171 / 363
第五章
一時の安らぎ
しおりを挟むアデルを見送って、エリアスと2人で暫く星を眺めながら話をして、それからエリアスがもう少しここにいる、と言ったので、一人先に孤児院まで戻って来た。
孤児院の部屋を借りる事が出来たので、今日はそこで泊まらせて貰うことにした。
外套や肩当て、胸当て等を外して、体を浄化して寝る準備をして……
ベッドに横になって、一人思いに耽る……
アデルの記憶に占領されない様に、心を強く持つ様に思いながらも、ふとした瞬間に頭にアデルが見た映像が流れて来る。
男が笑いながら……私を……襲う……
怖くなって、助けを求める様に首飾りの石を握り締め、ディルクの事を思う。
怖い……
助けて……
ディルク……
そう思っていたら、無意識に空間を歪ませていた様で、目の前が暗くなり、違う景色が見えだした。
ここは……前にも来たことがある……
ディルクの部屋……
自分でも、そうしようと思って来た訳でもなかったので驚いたけど、目の前にいたディルクは、もっと驚いた顔をしていた。
「ごめん…ディルク……いきなり……」
「……君は……何故いきなり……どうやって…?」
「ディルク?」
「君は……誰だ?」
「……え……?」
「どうやって此処まで来た?」
「ディルク……私が……分からない……?」
「なぜ俺をディルクと……?」
「私を……忘れて……しまった……?」
涙が一つ一つ……勝手に溢れて来た……
なんで?
前に触れた時は私の事は忘れなかった。
でも今は忘れてる……?
なんで……?
悲しくて……
すぐに帰ろうと後ろを向いて、空間を作り出そうとして
「待ってくれ!」
ディルクが私の手首を掴んだ。
「触らないでっ!」
すぐにディルクの手を振り払う。
「あ……すまない……」
「違っ……!」
涙が知らずに溢れて来る……
「君から恐怖の感情が読み取れる……何か酷く恐ろしく感じる事でもあったのか…?」
泣き声にならないように手で口を覆い、左右に首を振る。
ディルクが私の頬に触れようと手を伸ばす。
その手から逃れる様に後退る。
「ダメっ!私に触ったらっ!またディルクが倒れてしまう……っ!」
「君は……そんな事まで知っているのか……?」
ディルクがゆっくりと私に近づく……
「君の……暖かい感情が流れてくる……」
「私を……忘れないって……言った……」
「俺が……?」
「忘れても……必ずまた思い出すって……」
「…………君は………」
ディルクがそっと私に触れる……
それからゆっくり……包み込む様に私を抱き締める……
「アシュリー……?」
「……私が分かる……?」
「アシュリー……だ……俺の……アシュリー……」
「ディルク……」
ディルクが私の口を塞ぐ様に口づけをする。
それから私を見つめて……
また確認する様に唇を重ねる……
その時、扉がノックされた。
驚いて、すぐにディルクから離れる。
「大丈夫だ。結界を張った。誰もこの部屋には入れない。」
ディルクが私を抱え上げ、ベッドまで連れて行く。
「ディルク……」
優しくベッドに寝かされると、それからまたディルクが唇を重ねて来る……
前より凄く強引に荒々しく……!
「ん……っ!ま、待って……っ!ディルクっ!」
「アシュリー……?」
「あ、いつ、息をすれば良いのか分からなくって……っ!」
「ハハ……そうか、すまない、アシュリー。」
それからまたディルクが私を求める様に、熱く口づける……
「ディルクっ!待ってっ…!」
「どうした…?アシュリー?」
アデルの記憶が重なる……
私は怖くて震えていた……
「この……恐怖の感情はどうした?」
「私は触った人の過去を知ることが出来て……酷い扱いを受けていた人の過去を見てしまったから……」
「この恐怖は……凄まじいな……」
「ディルクが取り除こうとしたら、また倒れちゃうかも知れないっ!」
「俺なら大丈夫だ。この恐怖を抱えて生きていく方が辛い筈だ。それに……俺を怖いと思われては何も出来ないしな。」
ディルクが私の頬を触ると、少しずつアデルの恐怖の記憶が薄れて行った……
「うっ……っ!」
「ディルクっ!」
「……大丈夫だ……アシュリーの感じた恐怖に比べれば……大したことはない……」
私の上に倒れ込む様に、ディルクが覆い被さる……
「ディルク……ありがとう……」
「ハハ……これで忘れた負い目が……少し無くなったかな……」
「私の事……どうして思い出せたの……?」
「アシュリーの……優しくて暖かい感情が思い出させてくれた……」
「なんで忘れてたの……?」
「……分からない……すまない……」
「もしかしたら……私のせいかも知れない……」
「そうなのか?」
「でも……思い出してくれた……」
「このアシュリーの暖かい感情は……やっぱり忘れられないな……」
「……ディルク……大好き……」
「俺も大好きだ……アシュリー……」
ディルクが私を強く抱き締める。
「もう、何があろうと絶対に忘れない……アシュリー…離したくない……何処にも行かせたくない……俺だけのものにしたい……ずっとそばにいて欲しい……」
「ディルク……?」
「愛してる……アシュリー……」
「私も……ディルク……愛してる……」
「つ……っ!」
「ディルクっ!体が痛い?!大丈夫?!」
「あぁ……大丈夫だ……また……アシュリーがいるのに……何も出来ないとは……」
「何か…したかったの?」
「アシュリーを…俺のものにしたかった……」
「ディルク……」
優しい口づけが降ってくる……
ディルクの腕の中に収まるように横になる。
「……ディルクの心臓の音が聞こえる……すごく心地良い……」
「そんなことを聞くと……俺は抑えられなくなるぞ?」
「ダメだから……凄く体が痛い筈……凄い恐怖を取り除いたから……」
「ハハ……ダメだな……俺は……」
「もう無理はしないで……」
「あぁ……分かった……」
それからまた、ディルクが私を抱き寄せる……
「このまま……俺のそばにいてくれないか……?」
「ディルク……それは……」
「……やっぱり無理か……?」
「まだ……やらなきゃいけない事がある……」
「そうか……母親を探しているんだったな……」
「それもあるけど……」
「じゃあ、いつか俺と一緒になってくれるか?」
「え?」
「俺は……アシュリーしか考えられない……」
「でも……ディルクは貴族で……」
「関係ない……他には何もいらない……俺はアシュリーだけが欲しい……」
「ディルク……」
「俺と一緒になるのは嫌か?」
「ううん……嫌じゃない……けど……」
「そうだな……ずっとこの国にアシュリーをとどめてしまう訳にはいかないな……俺が自由になったら……」
「自由になれるの…?」
「必ずそうなる。そう出来るように、俺がしていく。だから……それまで待っていてくれないか……」
「うん……待ってる……」
「でも……」
「え?」
「やっぱり離したくないな……」
そうしてまた、苦しい位に私を抱き締める……
「離れていても、俺はいつもアシュリーを想っている。それを忘れないで欲しい。」
「私も……ディルクを想っている……だから……もう私を忘れないで……?」
それから何度も口づけをして……
寄り添う様に2人で眠る……
遠い昔に…同じ様にして眠った事があるような……
そんな気がした……
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる