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第二章
出会い
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気づくと、私は森の中にいた。
そこで眠っていた様だ。
今は夜で、そばで誰かが焚き火をしていた。
体を起こすと、自分の外套の上から、もう一枚外套が掛かってあるのが分かった。
「貴方は……誰?」
彼はゆっくりと振り返り、
「目が覚めたか。」
そう言って微笑んだ。
「そこで倒れてたんだ。旅に慣れてない訳でもなさそうなのに、無理をしてはいけないよ。」
コップを差し出して、彼は言う。
「ありがとう……」
受け取って口にしようとして
「あ!」
「ん?どうした?」
「あ、いや、乾杯しないとっ!」
「っ!ははっ!そうか、乾杯か!」
そう言って彼は、私のコップにコツンと自分のコップを軽くあてた。
コップに入った物を口にする。
それは温かいスープだった。
「あ、これスープだった。」
「はは、そうだな。」
なんだか、久しぶりに温かい物を口にした感じがする。
不意に涙が溢れてきた。
飲む前に乾杯するのは、レクスに教えて貰ったことだ。
思い出したら、涙がポロポロと溢れてくる。
彼は何も聞かずに、そばにいてくれている。
初めて会った人の前で泣くなんて。
また人との距離感を間違ってしまった。
自分が情けなくて嫌になる。
「心配してるヤツがいるんだ。投げやりになるなよ?」
彼は私にそう告げる。
私を心配する人なんてどこにいる?
皆私を忘れていくのに。
「あまり一人で溜め込むな。疲れた時は、誰かに寄っ掛かって良いんだからな?」
誰に寄っ掛かれって言うんだ?
私は誰にも触れてはいけないのに。
そう思っても、彼の言葉は温かくて、頑なになっていた私の心が少しだけ溶けていくようだった。
「貴方も旅人か?」
「あぁ。そうだな。人を探していてな。」
「私と一緒だ。」
「奇遇だな。」
お互い ふふふって笑い合う。
「貴方の名前は?」
「……ディルク。君は?」
「アシュレイ……」
「じゃあ、アシュレイ。君は疲れている。俺が火の番をしておくから、今日はゆっくり眠ると良い。」
「もう充分休んだから、今度はディルクが休んで欲しい。私が火の番をするから……」
「言ったろ?疲れた時は、誰かに寄っ掛かれば良いんだ。大丈夫だ。大丈夫だよ。アシュレイ。」
言い聞かす様に、私の頬に手を伸ばす。
その手を払いのける事もせず、なぜか再び涙が溢れてくる。
それからすぐに 眠りに落ちていく。
ディルクの声が微かに聞こえる……
東に行って 探している物を見つけておいで
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今は夜で、そばで誰かが焚き火をしていた。
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コップを差し出して、彼は言う。
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受け取って口にしようとして
「あ!」
「ん?どうした?」
「あ、いや、乾杯しないとっ!」
「っ!ははっ!そうか、乾杯か!」
そう言って彼は、私のコップにコツンと自分のコップを軽くあてた。
コップに入った物を口にする。
それは温かいスープだった。
「あ、これスープだった。」
「はは、そうだな。」
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不意に涙が溢れてきた。
飲む前に乾杯するのは、レクスに教えて貰ったことだ。
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また人との距離感を間違ってしまった。
自分が情けなくて嫌になる。
「心配してるヤツがいるんだ。投げやりになるなよ?」
彼は私にそう告げる。
私を心配する人なんてどこにいる?
皆私を忘れていくのに。
「あまり一人で溜め込むな。疲れた時は、誰かに寄っ掛かって良いんだからな?」
誰に寄っ掛かれって言うんだ?
私は誰にも触れてはいけないのに。
そう思っても、彼の言葉は温かくて、頑なになっていた私の心が少しだけ溶けていくようだった。
「貴方も旅人か?」
「あぁ。そうだな。人を探していてな。」
「私と一緒だ。」
「奇遇だな。」
お互い ふふふって笑い合う。
「貴方の名前は?」
「……ディルク。君は?」
「アシュレイ……」
「じゃあ、アシュレイ。君は疲れている。俺が火の番をしておくから、今日はゆっくり眠ると良い。」
「もう充分休んだから、今度はディルクが休んで欲しい。私が火の番をするから……」
「言ったろ?疲れた時は、誰かに寄っ掛かれば良いんだ。大丈夫だ。大丈夫だよ。アシュレイ。」
言い聞かす様に、私の頬に手を伸ばす。
その手を払いのける事もせず、なぜか再び涙が溢れてくる。
それからすぐに 眠りに落ちていく。
ディルクの声が微かに聞こえる……
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