慟哭の時

レクフル

文字の大きさ
上 下
113 / 363
第四章

救いの手

しおりを挟む

次の日、ゾランと一緒にインタラス国の王都へ行く事にする。

しかし、空間魔法は俺以外でも移動する事ができるのか?

それを試す為にも、ゾランが必要だ。



インタラス国の王都コブラル。


城壁が10m程あり、城の周りには水路がある。

城に入るのは架け橋を渡るのだが、夜になるとこの架け橋は上げられ、出入りが出来ないようになっている。

入るのも、身分証明書が必要なので、俺はギルドカードを見せていたな。



そこまで思い浮かべると、目の前が歪みだした。

それにはゾランが驚いた。

俺の後に続くように言うと、何も言わずに頷いてついてきた。

気づくとそこは、王都コブラルの城壁の外だった。

俺とゾランは空間移動ができたのだ。

門の前には、長い行列が出来ていた。

入るのに暫くかかりそうだな、と思っていた時、目の前が突然光りだす。

この現象には覚えがある。

光が消えると、そこにはルキスがいた。


「ルキス、どうした?」


ルキスが俺の前に現れるのは、アシュリーの時以外では、幼かった頃以来だった。

ルキスが困った顔をして、俺に助けを求めに来たのだ。


「アシュリーが大変なの!お願い!あの娘を助けて!」


「アシュリーはどこにいる?!」

そう言うと、ルキスは俺の頭を両手で抱える様にして、それから自分の額を俺の額にそっとつけてきた。

ルキスの頭の中から、街道の映像が俺の頭の中に流れてくる。

その街道を思い浮かべていると、空間が歪みだした。

すぐにその歪みに入っていく。

それにゾランも続いた。


歪みを抜けると、街道があった。

そこにはアシュリーが肩から大量の血を流し倒れていた。


「アシュリー!!」


すぐに駆け寄って彼女を抱える。

「ディルク!何でいるんだ!?」

「そんな事はどうでもいい!アシュリーは何故こうなった?!」

「盗賊に襲われてた馬車を助けに行ったんだ!でも、一人凄い強いヤツがいてさ、アッシュに氷の矢をあてたんだ!」

「分かった!」

俺はアシュリーを抱え上げ、森の方へと移動した。

それから、左肩の出血を抑えるべく、手を当てる。


少しずつ、少しずつ、アシュリーの出血は止まっていく。

「アッシュは、自分にも回復魔法が発動してるから、そのうち良くなるって言ってたぞ?!」

「そうか!しかし、この出血量では、回復が追い付かないかも知れない!」


続けて手を当てる。

視界が揺れてグラグラしてきた。

それでも構わずに手を当てる。

血が失われて行く感覚がして、異常に体が寒く感じる。


「リドディルク様、もう止めて下さい!」

「まだ大丈夫だ。」

「ディルク!なんか血がでてるぞ?!」

「リドディルク様!もうダメです!」


気付くと俺はゾランに離されていた。

俺の口と目から、血が流れていたのを見て、レクスも慌てた表情をしていた。


「まだ……大丈夫だ………」

「ディルク!ディルクの方が危なくなってるぞ!もうやめろよ!」

「リドディルク様!もう大丈夫な筈です!やめて下さい!」



でも、アシュリーはまだ目覚めないんだ。


アシュリーがこのまま目覚めなかったら……


そう思うと、俺はアシュリーから離れる事が出来なかった。


ゾランの手を払い、再びアシュリーの元に行く。


それからそっと抱き締めて、アシュリーの頬を撫でる。


静かにアシュリーの優しい気持ちが流れてきた。



良かった……




「ディナ!」

ルキスがディナを呼ぶ。

ディナが空間に歪みを作ってやって来た。

「どうしたのかしら?」

「ディルクが大変よ!彼を家まで返してあげて!」

「大丈夫なのかしら?!こんなになって!」

「リドディルク様!しっかりして下さい!」

「…ゾラン………」

「リドディルク様!私が分かりますか?!」

「アシュリーを……たの………」

「ディナ!お願い!」

「分かったわ。」



薄れて行く意識の中で……



俺はアシュリーの無事をただ祈っていた……



そう思って そのまま



俺の意識は暗闇に落ちて行った………





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。 女性は従姉、男性は私の婚約者だった。 私は泣きながらその場を走り去った。 涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。 階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。 けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた! ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...