慟哭の時

レクフル

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第六章

考えない

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ディルクに腕輪を着けて、ディルクの弟を拐ったのは銀髪の女。


エリアスが母親を殺してしまった時にいたのが、銀髪の女と、赤子の女の子。


母親が亡くなった時、エリアスが父親に殺されそうになっているのを救って、連れて逃げた銀髪の女。


ディルクの弟を拐った銀髪の女と、エリアスを連れ逃げた銀髪の女は……同一人物……?


連れ去られる前は、腕輪は着いていなかった。


でも、孤児院にいた時は、既に腕輪は着いていた。


その銀髪の女は、私に似ているらしい。


そして、銀髪の女が連れていた女の子の名前は、アシュリーと言った。





「アシュレイ……?」

「あ、うん?」

「ちゃんと考えられるか?」

「え?何が……?」

「いや……いい。今はいい。」

「……弟は……男の子……」

「え……?あぁ、そうだな……」

「じゃあ……ディルクの弟を連れ去った銀髪の女とは……違うよね……」

「本当は……女の子だった……とか?」

「でも……弟って……」

「アシュレイは男の子として育てられただろ?」

「……うん……」

「アイツに……弟を……男を探して欲しかった……とか?」

「え?何?それ……分からない……」

「あ、そうだな、分かんねぇな。」

「でも……エリアスを連れ去ったのは……お母さん……」

「腕輪を着けたのは……そうだろうな。」

「同じ物を持ってたのかな……」

「そう、かもな……」

「私……ディルクとは……違うよね……」

「………」

「……違う……」


エリアスが私を肩を引き寄せる……

いい

答えなんか出なくてもいい

知らなくても良いことって、あるんだ

きっと


「あ、さっきの場所まで戻ろうか?なんか、勢いで来ちゃた感じだったな。」

「あ、あぁ、そうだな…」


それからすぐに、さっき歩いて行った場所まで空間移動で戻った。

それからただひたすら、街道を歩いて行った。

エリアスが私の手を繋いできた。

また私はエリアスの肘を掴んでたんだな……

ずっと歩いて日が落ちて来たので、野宿する場所を探して、それから野宿の用意をして食事の用意をする。

エリアスが食事の用意を手伝ってくれて、二人で食事を摂ってから、ゆっくりと焚き火の炎を見ていた。


「俺とアシュレイは……小っちぇ頃、会ってたんだな……」

「うん……その親子が私達だったら……会ってた……」

「俺……アシュレイと離れるのが嫌で……母親殺すとか……ハハっ……有り得ねぇ……」

「エリアス!それはまだ小さい頃だったから……っ!」

「あぁ、すまねぇ、気にしなくていいから……いや……俺……今も昔も変わんねぇなって思ってよ……」

「え?」

「今も離れたくなくて……ずっとアシュレイの傍にいる……」

「エリアス……」

「だから、もうどこにも行くなって、心配しなくて大丈夫だから。」

「うん……」

「アイツとは……」

「……え?」

「いや、何でもねぇ……」


そう口ごもってから、エリアスが手を握ってきた。


「今はお互いさ、余計な事は何も考えない様にしようぜ?……けど……ずっとこうやって、二人で色んな事考えたり励ましあったりしてさ……そんな感じで……これからもずっと……一緒にいよう?」

「え……」


エリアスの手が、私の頬を触る……


それからゆっくりと顔が近づいてくる……


一瞬……


何かが心の中で動いて……


でも……


私は思わず下を向いた。


エリアスは少し戸惑ってから、私の頭を胸に抱き寄せた。


エリアスの胸の音が、トクントクンって聴こえて、それが凄く心地良かった……






次の日も、次の街へ向かうべく、また街道を歩いて行く。

次の街迄はもう後一日程かかるみたいで、周りの森に魔物がいないかを探りながら、時には森に入って魔物の気配を手繰りながら、見つけたら魔物を即座に倒していって解体して……そんな事をしながら進んで行った。

ただ、少し前から、人に付けられているのに気が付いた。

付かず離れずで、エリアスも薄々気付いていた様だ。

また前みたいな、マルティノア教国の時の刺客みたいな感じで狙われているのかな、なんて話をしていたが、狙われる覚えもないし、何かをしてきそうな感じもなかったので、暫く様子を見ることにした。

野宿をしていても、遠く近くなく、見張られている感じがする。
気付かない振りをして、いつも通りな感じで遣り過ごす。

何を調べているのか……

何が知りたいのか……

気にはなるけれど、特に何をする訳でもなく、ただ二人で歩いて行く。


そうして街道沿いをひたすら歩いて行くと、ナルーラの街に着いた。







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