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第五章
ケルニエの街
しおりを挟むアクシタス国の国境近くにある、マルティノア教国の街『ケルニエ』。
あまり大きな街では無さそうだったが、雰囲気はアクシタス国とは違った。
街の中心辺りに、一際大きな教会が目に入る。
流石は『教国』なんだな、と思って眺めていると、そこから教徒らしき人達が数人出てきた。
街の人々は即座に通り道を空け、その教徒達が前を通り過ぎる迄、ずっと頭を下げていた。
私達がその様子を、驚いた表情で見ていると、
「おいっ!アンタ達も頭を下げろ!」
そう言って、隣にいた冒険者風の男が、エリアスの頭を押さえ付けようとした。
それにはエリアスが反抗して、男のその手を弾き返した。
「なっ!何しやがるっ!」
男は良かれと思ってした事を、そんな風に返された事に、驚きと怒りの入り交じった表情でエリアスを睨む。
その様子を見ていた教徒の一人が私達の元までやって来た。
教徒が来たのを見て、男は即座に頭を下げた。
「何か揉め事ですか?貴方達は…旅の方でしょうか?」
「あぁ。そうだ。」
「この国では、我らアフラテス神を崇めるアフラテス教の使徒には、皆礼をもって接してくれています。貴方達もこの国にいる間だけでも、同じ様にされる事をすすめますよ。」
「……心得ておこう……。」
私がそう言うと、教徒はニッコリ笑って、元いた教徒達の所へ戻って行った。
エリアスは終始、教徒達を睨み続けていた。
エリアスがこんな態度にでるなんて……
いつも皆との和を大切に思っているエリアスなのに、この場所では普通ではいられなくなっている。
これは早くにこの街を出た方が良いかも知れない……
「……エリアス、落ち着けるか?」
「アシュレイ…すまねぇ。そうだな、落ち着かねぇとな。」
「おい!お前っ!俺に喧嘩売ってんのかっ!」
「あぁ、悪い。アンタに喧嘩を売るつもりはねぇ。俺が喧嘩を売りたいのは、アイツ等だ。」
男がエリアスの目線を辿ると、それは教徒達の後ろ姿だった。
「何だ?お前!教徒様達を敵に回そうってのか!?」
「あぁ?お前も信者かぁ?!」
「止めろ、エリアス。連れがすまなかった。ここに来たばかりで、私達は何も分かってないんだ。事を構えるつもりはない。」
「気つけろよ?!どこの馬の骨か分かんねぇが、調子ん乗ってんじゃねぇぞ!」
「…んだとっ!」
「エリアスっ!」
殴りかかりそうな勢いのエリアスの腕を止める。
男は気にせずに去っていった。
「エリアス……冷静になれるか?難しいか?」
「……アシュレイ……」
私の顔を見て、エリアスは大きくタメ息をつく。
「すまねぇ、アシュレイ。……悪かった。」
「やっぱり、この国に来ない方が良かったのかも知れない。エリアス、いつでも戻れるけど、どうする?」
「大丈夫だ。……俺も大人気ねぇよなぁ。…ったくよぉ……」
「……良かった。落ち着いて来た様だな。でも、いつでも帰れるから、あまり無理はしなくて良いから。」
「ありがとな、アシュレイ。気使わせて、悪かったな。」
「それは良いんだ。エリアスの気持ちも分からなくはないから。」
「……アシュレイがいてくれて良かったよ……」
「エリアス……」
私が心配そうに、エリアスの顔を伺う様に見つめていると
「あぁっ!くそっ!抱き締めてぇなっ!」
「えっ!?何?!エリアスっ!」
「大丈夫だ、何もしねぇよ。俺、ボウズに釘刺されてっから。」
「え?レクスに?何を?」
「アシュレイは前に襲われそうになった事があるから、無理にそうすると怖がるからダメだぞって。」
「……!レクス……」
「俺はアシュレイの嫌がる事はしねぇ。でも、アシュレイが良いって言ってくれたら、俺はすぐに抱きつく。」
「……ダメだな。」
「くそーっ!」
何とかいつもの感じに戻った様だ。
私はホッと一息ついた。
「じゃあエリアス、この街を色々見て回ろう!その前に宿をとろうか?それに素材も換金しないといけないし。あ、お昼ご飯もまだだったし、先に何か食べよう!」
「そうだな、アシュレイ。」
エリアスが微笑みながら言った。
良かった。
それから食事をして、エリアスと街をまわる事にしたんだ。
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