黒龍の娘

レクフル

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第4章

怖い

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 リオと一緒に勉強したけど、その時もなんか調子が悪くって、それを心配したリオと先生が、今日はもう止めましょうって言って、私をベッドに連れていった。

 やっぱりまだフラフラしちゃう。
 きっとまだ、あの黒いのが私の体に残ってるんだ。これを早く吐き出さないといけない。

 私の様子を伺っているミーシャに帰りたいって言うと、一人でいるなんてダメよ!って言われて、なかなか離してくれそうにない。
 きっとミーシャは、私が遠慮して帰りたいって言ってると思ってるんだ。
 でも違うんだよ……家に帰った方が良くなるからなんだよ……

 善意で言ってくれてるミーシャにはそう言えなくて、暫くベッドで眠ることにする。

 頭がひんやりした、と思って目を覚ますと、リオが私のおでこに濡れたタオルを当ててくれていた。
 リオも心配してくれてるんだ。


「ありがとう、リオ」

「ううん、大丈夫? まだ体調戻って無かったんだね」

「少しね、少しだけだよ? リオ、家に帰って良い?」

「え? でも、エリアスさん、まだ帰って来てないんだろ? こんな時一人じゃ大変じゃないか」

「うん……でもね……帰りたいの……」

「そう、か……じゃあ、僕からお母様に言っておくよ。 何かあったら、すぐにここに来るんだよ? 絶対だよ?」

「うん、ありがとう……」

「あ、でもちょっと待って! 食事を摂ってからに……」


 リオが何か言ってたけど、とにかく早く帰りたくって、私はすぐに空間移動で家に帰って来た。
 外はもう陽が落ちていて、空には星がいっぱい光輝いていた。

 ニレの木に背を預けて、体から奪った呪いを吐き出していく。

 あぁ……体が楽になっていく……

 やっぱりここじゃないとダメなんだ。
 だってこの場所で吐き出さないと、あの呪いは悪さをするかも知れないから……

 もう大丈夫かな。

 全身にニレの木の魔力を取り入れるようにして大きく伸びをして深呼吸する。

 それから畑の野菜を収穫してから家に入って落ち着く。
 
 エリアスはまだ帰ってこない。連絡もない。
 どうしたのかな? 今日も帰ってこないの?
 会いたいのに、ギュッてしたいのに。してもらいたいのに。

 そうだ、帰ってきたらすぐに食事出来るように何か作ろう。簡単な物でいいよね。前にエリアスが作ってくれた、体に優しい野菜スープを作ろう。

 材料を細か目に切って、鍋にお水を入れて沸かして、野菜とお肉を入れて調味料で味を整えて……
 こうして作っている間に帰って来てくれたらいいのに。
 鍋を片手でグルグルかき混ぜながら、私はずっとピンクの石を握りしめていた。けど、エリアスからの返事はない。
 
 味見をしてみると、良い感じの味に出来上がってて、ひとりで「やった」って言うけど、その声は誰にも届かなくて……

 鍋に蓋をして火を止める。
 料理、終わっちゃった。

 お風呂、そうだ、お風呂に入ろう。もう遅い時間だもん。お風呂に入っておかなくちゃね。

 お湯の温度を魔法で調整していく。うん、凄く良いお湯。もう完璧だ。きっとエリアスなら誉めてくれる。バッチリだなって。流石だなって。

 不意に涙が溢れ出す。

 何をしても、誰にも何にも言って貰えない事がこんなに虚しいなんて思わなかった。
 まだ帰ってこないの? 早く帰って来てよ……
 心の中で何度もそう訴えるけれど、それはより虚しさを誘うだけで……

 ダメだ、一人でこんなふうに考えてちゃ。
 
 お風呂に入ろう。
 今日も一人だけど、一人でもちゃんと出来るって分かっても貰いたい。何にも出来ないから一緒にいたいとかじゃないって。

 服を脱いで気づく……

 太股あたりが……黒くなっている……

 腰にも黒いのがある……

 さっき吐き出したのに、なんで?!
 まだ全部吐き出せてなかったの?!

 急に怖くなってきた……

 肩にあったのも見てみる。

 大きくなってる……

 怖い……怖いよ……!

 エリアスっ! エリアス怖いっ!

 私も黒くなっちゃうの?! 全身黒くなって死んじゃうの?!

 どうしよう? どうしよう! 

 すぐにお風呂に入って、体を布でゴシゴシして、黒いのが無くなるように何度も擦り続ける。けど、黒くなった所は痛くも痒くもならなくて、何の感覚もしない。
 
 背中がゾクリとする……

 あの黒くなった人達みたいに、私も黒くなっちゃうの? 動けなくなって、黒いのが広がっていって、息が出来なくなって、そうして私も死んじゃうの?

 すぐに飛び込むようにお風呂にザブンって入った。
 呪いが出ていくように、洗い流せるように、何度もそう思って吐き出すようにして、体の中の呪いを追い出すように集中する……!

 涙が溢れて止まらない……

 さっきは寂しくて泣いちゃったけど、今は怖くてどうしようもなくて涙が出てくる……

 お風呂に入ってて温かい筈なのに、体はガタガタ震えて止まらない……!

 エリアス、エリアスっ! 助けて! エリアスっ!

 ピンクの石をギュッて握って、何度も何度もエリアスを求める。
 けれど、エリアスの声は聞こえない。

 恐る恐る肩を見てみる……

 あ……さっきより少し小さくなった……

 その事に凄く安堵して、またいっぱい涙が出てきて、思わず大きな声をあげて泣いちゃった。

 なんとかお風呂から上がって着替えて、もう一度黒いのを確認すると、太股のも、腰にあったのも、少し小さくなった感じがした。

 良かった……良かったよ……

 ここにいないとダメなんだ……

 ここにいてちゃんと呪いを体から無くさないとダメなんだ……

 それから寝室のベッドに一人で入って、今日もエリアスの枕を胸に抱いて、ピンクの石をずっと握りしめながら昨日と同じように一人で眠りにつく。

 朝起きると、まだエリアスは帰ってきていなかった。

 肩と腰と太股の黒くなった肌を確認する。
 少しだけ小さくなった。体調は少しフラフラする感じ。でも昨日よりは全然良い。
 やっぱりここにいた方が良い。それを伝えなくちゃ。けど、リオ達との連絡手段はない。だから仕方なく一度リオの部屋に行く必要がある。直接言うしかない。

 起き上がって居間へ向かう。そう言えば昨日夕食を食べてなかった。食べることすら忘れていた。食べるの大好きなのに、忘れるなんて出来るんだ……

 小麦で作った麺を茹でて、その上に昨日作ったスープをかけて朝食にする。うん、一晩寝かしたから、味が定着して美味しくなってる。我ながらよく出来たと思う。
 
 エリアスから連絡がない。今日は帰って来るのかな? 帰って来ないのかな?
 声が聞けないと不安で仕方がない。
 一緒にお風呂に入ったり寝なかったりしたから、私の事嫌いになったのかな……
 ううん、きっとそうじゃない。そうじゃないって分かってる。けど、ずっと一人だと不安でそんな事ばかり考えちゃう……

 とにかく一旦帝城に行かなくちゃ。行って、ゾランに家にいる事を言おう。
 本当は、誰かが家にいてくれたら良いのにって思う。けどそれは無理だから、誰もここには来れないから、エリアスと私しかここにはいられないから、一人でエリアスの帰りを待つしかない。

 着替えを済ませて帝城へ空間移動で向かう。

 リオの部屋には、ミーシャとゾランがいて朝食を摂っていた。


「あ、リュカちゃん、おはよう。早いのね。もう体調は良いの? 昨日は急に帰っちゃったから心配してたのよ?」

「ごめんなさい……あ、あの、体調は良くなってきたんだけど、まだ少し調子が戻ってないから家で休んでおこうって思って……」

「そうなの? 風邪でも流行ってるのかしら……リオとテオもね、熱が出て今寝ているのよ。リュカちゃんも一人じゃ何かと大変でしょう? ここでゆっくりしたらどうかしら?」

「ううん、家にいる。あの、リオとテオ、大丈夫なの?」

「僕が回復魔法を使ったんだけどね。まだ熱が下がらないんだ。僕の回復魔法はあまり強くないから、後でラリサ王妃にお願いしようと思ってるんだよ。だから大丈夫だよ。リュカこそ大丈夫かい?」

「うん。大丈夫」

「ここじゃなく、家にいた方が体が楽になりそうなのかい?」

「うん」 

「そうなんだね。じゃあ仕方がないね。あ、食事は終わったかい? 一緒にどうかな?」

「あ、大丈夫。食べてきたよ。自分で作れるし……」

「分かった。エリアスさんはまだ帰って来れないみたいだし、連絡が取れない。リュカもそうかな?」

「うん……」

「不安だよね。でも、エリアスさんならきっと大丈夫だよ。時間の感覚が可笑しくなっていたみたいだから、こんなに時間が経っているって気づいてないかも知れない。だから気にせずに待とうね。きっと無事で帰って来てくれる筈だからね」

「うん……!」

「昼食とかどうするんだい? 自分で作るのかい? こっちで用意しようか?」

「大丈夫だよ」

「そうか、分かった。明日も、もし家にいることになっても、一度こうやって来てくれないかな? じゃないとこちらから様子を見に行けないからね」

「うん、分かった」


 心配そうなミーシャとゾランだったけど、ゾランは私の家が特殊な事を知ってくれてるから助かる。
 
 けど、リオとテオが風邪をひいて寝込んでるのが心配。大丈夫かな……
 早く治ればいいのに……



 
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