラさせて出て行った。

あれから……

アシュリーがラリサ王妃に忘却魔法で記憶を消されて、空間の歪みに消えて行ってから、2年の月日が経とうとしていた。

エリアスはいつまでも帰って来ないアシュリーを求めて俺の所に抗議に来て、その時に事の経緯を知った。

それからは、エリアスはアシュリーを探す旅を続けている。

エリアスが最初にした事は、空間移動が出来る様になる練習だった。
エリアスも銀髪の血をひく者であった為、その能力は素晴らしく、ある程度の魔法は教えただけで簡単に使えるようになっていった。
けれど、空間移動の魔法はなかなか思うようにいかなかったらしく、何度も何度も練習しては、魔力を使い果たして倒れていた。

今では自由に使いこなせる様になっている。

エリアスはここにいる皆とも仲良くやっていけてるし、憎まれ口を言い合う事もあるが、俺にも気遣いを自然にしてきたりする。

エリアスはいい奴だ……

アシュリーが心惹かれるのも、分からなくはない。

アシュリーを抱き締める度に……

エリアスへの心の揺らぎを感じずにはいられなかった……

それでも、俺を受け入れてくれたアシュリー

手の中にいる、と思ったら、いつもすぐにどこかに行ってしまう

またこの腕で抱き締める事は出来るんだろうか……

アシュリー

今 君はどこにいる……?









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