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第4章
その刹那
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カルレスから連絡が入って、僕はすぐに帝城へと戻った。
急いで部屋へ行って、リュカを探す。
そこにはマドリーネがいて、ガタガタ震えて立ち尽くしているような状態だった。
マドリーネは僕を見るなり、詰め寄って来た。
「ゾラン様! リュカさんはリオディルス様の寝室にいます! 早く! 早く止めて下さいっ! お願い致しますっ!」
「あ、あぁ、マドリーネ、分かった!」
涙をボロボロ流して、マドリーネは僕に訴える。こんな彼女を見たのは初めてだ。
言われてすぐに寝室に向かう。
そこには真っ黒の何かがあった……
そう思う程に、見える所が全て黒くなった、リュカと思われたモノが、そこにはいた。
それには流石に僕も驚いて、一瞬足が止まってしまう……!
こんなに……こんなになるまで呪いを奪い続けて……!
こんなに思い詰めて、誰にも助けを求めずに……!
「リュカ、もう止めるんだ! もう大丈夫だから! リュカっ!」
ゆっくりこちらを見たリュカは、顔だけはまだ黒くならずにいる状態で、けれどこれ以上呪い奪うと、もう取り返しがつかなくなるんじゃないか、と思われる程だった。
リュカは涙を流していて、僕をみて優しく微笑み、それからリオに触れた。
何故だ?! 僕の声が聞こえていないのか?!
すぐに止めさせようと腕を掴む。その腕は固くて、人の体温というものが何も感じられなかった。
リオの呪いを奪ったのか、今まで眠っていたリオが目を覚ましてリュカを見る。腕にあった黒い部分はすっかり無くなっていた。
リュカの、さっきまで普通であったその顔も、外側からゆっくりとジワジワ真っ黒になっていく……
「リュカっ!」
「えっ?! リュカ?! これが?!」
リオは全身黒くなったリュカを見て、ただ驚くしか出来なかったようだ。
そのリュカの体が歪みに消えていく……
どこに行った?! 家に戻ったのか?!
リュカっ!
不意にピンクの石を握りしめる……!
その時、やっとエリアスさんからの返事が聞こえる。
「エリアスさん! 聞こえますか?!」
『あぁ、ゾラン、聞こえてるぞ。やっとな、遺跡から出てこれたんだ』
「心配したんですよ! 何日も連絡が取れなくてっ! 無事ですか?!」
『あぁ、何とかな。……って、何日もって、あれから何日経ったんだ?!』
「エリアスさんと最後に話してから一週間です! 早く……早く帰って来てくださいっ! リュカがっ!」
『えっ?! 一週間っ?! そんなにか! ってか、リュカがどうしたんだよ?!』
「とにかく! すぐに帰って来てくださいっ!」
『分かった!』
間に合ってくれ! じゃないと……!
「お父様、どうしたんですか?! 何があったんですか?!」
「リオ……」
「あれは……あの黒くなったのはリュカだったんですか?! だって、黒くなる前の顔はリュカじゃなかった……肖像画で見た、アシュリー王妃と似ていて……!」
「そうだね……幻術がとれちゃたんだね。それはまた話してあげるよ」
「けど……どうしてリュカはあんなに真っ黒になってしまったんですか?! 助かるんですか?!」
「リオやテオにあった黒い皮膚の症状はね、呪いだったんだ。それをリュカは奪ったんだよ」
「え……それはどういう……」
テオは怖いモノでも見たかのようにずっと泣いていて、僕はテオを抱き上げてリオのベッドに座り、これまでの事を話した。
リオはそれを聞きながら涙を流し、ただ僕と同じ様にリュカの無事を祈るしか出来なかった……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ニレの木の元へ帰ってきた
もう上手く歩く事もできない
腕もちゃんと動かない
エリアス、私すごく頑張ったんだよ?
まだ帰って来てくれないの?
こうしてずっと待ってるんだよ
ねぇ、エリアス……
そうしていたら、何かがこっちに来るのが分かった。
ここに来れるのはエリアスしかいない。そうだ、エリアスだ!
やっと帰って来てくれた!
あぁ、でもぼやけてエリアスの顔がちゃんと見えない……もっと近寄ってくれないと、見えないよ……
私ね、ずっとね、ずっと、エリアスにギュッてして貰いたかったんだぁ
エリアスの傍に行きたいけど、脚ははもう動かなくて、エリアスを迎え入れるように何とか腕を広げる。
「リュカ……」
微かに耳元で声が聞こえる。
エリアスの声だ……ずっと求めてた、エリアスがここにいる……
エリアスの体温と匂いが……微かだけれど感じられて
それが嬉しくて
すごくすごく嬉しくて
「おか……え……り……お、とう……さ……」
振り絞るように、今まで言えなかった事を言った
やっとそう呼べたよ
エリアス……ううん、お父さん
ありがとう
帰って来てくれて
嬉しいよ
ありがとう
大好きだよ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゾランからの連絡で、すぐにリュカの元へと空間移動で飛んでいく。
嫌な予感しかしねぇ!
移動するこんな僅かな時間が惜しくって、気ばっかりが焦る!
着いたのはニレの木がある場所
そこには真っ黒な何かがあった。
辺りを見渡してリュカを探すけれど、リュカは見当たらない。
この黒いのは……
嘘だろ……
これがリュカなのか?!
なんでこんな事になってるんだよ?!
急いで駆け寄ると、腕がゆっくり広がっていく
「リュカっ!!」
膝を折って、思わずリュカを抱き締める
「リュカっ! なんで……っ!」
「おか……え……り……お、とう……さ……」
「え……」
微かに耳元で、そんな声が聞こえたその刹那
抱き締めていた真っ黒になったリュカの体が
弾け飛ぶようにして真っ黒の霧のようになって俺の腕の中から消えた
今まであったその形は何もなくなっていて
リュカが身に付けていた服が俺の腕に乗っかってるような感じで
何が起こったのか分からずに
辺りを見渡してリュカの姿を探すけれど
そこには誰もいなくって
リュカの服と
靴と
ピンクの石の首飾りと
黒の石のピアスと
能力制御の腕輪が二つ
俺の膝元に落ちてあった
「え……? うそ……だろ……?」
何がなんだか分からねぇ
何が起きた?
リュカはどこにいった?
なんでリュカの身に付けていたモノだけがここにある?
どうなった?
何一つ理解する事ができなくて
俺はただ 呆然とその場から動く事ができずにいて
思考がうまくまとまらなくて
今 目の前で起きたこの現象を
俺は理解出来なかった
理解 したくなかった
急いで部屋へ行って、リュカを探す。
そこにはマドリーネがいて、ガタガタ震えて立ち尽くしているような状態だった。
マドリーネは僕を見るなり、詰め寄って来た。
「ゾラン様! リュカさんはリオディルス様の寝室にいます! 早く! 早く止めて下さいっ! お願い致しますっ!」
「あ、あぁ、マドリーネ、分かった!」
涙をボロボロ流して、マドリーネは僕に訴える。こんな彼女を見たのは初めてだ。
言われてすぐに寝室に向かう。
そこには真っ黒の何かがあった……
そう思う程に、見える所が全て黒くなった、リュカと思われたモノが、そこにはいた。
それには流石に僕も驚いて、一瞬足が止まってしまう……!
こんなに……こんなになるまで呪いを奪い続けて……!
こんなに思い詰めて、誰にも助けを求めずに……!
「リュカ、もう止めるんだ! もう大丈夫だから! リュカっ!」
ゆっくりこちらを見たリュカは、顔だけはまだ黒くならずにいる状態で、けれどこれ以上呪い奪うと、もう取り返しがつかなくなるんじゃないか、と思われる程だった。
リュカは涙を流していて、僕をみて優しく微笑み、それからリオに触れた。
何故だ?! 僕の声が聞こえていないのか?!
すぐに止めさせようと腕を掴む。その腕は固くて、人の体温というものが何も感じられなかった。
リオの呪いを奪ったのか、今まで眠っていたリオが目を覚ましてリュカを見る。腕にあった黒い部分はすっかり無くなっていた。
リュカの、さっきまで普通であったその顔も、外側からゆっくりとジワジワ真っ黒になっていく……
「リュカっ!」
「えっ?! リュカ?! これが?!」
リオは全身黒くなったリュカを見て、ただ驚くしか出来なかったようだ。
そのリュカの体が歪みに消えていく……
どこに行った?! 家に戻ったのか?!
リュカっ!
不意にピンクの石を握りしめる……!
その時、やっとエリアスさんからの返事が聞こえる。
「エリアスさん! 聞こえますか?!」
『あぁ、ゾラン、聞こえてるぞ。やっとな、遺跡から出てこれたんだ』
「心配したんですよ! 何日も連絡が取れなくてっ! 無事ですか?!」
『あぁ、何とかな。……って、何日もって、あれから何日経ったんだ?!』
「エリアスさんと最後に話してから一週間です! 早く……早く帰って来てくださいっ! リュカがっ!」
『えっ?! 一週間っ?! そんなにか! ってか、リュカがどうしたんだよ?!』
「とにかく! すぐに帰って来てくださいっ!」
『分かった!』
間に合ってくれ! じゃないと……!
「お父様、どうしたんですか?! 何があったんですか?!」
「リオ……」
「あれは……あの黒くなったのはリュカだったんですか?! だって、黒くなる前の顔はリュカじゃなかった……肖像画で見た、アシュリー王妃と似ていて……!」
「そうだね……幻術がとれちゃたんだね。それはまた話してあげるよ」
「けど……どうしてリュカはあんなに真っ黒になってしまったんですか?! 助かるんですか?!」
「リオやテオにあった黒い皮膚の症状はね、呪いだったんだ。それをリュカは奪ったんだよ」
「え……それはどういう……」
テオは怖いモノでも見たかのようにずっと泣いていて、僕はテオを抱き上げてリオのベッドに座り、これまでの事を話した。
リオはそれを聞きながら涙を流し、ただ僕と同じ様にリュカの無事を祈るしか出来なかった……
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ニレの木の元へ帰ってきた
もう上手く歩く事もできない
腕もちゃんと動かない
エリアス、私すごく頑張ったんだよ?
まだ帰って来てくれないの?
こうしてずっと待ってるんだよ
ねぇ、エリアス……
そうしていたら、何かがこっちに来るのが分かった。
ここに来れるのはエリアスしかいない。そうだ、エリアスだ!
やっと帰って来てくれた!
あぁ、でもぼやけてエリアスの顔がちゃんと見えない……もっと近寄ってくれないと、見えないよ……
私ね、ずっとね、ずっと、エリアスにギュッてして貰いたかったんだぁ
エリアスの傍に行きたいけど、脚ははもう動かなくて、エリアスを迎え入れるように何とか腕を広げる。
「リュカ……」
微かに耳元で声が聞こえる。
エリアスの声だ……ずっと求めてた、エリアスがここにいる……
エリアスの体温と匂いが……微かだけれど感じられて
それが嬉しくて
すごくすごく嬉しくて
「おか……え……り……お、とう……さ……」
振り絞るように、今まで言えなかった事を言った
やっとそう呼べたよ
エリアス……ううん、お父さん
ありがとう
帰って来てくれて
嬉しいよ
ありがとう
大好きだよ
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ゾランからの連絡で、すぐにリュカの元へと空間移動で飛んでいく。
嫌な予感しかしねぇ!
移動するこんな僅かな時間が惜しくって、気ばっかりが焦る!
着いたのはニレの木がある場所
そこには真っ黒な何かがあった。
辺りを見渡してリュカを探すけれど、リュカは見当たらない。
この黒いのは……
嘘だろ……
これがリュカなのか?!
なんでこんな事になってるんだよ?!
急いで駆け寄ると、腕がゆっくり広がっていく
「リュカっ!!」
膝を折って、思わずリュカを抱き締める
「リュカっ! なんで……っ!」
「おか……え……り……お、とう……さ……」
「え……」
微かに耳元で、そんな声が聞こえたその刹那
抱き締めていた真っ黒になったリュカの体が
弾け飛ぶようにして真っ黒の霧のようになって俺の腕の中から消えた
今まであったその形は何もなくなっていて
リュカが身に付けていた服が俺の腕に乗っかってるような感じで
何が起こったのか分からずに
辺りを見渡してリュカの姿を探すけれど
そこには誰もいなくって
リュカの服と
靴と
ピンクの石の首飾りと
黒の石のピアスと
能力制御の腕輪が二つ
俺の膝元に落ちてあった
「え……? うそ……だろ……?」
何がなんだか分からねぇ
何が起きた?
リュカはどこにいった?
なんでリュカの身に付けていたモノだけがここにある?
どうなった?
何一つ理解する事ができなくて
俺はただ 呆然とその場から動く事ができずにいて
思考がうまくまとまらなくて
今 目の前で起きたこの現象を
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