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第六章
アンナの事情
しおりを挟む翌朝、起きてすぐにディルクのいる部屋にまで向かった。
部屋の前には何人も侍従達がいて、私が行くと頭を下げてすぐに通してくれた。
中に入ると、ディルクはまだ眠っていた。
ディルクの額を触ると、熱はひいた様だった。
良かった……
不意に額に触れた手を掴まれて、そのまま抱き寄せられる。
「ディルク、起きてたの?」
「今起きた。アシュリーの優しい感情に触れたからな。」
「体調はどう?」
「もう平気だ。夜、傍にアシュリーがいない事に気づいて、昨日の事は夢だったのかと思った。」
「だって熱を出してたから……」
「こんな事はどうでもない。でも……心配させたな……」
「私もいっぱい心配させたみたいだから、これくらい心配させて?」
「ハハ……そうだな……」
私の耳辺りの髪を優しく撫でて……
ゆっくりとディルクが唇を重ねてくる……
優しく何度も口づける……
頭がディルクに埋め尽くされて、このまま身を委ねてしまいそうになる……
突然ノックの音が鳴る。
その音に驚いて、思わず離れようとしたけど、またディルクが私を離そうとしない。
ちょっと困った顔をすると、ディルクは微笑んで離してくれた。
でも私の手を掴んだまま、それは離さなかった。
私がベッドに腰をかけた状態になったところで、ゾランが入ってきた。
「リドディルク様、おはようございます。」
「早いな、ゾラン。」
「あ、アシュリーさん、いらしてたんですね、すみません!」
「え、あ、大丈夫……」
「そうだぞ、ゾラン。邪魔をするな。」
「ちょっ……ディルクっ!」
「申し訳ありませんっ!」
「ハハハ、冗談だ。何か報告があるのか?」
「あ、いえ、それはまた後程申し上げます。……アンナと面会出来るようにしておりますので、朝食の後にご案内致します。」
「分かった。」
「では、ご用意が終られましたら、お声かけ下さい。」
ゾランが出て行って、またディルクが私をベッドに引き摺り込もうとした。
「もう!ダメだから!」
「少し位良くないか?」
「待たしちゃダメだ。それに、扉の前には何人も人がいたんだ。そう思うと……何だか恥ずかしい……」
ディルクが上体を起こして、また私を抱き締める。
「アシュリー……可愛い……」
「な、何言って……」
言葉を塞ぐ様に口づける。
唇を離すと、ディルクが微笑む。
その顔を見ると、何も言えなくなってしまう……
「ディルクは……ズルい……」
「何がだ?」
「そんな風に笑顔を向けられると……何も言えなくなる……」
「何か言いたい事でもあるのか?」
「そんなんじゃないけど……」
「俺は言いたい事があるぞ?」
「なに?」
ディルクは私をギュッて抱き締めて、耳元で囁くように優しく告げる……
「アシュリー、好きだ……大好きだ……誰にも渡したくない……何処にもやりたくない……俺だけのモノにしたい……俺の事だけを想っていて欲しい……」
「ディルク……」
ディルクの言葉に、心が温かくなって充たされて行く……
「ディルクは……私に変な魔法でもかけてるんじゃないのかな……」
「ん?なんだ?それは?」
「だって……ディルクにそう言われたら、何も考えられなくなる……頭の中がディルクでいっぱいになっちゃう……」
「ハハ……じゃあもっとそうなって貰わないとな。」
「ダメだ!これ以上は頭がパンクするっ!」
「可愛い事を言い過ぎだ……」
またディルクの唇が私の唇を塞ぐ……
そっと唇を離すと、ディルクが微笑む。
この笑顔に私は弱いんだろうな……
「あ、私も用意しないと!じゃあまた後でっ!」
「あぁ。」
部屋を出て、聖女の部屋へ戻る。
部屋の前にはメイド達が待ち構えていて、中に入ると即座に法衣のドレスに着替えさせられ、髪を結って化粧を施される。
この一連の流れに少し慣れてきた自分が怖い……
自分のドレス姿も、少し見慣れてきた。
ここに連れて来られてから、私は常に女性として扱われたから、恥ずかしかったドレスも、普通に着れる様になった。
慣れって恐ろしいんだな……
用意が終わると侍従に連れられディルクの部屋まで行き、それからディルクと一緒に部屋へ向かう。
昨日の会場とは違う部屋で、そこにはシルヴィオ王と王妃が待っていた。
そこで朝食を摂りながら、ディルクはこの国の政治の内容について話をしていた。
ディルクが本当に国をより良くしていきたいって思っているのが感じとれて、それはここに住む人達を思っての事なんだと思うと、何だか凄く嬉しくなって、難しい話をしてるんだろうけどつい微笑んで聞いてしまう。
食事が終わり、ゾランに連れられてアンナのいる場所まで行く。
それにはエリアスもついてきた。
エリアスが悪い訳じゃないけど、一緒にお祭りを回ったから捕らえられて……
エリアスはアンナが人質にされたのを気にしていたんだろうな……
アンナがいる部屋に入って行く。
私達を見て少し不思議そうな顔をしてから、エリアスを見て顔を綻ばせた。
「エリアスさん!」
「アンナ、無事だったか?!」
「はい、全然大丈夫でした!」
「それなら良かった……」
「って言うより、こんな良い部屋で過ごせたし、食事も豪華だったし、皆私の言うことを聞いてくれるし、あ、外には出られなかったけど、凄く充実した日々だったんです!」
「そ、そうなのか……?」
「だから、エリアスさんには感謝の気持ちがいっぱいです!」
「そうなんだな……」
「それに……私、運命の人に出会えたんです……」
「えっ!?」
「ここの兵隊長さんと私、結婚することになったんですっ!」
「「えぇーっ!!」」
思わず私とエリアスが声を上げてしまった。
「だから一旦家に帰って、あ、その時彼が送ってくれるんですけど、私の両親に結婚の報告をして、それからまた王都まで戻って来て、彼と一緒に暮らすんですっ!」
「それは……良かった……」
「はいっ!全部エリアスさんのお陰ですっ!あ、アシュレイさんにもお礼を……あれ?」
「ん?」
「もしかして……アシュレイさんですか……?」
「あぁ、そうだ。アンナ、無事で良かった。」
「えぇーーっ!!アシュレイさんって、女性だったんですか?!しかもすごく綺麗っ!!全然分からなかったっ!」
「ハハ……」
「あ、アシュレイさんにも!あの時エリアスさんとお祭りに行けるように言って下さったから、彼に出会えたんです!ありがとうございますっ!!」
「いや、私のせいで人質にされたから……」
「こんな良い思いをして、結婚相手を見つけられたんですっ!貴方達は私の恋の恩人ですっ!」
「あ……うん、おめでとう……」
「はいっ!ありがとうございました!!」
終始テンションの高いアンナに圧倒されて、私とエリアスは一歩引いてしまった。
ディルクは唖然としていた。
でも、アンナが辛い思いをしてなくて良かった……
その事に、私とエリアスは安堵したんだ。
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