慟哭の時

レクフル

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第五章

浄化魔法

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「思い付いた事って、どんな事なんだ?」

「この街にいる人全員を、今の光魔法で浄化する。」

「そんな事ができんのか?!」

「前にイルナミの街全体を、闇魔法と回復魔法で覆った事がある。それを光魔法にすると、街にいる人達が皆浄化されるかも知れない。」

「それが出来たらすげぇけど……大丈夫なのか?魔力とか……?」

「魔素を集めて魔力に変換する。ただあの時は、いつもよりも魔素が多かった時だったから街全体まで行き届かせる事が出来たけど、今回はどうか、やってみないと分からない。」

「街全体までしなくても良くねぇか?」

「私はこの国の人々の感覚も麻痺している様な感じがするんだ。じゃなかったら、平気で見世物を見に来るなんて事は出来ない筈だ。あれは普通の感覚じゃない。」

「確かにそうだな……」

「今はまだ帰ってきていない人達もいるから、実行するのは夜の方が良いかな。」

「そうすっか。ひとまずは……こいつはもう害は無いだろうし、一旦帰るか?」


どうしようか…と見ていると、子供達が私達を不安そうな顔で見ているのに気づいた。


「エリアス、子供達が不安がっている……安心させてあげたい。声をかけて、抱き締めてあげて欲しい……私は触れないから……」

「……そっか……そうだな。」


エリアスが子供達の元へ行って、ニッと笑って


「おい、ボウズ達、もう大丈夫だ。心配すんな。この街は良くなる。俺達がそうする。だから安心しろ?」


そう声をかけて、子供達の頭をワシャワシャしだした。

子供達はちょっと困惑した表情をする。


「エリアスっ!ちゃんと安心させてあげてっ!」

「え?これじゃダメか?」


私が子供達の元まで行って、目線を合わして


「もうこの教徒の男は何もしないからね。私達が他の皆もちゃんと守るから。もう嫌な事はさせないからね。」


そう言ってニッコリ微笑む。

子供達は少し安心した様に私達を見る。


「お腹すいた?ご飯でも作ろうか?」


その言葉に、やっと子供達は嬉しそうに微笑んだ。

それからキッチンを借りて、たっぷりの野菜と貝類を細かく切って煮込んだクリームスープを作って、ワイバーンの香草焼きを挟んだパンとサラダを用意した。

子供達は嬉しそうに、ワクワクした顔をしてテーブルにつく。

「じゃあ、皆、お祈りをして、それからいただきますしよう!」

「はいっ!」

「あ、やっと声が聞けた!」


アハハって笑い声が聞こえて、それから皆で食事を食べた。

エリアスが私を見つめている。


「どうした?エリアス?」

「やっぱすげぇな……」

「ん?何が?」

「アシュレイはすげぇよ……」

「だから何が……?」

「ったく、口の横にパンがついてる。このギャップにヤラれんだよな……」


エリアスが私の口元についてるパンを取って、自分の口に入れた。


「あっ!食べたっ!」

「本当だ!人のを食べた!」

「ダメなんだよっ!」

「えっ?!俺が悪いのか?!」

「謝ってー!」

「わ、悪かった……」


それから皆で笑いあって、楽しく食事をすることができた。

良かった……まだこの子達は笑える……

働きに出ている子達は、ちゃんと笑顔を取り戻す事が出来るだろうか……?
教徒の男は、一人隅の方で申し訳なさそうに食事をしていた。

子供達に害は無くても、急に馴れ合う事は出来ないだろう。
本当はイルナミの街のシスターの元に連れて行ってあげたいけど、あまりに人が増えすぎると、シスターだけではどうにも対応出来なくなる。

この街の人達皆が、ちゃんと変わってくれれば良いんだけど……

それから夜が来るまで、孤児院で待つことにした。

夜が来て、孤児院を出る。

子供達は不安そうな顔をして私達を見ていたけど、大丈夫だから、と言って街の中心部辺りに向かった。

そこには大きな教会が建てられてあって、この街のシンボルと言うのが伺える。

街の繁華街辺りは賑やかになっていき、冒険者達が集い出す。

奴隷と思われる子達も、疲れた様子で主に従い連れだって歩いて家路に着くようだ。

鉱山の方面から馬車が走ってくる。

剥き出しになった、荷物を乗せる為だけの様な簡単な作りの荷台に、ボロボロの服を着てやつれた子供達が乗せられている。


「エリアス……そろそろかな……」

「そうだな、この時間だったら、大概の奴は帰って来ているな。」

「じゃあ、始める。」


この辺りに漂う魔素を、目一杯集める。
前にイルナミの街で集めた時よりも、やはり魔素が少ない分集まりにくい……
それでも、大気中にある魔素を根刮ぎ奪うように、自分の両手に集める。


「アシュレイ…なんか……見えねぇけど、空気が動いてる感じがする……」

「やっぱり……あの時より……魔素が集めにくい……もしかしたらっ…エリアスや他の……人達の魔力も……奪ってしまうかも……知れないっ!」

「そんな事も出来んのか?!俺は構わねぇ。それは気にすんな!」

「分かった……」


体力が奪われていく……

自分の魔力も最大に集めているから、それも合わせてなんだろうけど……

魔素が……魔力が足りているかは分からないけど……これ以上は無理そうだ……


「俺の魔力も、ゴッソリ持ってかれちまってるみたいだな……」

「そろそろ限界だ……今から……光魔法を放つ……!」


天に向かって両手を上げて、街全体に行き届く様に思いながら、光魔法で浄化させる様に魔力を放出する。

淡く白い光が私から両手を通って、波紋が広がる様に街中に広がっていく……


「すげぇ……」


周りを確認するように見渡しながら、エリアスはただ呆然としている。

集めた全ての魔素を魔力に変換し、光魔法で浄化させて広げて行き、その魔力も底をついた時、私は膝から崩れ落ちる様に倒れ込んだ。


「アシュレイっ!」


咄嗟にエリアスが私の腰を掴んで、倒れない様に受け止める。


「ごめ……エリアス……」

「謝んなっ!大丈夫か?!」

「ふふ……ちょっと……力を使い……過ぎたかな……」

「笑い事じゃねぇぞ?!こんなになるまでっ!」

「暫く休めば……回復するから……エリアスの魔力も……奪って…ごめん……」

「謝んなっつってんだろ?!俺の事は気にすんな!」

「…エリアス……怒って……る…」

「……っ!……怒ってねぇよ……悪い…怒鳴って…」


それから安心した様に、私は眠ってしまった……






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