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第4章
してしまった事
しおりを挟むエリアスが帰って来ない。
連絡もつかない。
ずっと一人で、不安で不安で仕方がない。
体にあった黒いのは、少しずつ小さくなってきている。それにすごくホッとする。
もうあの村とかには行かないようにしよう。もしかしたら、あの村の近くの他の街や村でも、黒くなる呪いが蔓延しているのかも知れないけれど……
助けたい気持ちはある。何もしなければ、あの人達は段々黒くなって息が出来なくなってそのまま真っ黒になって生き絶えてしまう。それを私が助ける事が出来るんなら、そうしてあげたい気持ちはある。
だけど、自分に黒くなった皮膚が広い範囲で見つけた時の恐怖が頭から離れなくて、怖くて怖くてここから動けない。
やっとあの時の半分位の大きさまでになってきて、少しずつ気持ちが落ち着いてきている状態で、前みたいに助けに行きたいって、どうしても思えなかった。
その事についての罪悪感がずっと胸にあって、誰かに、それは仕方がないよ、とか、それでもよく頑張ったよ、とか、自分を肯定してくれる言葉が欲しくって、それが叶わない今が辛く思えて仕方がない。
きっとエリアスにこの事を言えば、私が望む言葉をくれると思う。そして、どうすれば良いか解決に動いてくれるように思う。
こんな事なら、初めからちゃんとエリアスに言っておけば良かった。ちゃんと怒られておけば良かった……
今日も朝、寝室のベッドで目覚めて辺りを見渡す。
やっぱり帰ってきていない。
エリアスと最後にピンクの石で話をしてから四日経つ。
毎日一人で料理を作る。勿論、エリアスの分も。だけど帰って来ないから、結局それを次の食事で食べる。食べて貰おうと思って作った食事が食べて貰えないのも悲しい。
こういう事がいつまで続くの?
いつ帰ってくるの?
ずっとこうやって問いながら、私は一人で過ごしている。
朝食を摂ってから、帝城へ向かう。今日も家にいるつもりだけど、ゾランに日に一度は顔を出すように言われているから、いつも朝帝城のリオの部屋を訪れる。
でも、そこにはミーシャはいなくって、マドリーネだけがいた。
「あれ……マドリーネ?」
「あ、おはようございます」
「ゾランとミーシャは?」
「ゾラン様はお仕事で数日帰って来ないようなのです。ミーシャ様は熱を出されて……」
「え? ミーシャも?」
「そうですね。リオディルス様もテオデュロス様も、まだ熱がひかないようでして……お二人の風邪が移ったんでしょうか?」
「熱、まだひかないの? 大丈夫なの?」
「きっと大丈夫ですよ。あ、移っては困りますので、寝室には近寄らないで下さいね」
「あ、はい……」
ミーシャも風邪なのか……大丈夫かな?
ゾランはお仕事でいないのか……
マドリーネは消化の良さそうな食事を用意していて、それを寝室に持っていく準備をしていた。私がいても邪魔だから、その場を後にする。
一旦家に帰って、部屋を浄化させてから外に出る。
今日も良いお天気。風が気持ちいい。
だけど、やっぱり気が滅入ってる……
最近、リオにもテオにも会えてなくて、今日はミーシャとゾランにも会えなかった。会いたい人と会えないって、結構堪えるんだね……
そうだ、気分転換に買い物に行こう。
パイナポーも食べたいし、そうだ、エリアスの好きなエゾヒツジを買おう。それで、エリアスが帰って来るまでにクリームスープを作れるようになろう。
そう思い立って、すぐに帝都に行く。
帝都に着いて、いつもマドリーネと行く場所まで歩いて行く。
帝都は広くって、色んなお店もいっぱいあるけど、勿論住宅街もあって住人も多い。いつもここは人が多くて賑やかで活気があって、気持ちが沈んでいる今、ここなら元気を貰えそうな気がした。
なのに、今日は様子が違う……
露店でも閉まっている店が多くって、行こうと思っていた精肉店も閉まっていたし、鮮魚店も閉まってた。
パイナポーを売っていたお店も閉まってる。
今日はここら辺が休みの日なのかな?
そんなふうに思いながら歩いて行く。あ、調味料のお店は開いていた。中に入って、調味料とか香辛料を見ていく。ここには乾燥させた麺も売っていて、それも買おうとして手を伸ばすけど、少し高い場所にあって届かない。
背伸びして手を伸ばしているところで、それを後ろから取ってくれた手が見えた。その手を見て体がビクッとする。
その手の甲には黒くなった皮膚があった……
驚いて振り返るとその人は店員さんで、前もここにいた人だった。
「あ、ごめんね、驚かせたね」
「え……ううん……大丈夫……」
「この乾麺一つで良かったかな? 他に要るものはある?」
「それで良いです……あ、あの、その手にある黒いのは……」
「え? あぁ、なんだかね、最近出来たんだよ。少し熱が出てね。ここ最近体調を悪くして休んでいる店が多いけど、無理をしてでも開店させなきゃ食いっぱぐれるからね」
「そう……なんだ……」
なんで?!
なんでここに黒いのが……呪いがあるの?!
あそこは遠い場所で、ここまで届かない筈で……
私?
私が呪いをここに持ち込んだ……?
それ以外考えられない!
今休んでいる所は私が行った店とその近くにあった所で……そこから移っていったって事……?
どうしよう?! 私のせいだ! 私が呪いを広めてしまったんだ!
「どうしたんだ? 顔が真っ青だ。君も調子が悪いのかな?」
「ううんっ! だ、大丈夫っ! あ、お金っ!」
「あぁ、じゃあ銅貨五枚だ」
鞄から銅貨を取り出して渡す。その時に手に触れて、その呪いを左手から奪っていく。
「毎度あり……あれ? 手の甲の黒いのが無くなってる!」
「あ、本当だね!」
「何でだろ? まぁいいか、良かった。あ、じゃあこれ、商品ね。ありがとうございました!」
にこやかに手を振る店員さんに私も同じように手を振ってその場を後にする。
さっきからドキドキして、そのドキドキが止まらない。
どうしよう……どうしよう……
周りを見ても、今は目に見えてる所には、あの黒くなって嘆いている人は見当たらない。どうしたら良いんだろう?
道行く人に聞いて住宅街の方へと足を伸ばす。けれどそこも何もなく、ただ静かな状態があるだけだった。
いや、これが可笑しいのかも知れない。
普段ならこの時間はもっと賑やかで、それがこんなに静かなのはいつもと違うのかも知れない。
でも、住宅街まで来た事はなかったから、いつもとの違いが分からない。
あちらこちらへと漂うように歩きながら、でもどうしたら良いか分からなくって、また元いた場所まで戻って来る。
そうしてからハッと気づく。
私がここにいたら、また呪いを広げてしまうかも知れない。だからここにいない方が良い。
そう思ったら怖くなって、すぐに家まで帰って来た。
さっき奪った呪いを吐き出して、ニレの木にもたれ掛かって座る。
どうしよう……
どうしよう……
自分がしてしまった事に怖くなって、私はしばらくそのまま動けずにいたんだ……
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