慟哭の時

レクフル

文字の大きさ
上 下
89 / 363
第三章

腕輪

しおりを挟む

レクスがディルクを探しに行った時、ディルクは家から出てきたところだったと言っていたが、私と一緒にオルグと話をしようと思ったようで、マリーの家に訪ねに行くところだったそうだ。

3人でそんな話をしながら歩いて、村長オルグの家にやって来た。


お茶を出すと言って、オルグが席を離れた間に、昨日ディルクがオルグと話した内容について聞かせて貰った。


母親代わりの女性から聞いた事だそうだが、ディルクの弟は、生まれてすぐに銀髪の女に連れ去られたらしい。

その女がなぜ弟を連れ去ったのかは分からないが、それからいくら探しても弟と銀髪の女は見つからなかったそうだ。

弟が連れ去られた時、近くで寝ていたディルクの手首に腕輪がされてあったらしい。

その腕輪をオルグに見せたら、それは村にあった宝で間違いなかったようで、かなり驚かれたと言っていた。

一日のうちに、私とディルクから部族の宝だった物を見せられたら、それは驚く他ないだろう。



そこまで聞いたところで、オルグがお茶を持ってやって来て、お茶を置いた。

ちゃんと、レクスの分も置いてくれていた。


「昨日、ディルク殿と話しましてな。
いやはや、驚きました。部族の宝を一日にあんなに目にする事になるとは。」

「ディルク、その腕輪って…」

言い終わる前に、ディルクは左手を私の目の前辺りにかざした。

袖に隠れていた銀色の腕輪がキラリと輝いて、ディルクの手首からその姿を覗かせた。


「その腕輪……」


見覚えがある。

その腕輪は、私も持っている。

それは、ナディアから譲り受けた腕輪。

私の持っている腕輪は、御守りの石に魔法の付与がつけてある物。

ディルクのそれは、青い石がいくつかついていて、石以外の所が、私の持っている腕輪と仕様が変わりないのだ。


驚いた顔をして見ていると、

「どうした?」

と、ディルクが顔を覗き込んできた。

「あ、いやっ…」

ビックリして顔を反らす。

こんな顔が近くなのは心臓に悪い!


「その腕輪に見覚えがあって……」

「どこで見た?!」

ディルクが真剣な顔で問い詰める様に聞いてきた。

こんなディルクを初めて見た…

戸惑っていると

「あ、悪い、つい……」

「いや、気にしなくて大丈夫だ。私の持っている腕輪とよく似ている。これはナディアと言う女性から譲り受けた物だ。」

「ナディアがアシュレイ殿に?!見せてはもらえんか?!」

私は空間魔法に納めていた腕輪を取り出し、テーブルに出す。 

オルグは腕輪を手に取り、マジマジと確認するように色んな角度から見ている。

「これは、ディルク殿が持っている腕輪を模して作られた物の様ですな。石は魔法の付与があるようだが、特に目立った能力が使えると言う物ではなく、全般的に能力が少し上がる、と言ったものでしょうな。」

「そうですね、その様な効果のある物と言うのは分かっていました。
今これ以上の能力は私には必要ないので、身につけてはいなかったのですが。」

「その、ナディアと言う人は何者だ?」

「私の義母でしてな。アシュレイ殿から昨日聞いたんですが、ヘクセレイと言う街にいたそうです。村が襲われた時に別々になってしまった、私と同じ部族の者です。」

「ずっと同じ部族の人達に会えるのを待ちながら、ヘクセレイを魔法の街と呼ばれる位に発展させた人だ。」

「その人が弟を連れ去った可能性はないか?」

「……っ!ディルクっ!それはないっ!と、……思う。私が会ったときの印象だが、心が穏やかな人で、とても優しい目をした人だった…」

「そうですな…ナディアは昔から、優しくて、どちらかと言うと物静かで大人しい女性でしたな。しかし、芯はしっかりしていて、頼りになる人でした。そんな彼女が、生まれたばかりの赤子を連れ去るとは考えにくい。しかし、もしそうしたならば、必ず何かしらの理由があるはずです。」

「…そうか。」

「ディルク…その腕輪は、一体どんな効果があるんだ?」

「…よく分かっていないんだ。しかし、これは俺の腕からは外れない。」

「外せないのか?!」

「あぁ。何度も外そうとしたんだけどな。」

「オルグは分かりますか?この腕輪の効果が何か。」

「申し訳ないが、分からんのです。昔の村の宝物庫には、数多くの宝と呼ばれる物がありましてな。その効果が語り継がれている物も数多くあったのですが、知る者が限られている宝もありましてな。その一つがその腕輪です。」

「俺の成長に合わせて、腕輪も大きくなってピッタリになるようになっている。物心つく前からつけられているから、どんな効果があるのか分かってはいない。ただ、もしかすると……」

「もしかすると?!」

「レクスが見える様に、他の霊も精霊も俺には見えるんだが、それはこの腕輪の効果の可能性がある。」

「そうなのか?」

「まぁ、仮定の話だけどな。」

「じゃあ、ずっと霊や精霊達が見えていたのか?」

「あぁ。物心つく前からそうだったようだ。よく誰もいない所に向かって、1人で喋っていたらしい。幼い頃は、霊と生きている人の区別が分かりにくかったよ。」

「私は青い石を手にしてから、精霊や霊が見えるようになった。しかし、レクス以外の霊は、皆大体うっすらしているから、霊だと言うのはすぐ分かる。精霊はハッキリ見えるんだが。」

「その石を初めて使ったのは、森の中でしたかな?」

「え?えぇ、そうです。ナディアからの伝言で、森の中で、と言う事でしたので。」

「それは良かった。能力を身に付けた時、最初に見えた者の影響が大きく残るようでしてな。最初に精霊ではなく霊が見えていたら、精霊より霊の方がしっかり見えていたでしょうな。森の中では、霊より精霊が多いのが普通ですからな。それに、少年は精霊の加護があるから見えやすいのでしょうな。」

「それで森の中でと…」

「俺は、アッシュの光の精霊が、リンデの木の枝に座ってろって言ってたから、あの場所にいたんだぞ!」

「アシュレイには光の精霊がついているのか。」

「え?あ、あぁ。そうだ。」

「黒くって、怖い感じのヤツもついてるぞ!」

「!闇の精霊か?!」

「どうした?!ディルク?!レクスの言う通り、私には闇の精霊がついているが……」

「いや、思い付いた事があってな。アシュレイ。この村を救えるかも知れないぞ。」

「どう言う事だ?!」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。 女性は従姉、男性は私の婚約者だった。 私は泣きながらその場を走り去った。 涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。 階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。 けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた! ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

処理中です...