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第六章
皇帝 リドディルク
しおりを挟むゾランはダレルを拷問部屋で働かなくても良いように手回しをし、その情報が漏洩しない様に動いていた。
そしてダレルの名前を変え、別人として解放出来るように手筈を整えていた。
「恐らくラリサ王妃は、ベルンバルト皇帝の記憶に手を加えているのだと思われます。ですので、皇帝はラリサ王妃の事を覚えていないと思います。分かっていれば、連れ出したアシュリーさんの居場所を、ダレル殿を使って拷問させて言わせると言う事をしていたと思いますので……」
「そうだな……父上なら、そうするな。」
「ダレル殿を拷問部屋から解放する手続きをする際に、その事に気づきました。不思議と何の横槍も入らなかったのです。色んな可能性を考えて行動していたのですが、簡単に事が運びました。」
「わざとそうしている、と言う可能性は?」
「勿論考えましたが、それも全て払拭させました。その点はジルドの得意分野で、調べはきちんとされています。」
「それならば良い。が、細心の注意を払っておいてくれ。それから、解放する前にラリサ王妃と会わせる。」
「畏まりました。」
「それと……」
「エリアスと言う方の事ですか?」
「ラリサ王妃の言うエリアスと言う者が、アシュリーと共に旅をしている者なのかを調べて欲しい。それから、アシュリー達の動向も知りたい。」
「畏まりました。」
俺はそれから、後宮の邸から帝城へと住居を移すため、最小限の物を移動させるべく動く。
なるべくなら、時間があれば後宮に帰って来たかったからだ。
人も、連れて行くのは、帝城へ行きたがっている者を選抜し、邸に残りたい者はそのままにしておいた。
ゾランとジルドは一緒に来ると言ってくれた。
ミーシャと、実は野心家のコルネールもついてきた。
他にも何人か申し出て、十数人で帝城へと移り住む。
これは歴代の皇帝からすると、少ない人数なんだろう……
俺のいつも使っている部屋は、他の皇子や大臣等の官僚達のいる場所からは離れた場所にある。
なるべく人の思考が入って来ない場所を選んだら、そうなったのだ。
その周りに、ついてきた使用人達の部屋や働く場所を用意させる。
ひっきりなしに、様々な所から人が挨拶にやって来る。
まだ即位していないのに、俺に取り入ろうとする者達の醜悪な感情ばかりが頭に入ってくる。
最近気づいたが、部屋を事前に光魔法で浄化しておけば、やって来た者は少しは態度が改まるのだ。
どう改まるのかと言うと、つい本音を言ってしまったり、途中で自分の醜態に気づいたのか、帰りだしたりする。
それから、俺の妃候補が何人もいる事を知らされる。
本当に勘弁して欲しい……
ゾランには、第18皇子ヴェンツェルの教育と保護、補佐を徹底的にするように伝えた。
ゾランであれば体よく働き掛けてくれるだろう。
そして、やはり思っていた通り、俺の周りに暗殺者が何人もいた。
しかし、暗殺者の感情は強烈なのですぐに分かる。
勿論、暗殺者なので気配は消しているのだろうが、それと感情とは訳が違うのだ。
注意したところでどうにかなるものではない。
部屋の周りは結界を張っているが、近づいて来たのが分かった時点で、雷魔法で感電させて気絶させ、直ちに捕らえる。
捕らえた暗殺者に浄化魔法をかけると、すぐに口を割る。
感情を読めば、誰からの刺客かはすぐに分かるが、暗殺者は自分が捕まったと分かった瞬間に自害する。
その前に浄化し、自白させねば証拠とならないのだ。
そうやって俺の所に来た暗殺者は7人。
毒入りの贈り物の酒や食べ物は数えきれない。
俺の使用人を操ろうとしていたり、ハニートラップなんかも多かった。
こんな状態にウンザリしながらも、この国を投げ出してしまう事も出来ずに、ただ皇帝になるしかない自分の立場を恨みながらも、仕方なく身内が放つ刺客を捕らえ、自分の周りにいる者達に危害が及ばない様にやり過ごす。
気づけば即位する日となり、粛々と皇位継承の儀が行われた。
俺は皇帝になってしまったのだ。
帝国中が盛大に、お祭り騒ぎの様に祝い出す中、俺の心は浮かないままだった……
アシュリーがこの事を知ったら、何と思うだろうか……
俺はアシュリーに、待っていて欲しいと言ったんだ。
だから当初の目的通り、数年は皇帝として働いてやる。
そして自由になったら……
何を置いても、必ずアシュリーを迎えに行く。
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