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第四章
何も知らない
しおりを挟む赤い髪のメイドについて行くと、大きなリビングに通された。
「こちらにどうぞ!」
ミーシャと呼ばれた少女はニコニコしながら、私達をソファーへ座るように促した。
その言葉に甘えて、ソファーに腰かける。
エリアスと2人で、どう話をしていったら良いのかを考えていると、少女がお茶とお菓子を持ってきた。
「ありがとう…すみません、ここが何処なのか、教えて頂けますか?」
「ここはネルティシアの街にある、リドディルク様のご自宅です。」
「ネルティシア……」
「ご存知ないですか?」
「はい……」
「どちらに行かれようとされていたんですか?」
「それは…」
「もしかして、愛の逃避行とかですか?!」
「え?」
「あ、それは言えませんよね!すみません!こんな綺麗な人と一緒なら、何処にだって連れて逃げたくなりますよね!」
「え、何を言って…」
「大丈夫です!分かっています!何も言わなくても分かっています!」
「あの、違う…」
「今日はお泊まりになられるでしょう?お部屋の用意をしてきますね!安心して下さい!誰にも言いませんから!」
そう言って彼女は何処かへ行った。
「何か、すげぇ勘違いする子だなぁ。」
「うん…どう言ったら良いんだろう?」
「まぁ、俺はそれでも何の問題もないけどな。」
「ネルティシアって、どこの国にある街なのかな?」
「しっかりスルーするよな。」
「えっ?」
「なんでもねぇよ。」
エリアスと話していると、執事の男がやって来た。
「ご紹介が遅れました。私は、執事をしております、コルネールと申します。」
「あ、私はアシュレイです。」
「俺はエリアスです。」
「うちのメイドが申し訳ありません。教育が行き届いてなくて……」
「いえ、こちらとしては助かりました。」
「あの、どこかの貴族の方でいらっしゃいますか?」
「え?あ、いえ、そうでは無いんです……すみません。」
「あ、いえ、それなら良いんです。失礼な事をお聞きしました。」
「あの、こちらもつかぬ事をお聞きしたいのですが……」
「はい、なんでしょうか?」
「ここは、どこの国なんでしょうか?」
流石にその質問に、コルネールと言う執事は戸惑った顔をしたが、
「…ここはオルギアン帝国でございます。」
と教えてくれた。
「オルギアン帝国……」
随分遠くまで飛ばされて来たんだな。
そう思っていると、目の前の空間が歪みだした。
異様な感じになっているので、思わず驚いて立ち上がり、その空間を見つめていると、グニャグニャに歪んだその空間から、2人の人が現れた。
それはディルクとゾランだった。
ディルクはゾランに支えられる様にその場に立っていた。
「ディルク!」
「アシュリー…!無事だったのか……」
私を見て、安堵の表情を浮かべた瞬間、ディルクがゾランの肩から崩れ落ちそうになった。
それをゾランが支え、コルネールもディルクを支えた。
「リドディルク様!」
「これはどういう事ですか!ゾラン!」
「きゃあっ!リディ様!!」
皆が集まってきて、ディルクを支えて連れて行った。
何も出来ずに、ただ呆然とその場に立ちすくんでいると、エリアスが
「アイツ、貴族だったんだな?」
と聞いてくる。
「知らない……」
「え?」
「私……ディルクの事、何も知らない……」
そうだ。
私はディルクの事を何も知らないんだ。
彼が貴族だった事も、名前がリドディルクだったと言う事も、あの女騎士と知り合いだった事も、オルギアン帝国から来ていた事も。
私はディルクの事を何も知らなかったんだ……
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