206 / 363
第六章
考えない
しおりを挟むディルクに腕輪を着けて、ディルクの弟を拐ったのは銀髪の女。
エリアスが母親を殺してしまった時にいたのが、銀髪の女と、赤子の女の子。
母親が亡くなった時、エリアスが父親に殺されそうになっているのを救って、連れて逃げた銀髪の女。
ディルクの弟を拐った銀髪の女と、エリアスを連れ逃げた銀髪の女は……同一人物……?
連れ去られる前は、腕輪は着いていなかった。
でも、孤児院にいた時は、既に腕輪は着いていた。
その銀髪の女は、私に似ているらしい。
そして、銀髪の女が連れていた女の子の名前は、アシュリーと言った。
「アシュレイ……?」
「あ、うん?」
「ちゃんと考えられるか?」
「え?何が……?」
「いや……いい。今はいい。」
「……弟は……男の子……」
「え……?あぁ、そうだな……」
「じゃあ……ディルクの弟を連れ去った銀髪の女とは……違うよね……」
「本当は……女の子だった……とか?」
「でも……弟って……」
「アシュレイは男の子として育てられただろ?」
「……うん……」
「アイツに……弟を……男を探して欲しかった……とか?」
「え?何?それ……分からない……」
「あ、そうだな、分かんねぇな。」
「でも……エリアスを連れ去ったのは……お母さん……」
「腕輪を着けたのは……そうだろうな。」
「同じ物を持ってたのかな……」
「そう、かもな……」
「私……ディルクとは……違うよね……」
「………」
「……違う……」
エリアスが私を肩を引き寄せる……
いい
答えなんか出なくてもいい
知らなくても良いことって、あるんだ
きっと
「あ、さっきの場所まで戻ろうか?なんか、勢いで来ちゃた感じだったな。」
「あ、あぁ、そうだな…」
それからすぐに、さっき歩いて行った場所まで空間移動で戻った。
それからただひたすら、街道を歩いて行った。
エリアスが私の手を繋いできた。
また私はエリアスの肘を掴んでたんだな……
ずっと歩いて日が落ちて来たので、野宿する場所を探して、それから野宿の用意をして食事の用意をする。
エリアスが食事の用意を手伝ってくれて、二人で食事を摂ってから、ゆっくりと焚き火の炎を見ていた。
「俺とアシュレイは……小っちぇ頃、会ってたんだな……」
「うん……その親子が私達だったら……会ってた……」
「俺……アシュレイと離れるのが嫌で……母親殺すとか……ハハっ……有り得ねぇ……」
「エリアス!それはまだ小さい頃だったから……っ!」
「あぁ、すまねぇ、気にしなくていいから……いや……俺……今も昔も変わんねぇなって思ってよ……」
「え?」
「今も離れたくなくて……ずっとアシュレイの傍にいる……」
「エリアス……」
「だから、もうどこにも行くなって、心配しなくて大丈夫だから。」
「うん……」
「アイツとは……」
「……え?」
「いや、何でもねぇ……」
そう口ごもってから、エリアスが手を握ってきた。
「今はお互いさ、余計な事は何も考えない様にしようぜ?……けど……ずっとこうやって、二人で色んな事考えたり励ましあったりしてさ……そんな感じで……これからもずっと……一緒にいよう?」
「え……」
エリアスの手が、私の頬を触る……
それからゆっくりと顔が近づいてくる……
一瞬……
何かが心の中で動いて……
でも……
私は思わず下を向いた。
エリアスは少し戸惑ってから、私の頭を胸に抱き寄せた。
エリアスの胸の音が、トクントクンって聴こえて、それが凄く心地良かった……
次の日も、次の街へ向かうべく、また街道を歩いて行く。
次の街迄はもう後一日程かかるみたいで、周りの森に魔物がいないかを探りながら、時には森に入って魔物の気配を手繰りながら、見つけたら魔物を即座に倒していって解体して……そんな事をしながら進んで行った。
ただ、少し前から、人に付けられているのに気が付いた。
付かず離れずで、エリアスも薄々気付いていた様だ。
また前みたいな、マルティノア教国の時の刺客みたいな感じで狙われているのかな、なんて話をしていたが、狙われる覚えもないし、何かをしてきそうな感じもなかったので、暫く様子を見ることにした。
野宿をしていても、遠く近くなく、見張られている感じがする。
気付かない振りをして、いつも通りな感じで遣り過ごす。
何を調べているのか……
何が知りたいのか……
気にはなるけれど、特に何をする訳でもなく、ただ二人で歩いて行く。
そうして街道沿いをひたすら歩いて行くと、ナルーラの街に着いた。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します
Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。
女性は従姉、男性は私の婚約者だった。
私は泣きながらその場を走り去った。
涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。
階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。
けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた!
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる