黒龍の娘

レクフル

文字の大きさ
上 下
106 / 116
第4章

してしまった事

しおりを挟む

 エリアスが帰って来ない。

 連絡もつかない。

 ずっと一人で、不安で不安で仕方がない。

 体にあった黒いのは、少しずつ小さくなってきている。それにすごくホッとする。
 もうあの村とかには行かないようにしよう。もしかしたら、あの村の近くの他の街や村でも、黒くなる呪いが蔓延しているのかも知れないけれど……
 
 助けたい気持ちはある。何もしなければ、あの人達は段々黒くなって息が出来なくなってそのまま真っ黒になって生き絶えてしまう。それを私が助ける事が出来るんなら、そうしてあげたい気持ちはある。
 だけど、自分に黒くなった皮膚が広い範囲で見つけた時の恐怖が頭から離れなくて、怖くて怖くてここから動けない。

 やっとあの時の半分位の大きさまでになってきて、少しずつ気持ちが落ち着いてきている状態で、前みたいに助けに行きたいって、どうしても思えなかった。

 その事についての罪悪感がずっと胸にあって、誰かに、それは仕方がないよ、とか、それでもよく頑張ったよ、とか、自分を肯定してくれる言葉が欲しくって、それが叶わない今が辛く思えて仕方がない。

 きっとエリアスにこの事を言えば、私が望む言葉をくれると思う。そして、どうすれば良いか解決に動いてくれるように思う。
 こんな事なら、初めからちゃんとエリアスに言っておけば良かった。ちゃんと怒られておけば良かった……

 今日も朝、寝室のベッドで目覚めて辺りを見渡す。
 
 やっぱり帰ってきていない。
 エリアスと最後にピンクの石で話をしてから四日経つ。
 毎日一人で料理を作る。勿論、エリアスの分も。だけど帰って来ないから、結局それを次の食事で食べる。食べて貰おうと思って作った食事が食べて貰えないのも悲しい。
 こういう事がいつまで続くの?
 いつ帰ってくるの?
 ずっとこうやって問いながら、私は一人で過ごしている。

 朝食を摂ってから、帝城へ向かう。今日も家にいるつもりだけど、ゾランに日に一度は顔を出すように言われているから、いつも朝帝城のリオの部屋を訪れる。
 でも、そこにはミーシャはいなくって、マドリーネだけがいた。


「あれ……マドリーネ?」

「あ、おはようございます」

「ゾランとミーシャは?」

「ゾラン様はお仕事で数日帰って来ないようなのです。ミーシャ様は熱を出されて……」

「え? ミーシャも?」

「そうですね。リオディルス様もテオデュロス様も、まだ熱がひかないようでして……お二人の風邪が移ったんでしょうか?」

「熱、まだひかないの? 大丈夫なの?」

「きっと大丈夫ですよ。あ、移っては困りますので、寝室には近寄らないで下さいね」

「あ、はい……」


 ミーシャも風邪なのか……大丈夫かな?
 ゾランはお仕事でいないのか……

 マドリーネは消化の良さそうな食事を用意していて、それを寝室に持っていく準備をしていた。私がいても邪魔だから、その場を後にする。

 一旦家に帰って、部屋を浄化させてから外に出る。
 今日も良いお天気。風が気持ちいい。
 だけど、やっぱり気が滅入ってる……
 最近、リオにもテオにも会えてなくて、今日はミーシャとゾランにも会えなかった。会いたい人と会えないって、結構堪えるんだね……

 そうだ、気分転換に買い物に行こう。

 パイナポーも食べたいし、そうだ、エリアスの好きなエゾヒツジを買おう。それで、エリアスが帰って来るまでにクリームスープを作れるようになろう。

 そう思い立って、すぐに帝都に行く。

 帝都に着いて、いつもマドリーネと行く場所まで歩いて行く。
 帝都は広くって、色んなお店もいっぱいあるけど、勿論住宅街もあって住人も多い。いつもここは人が多くて賑やかで活気があって、気持ちが沈んでいる今、ここなら元気を貰えそうな気がした。

 なのに、今日は様子が違う……

 露店でも閉まっている店が多くって、行こうと思っていた精肉店も閉まっていたし、鮮魚店も閉まってた。
 パイナポーを売っていたお店も閉まってる。

 今日はここら辺が休みの日なのかな?
 
 そんなふうに思いながら歩いて行く。あ、調味料のお店は開いていた。中に入って、調味料とか香辛料を見ていく。ここには乾燥させた麺も売っていて、それも買おうとして手を伸ばすけど、少し高い場所にあって届かない。
 背伸びして手を伸ばしているところで、それを後ろから取ってくれた手が見えた。その手を見て体がビクッとする。

 その手の甲には黒くなった皮膚があった……

 驚いて振り返るとその人は店員さんで、前もここにいた人だった。


「あ、ごめんね、驚かせたね」

「え……ううん……大丈夫……」

「この乾麺一つで良かったかな? 他に要るものはある?」

「それで良いです……あ、あの、その手にある黒いのは……」

「え? あぁ、なんだかね、最近出来たんだよ。少し熱が出てね。ここ最近体調を悪くして休んでいる店が多いけど、無理をしてでも開店させなきゃ食いっぱぐれるからね」

「そう……なんだ……」


 なんで?!

 なんでここに黒いのが……呪いがあるの?!

 あそこは遠い場所で、ここまで届かない筈で……

 私?

 私が呪いをここに持ち込んだ……?

 それ以外考えられない!

 今休んでいる所は私が行った店とその近くにあった所で……そこから移っていったって事……?

 どうしよう?! 私のせいだ! 私が呪いを広めてしまったんだ!

 
「どうしたんだ? 顔が真っ青だ。君も調子が悪いのかな?」 

「ううんっ! だ、大丈夫っ! あ、お金っ!」

「あぁ、じゃあ銅貨五枚だ」


 鞄から銅貨を取り出して渡す。その時に手に触れて、その呪いを左手から奪っていく。

 
「毎度あり……あれ? 手の甲の黒いのが無くなってる!」

「あ、本当だね!」

「何でだろ? まぁいいか、良かった。あ、じゃあこれ、商品ね。ありがとうございました!」


 にこやかに手を振る店員さんに私も同じように手を振ってその場を後にする。

 さっきからドキドキして、そのドキドキが止まらない。

 どうしよう……どうしよう……

 周りを見ても、今は目に見えてる所には、あの黒くなって嘆いている人は見当たらない。どうしたら良いんだろう?
 
 道行く人に聞いて住宅街の方へと足を伸ばす。けれどそこも何もなく、ただ静かな状態があるだけだった。
 いや、これが可笑しいのかも知れない。
 普段ならこの時間はもっと賑やかで、それがこんなに静かなのはいつもと違うのかも知れない。

 でも、住宅街まで来た事はなかったから、いつもとの違いが分からない。

 あちらこちらへと漂うように歩きながら、でもどうしたら良いか分からなくって、また元いた場所まで戻って来る。
 そうしてからハッと気づく。

 私がここにいたら、また呪いを広げてしまうかも知れない。だからここにいない方が良い。

 そう思ったら怖くなって、すぐに家まで帰って来た。

 さっき奪った呪いを吐き出して、ニレの木にもたれ掛かって座る。

 どうしよう……

 どうしよう……

 自分がしてしまった事に怖くなって、私はしばらくそのまま動けずにいたんだ……
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...