慟哭の時

レクフル

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第六章

魅了してみた

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ディルクの熱が上がってきたら、氷魔法で冷やして体温を調整して、そうしている間に私もいつの間にか眠ってしまっていた……

朝になって目が覚めて、ディルクの様子を確認すると、熱は大分落ち着いてきた様だった。

ゆっくりベッドから出ようとしたら、ディルクが力を入れて離さない様にする。


「起きちゃった?」

「すぐに何処かに行こうとする……」

「そうじゃないよ……体はどう?」

「凄く楽になった。ずっと体を冷やしたりしてくれてたな……ありがとう……」

「でもまだ体は痛いんじゃ……」

「少しだけな……でも、こんなにすぐに良くなる事は今まで無かった。アシュリーのお陰だ。」

「ディルクはいつも無茶をするから、ゾランは本当に大変なんだろうな……」

「ハハハ、それもゾランの仕事のうちだ。」

「それ!酷いな!」

「酷いのはアシュリーだ……」

「なんで?」

「いつも俺の傍にいない……こんなに想っているのに……」

「だって……」

「すまない……困らせたな……」

「ううん……」

「あの時……」

「……え?」

「テネブレの力を借りた時……」

「あぁ……うん……」

「アシュリーはいつもあんな感じになるのか……?」

「うん……なんか、分かっているんだけど、なんか、そうしてしまうって言うか……」

「……アシュリーは魅了が瞳に付与されてるって言ってたな……それ、もしかしたら闇の力のせいかも知れないな……」

「そうなのかな?」

「もしかしたら、光の力で魅了を抑制していたのかも知れない。あの時のアシュリーは、魅了が制御出来ていない感じだった。」

「そう……かも…!うん、そうだ、きっと!あ、じゃあ、今試してみる!瞳に光の付与だけ無くす様にしてみるから、見てて!」

「おい、待て!俺を魅了するのか?!」


目を閉じて、光の効果を抑制するように調整してみる。
ゆっくり目を開けてディルクを見る。


「アシュリー……」


ディルクが私を見詰めて……それから私に覆い被さって来る。

熱く口づけをして、私の体を確認するように触れていく……


「あ、待って!ディルクっ!ごめんっ!ちょっと待ってっ!!」

「……待てない……」

「ん……!ごめんって……!ディルクっ!」

「アシュリー……」

「まだ……!ディルクは体が痛いはず……あ……」


私の胸にディルクの唇が……


「…ディル、ク……待っ………ぁ……」


ダメだ……何も考えられなくなる……

ディルクの事しか考えられなくなる……

これじゃ……どっちが魅了に犯されてるか……

分からない……


不意に扉がノックの音がした。

その音に、私とディルクが我に帰った。

急に恥ずかしくなって、すぐに起きて胸元をただす……
ディルクは横になったままで、私の腰に手を回して離さない様にしている。

入室を促すと、ゾランが入ってきた。


「おはようございます。リドディルク様。」

「ゾラン……お前は俺の邪魔ばかりをする……」

「え?!あ!すみませんっ!」

「冗談だから!ゾラン!気にしないでっ!」

「あ、その、お体の調子はいかがかと思いまして……」

「アシュリーが看病してくれたからな。いつもより凄く楽になった。」

「でも、まだ体は痛い筈だっ!今日はゆっくりしてて!じゃあ、私は……」

「ダメだ。離さない。」

「ディルク、でも……」

「大丈夫だ。もう魅了の効果は消えている。」

「本当に……?」

「あ、あの、では失礼致しますっ!」

「待て、ゾラン。」

「はいっ!」

「昨日の報告があるんだろ?」

「はい……よろしいのでしょうか……?」

「それが俺の仕事だ。アシュリーも現場にいた事だしな。」

「そうですね……ではご報告致します。捉えた者は24名。うち、23名は気絶していたのみでした。1名は……その……」

「老化した男か。」

「はい……指名手配されていた者の様ですが、かなり様相が変貌しておりまして、こちらとしても困惑しております……」

「男の様子はどうだ?」

「恐怖に怯えております。何を聞いても、きちんと答える事は出来ない状態です。マルティノアにいた男の様でした。」

「そんな風になるんだ……」

「アシュリーさん?」

「いい、ゾラン。続けろ。」

「あ、はい。あの場所は『闇夜の明星』のアジトの一つだった様です。時々、近くの孤児院からも子供がいなくなっていたそうですが、逃げ出したものとして、あまり捜索していなかった様でした。」

「そうなんだな……それから?」

「捕らえられていた女性ですが……ナルーラの街とその隣の街キルズから拐われた者達でした。まさに不運としか言い様がありません……」

「彼女達は……大丈夫だろうか……?」

「リドディルク様が恐怖を取り除いたので、比較的落ち着いている様です。しかし、今回の事は、そう簡単には……」

「そう……だろうな……」

「捕らえられていた女性の恋人ですが、傷等はなく、体調は良い様です。他の女性の身内の者……爆弾を仕掛けた者ですが、現在身元を調べて捜索中です。」

「実行犯だが、量刑は軽くしてやって欲しい……」

「畏まりました。その様にシルヴィオ王にお伝え致します。それから、囚われていた子供達ですが、捜索願いを出されている者は帰す手筈を整えています。身元が不明な者も3名程おりまして、調べているそうですが身元が特定できない場合は、孤児院に行くことになるでしょう。」

「それは仕方がないな……あ、それから、奴隷を買う富豪がいると言っていた。それも調べておいて貰えるか。」

「はい、承知しました。今回の件に関して、シルヴィオ王は事件解決にリドディルク様が関わっていたとして、大変驚かれて、それから恐縮しつつもお喜びになられておりました。後程ご挨拶に来られると思います。」

「そうか。」

「現在分かっている事は以上です。本日の朝食はこちらにお持ち致します。アシュリーさんもご一緒でよろしいですか?」

「あ、うん。」

「ではご用意致します。」


ゾランが出て行くとすぐにノックの音がして、エリアスが入ってきた。


「よう!ディルク!体調はどうだ?!」

「あ、おはよう、エリアス。」

「アシュレイ、ここにいたんだな。」

「うん……」

「エリアス、俺の事を心配してくれてるのか?」

「まぁ、ちょっとだけな。アンタ、すぐに体調悪くするだろ?無茶ばっかりすっからよ。アシュレイが心配すんだろ?」

「ハハ、要はアシュリーの心配をしている訳か。」

「まぁ、そうかもな。思ったより元気そうで良かったぜ。」

「アシュリーが看病してくれてな。お陰でかなり良くなった。」

「そっか……」

「あ、そうだ、エリアスもここで一緒に朝食摂ったらどうかな?!」

「え?あぁ、そうだな。ディルクが良ければそうするけど。」

「俺は構わないが。」

「じゃあ、ここに三人分運んで貰うように言ってくる!」


エリアスに、ディルクと二人きりの所を見られるのが、何だか恥ずかしい……と言うか……なんか気まずくなりそうで……

私はエリアスの優しさに甘えている……

ダメだな……

こんな事じゃ……

なんか……

エリアスに申し訳なくて……

そんな事を考えながら、ゾランの元へ向かったんだ……





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