104 / 116
第4章
怖い
しおりを挟むリオと一緒に勉強したけど、その時もなんか調子が悪くって、それを心配したリオと先生が、今日はもう止めましょうって言って、私をベッドに連れていった。
やっぱりまだフラフラしちゃう。
きっとまだ、あの黒いのが私の体に残ってるんだ。これを早く吐き出さないといけない。
私の様子を伺っているミーシャに帰りたいって言うと、一人でいるなんてダメよ!って言われて、なかなか離してくれそうにない。
きっとミーシャは、私が遠慮して帰りたいって言ってると思ってるんだ。
でも違うんだよ……家に帰った方が良くなるからなんだよ……
善意で言ってくれてるミーシャにはそう言えなくて、暫くベッドで眠ることにする。
頭がひんやりした、と思って目を覚ますと、リオが私のおでこに濡れたタオルを当ててくれていた。
リオも心配してくれてるんだ。
「ありがとう、リオ」
「ううん、大丈夫? まだ体調戻って無かったんだね」
「少しね、少しだけだよ? リオ、家に帰って良い?」
「え? でも、エリアスさん、まだ帰って来てないんだろ? こんな時一人じゃ大変じゃないか」
「うん……でもね……帰りたいの……」
「そう、か……じゃあ、僕からお母様に言っておくよ。 何かあったら、すぐにここに来るんだよ? 絶対だよ?」
「うん、ありがとう……」
「あ、でもちょっと待って! 食事を摂ってからに……」
リオが何か言ってたけど、とにかく早く帰りたくって、私はすぐに空間移動で家に帰って来た。
外はもう陽が落ちていて、空には星がいっぱい光輝いていた。
ニレの木に背を預けて、体から奪った呪いを吐き出していく。
あぁ……体が楽になっていく……
やっぱりここじゃないとダメなんだ。
だってこの場所で吐き出さないと、あの呪いは悪さをするかも知れないから……
もう大丈夫かな。
全身にニレの木の魔力を取り入れるようにして大きく伸びをして深呼吸する。
それから畑の野菜を収穫してから家に入って落ち着く。
エリアスはまだ帰ってこない。連絡もない。
どうしたのかな? 今日も帰ってこないの?
会いたいのに、ギュッてしたいのに。してもらいたいのに。
そうだ、帰ってきたらすぐに食事出来るように何か作ろう。簡単な物でいいよね。前にエリアスが作ってくれた、体に優しい野菜スープを作ろう。
材料を細か目に切って、鍋にお水を入れて沸かして、野菜とお肉を入れて調味料で味を整えて……
こうして作っている間に帰って来てくれたらいいのに。
鍋を片手でグルグルかき混ぜながら、私はずっとピンクの石を握りしめていた。けど、エリアスからの返事はない。
味見をしてみると、良い感じの味に出来上がってて、ひとりで「やった」って言うけど、その声は誰にも届かなくて……
鍋に蓋をして火を止める。
料理、終わっちゃった。
お風呂、そうだ、お風呂に入ろう。もう遅い時間だもん。お風呂に入っておかなくちゃね。
お湯の温度を魔法で調整していく。うん、凄く良いお湯。もう完璧だ。きっとエリアスなら誉めてくれる。バッチリだなって。流石だなって。
不意に涙が溢れ出す。
何をしても、誰にも何にも言って貰えない事がこんなに虚しいなんて思わなかった。
まだ帰ってこないの? 早く帰って来てよ……
心の中で何度もそう訴えるけれど、それはより虚しさを誘うだけで……
ダメだ、一人でこんなふうに考えてちゃ。
お風呂に入ろう。
今日も一人だけど、一人でもちゃんと出来るって分かっても貰いたい。何にも出来ないから一緒にいたいとかじゃないって。
服を脱いで気づく……
太股あたりが……黒くなっている……
腰にも黒いのがある……
さっき吐き出したのに、なんで?!
まだ全部吐き出せてなかったの?!
急に怖くなってきた……
肩にあったのも見てみる。
大きくなってる……
怖い……怖いよ……!
エリアスっ! エリアス怖いっ!
私も黒くなっちゃうの?! 全身黒くなって死んじゃうの?!
どうしよう? どうしよう!
すぐにお風呂に入って、体を布でゴシゴシして、黒いのが無くなるように何度も擦り続ける。けど、黒くなった所は痛くも痒くもならなくて、何の感覚もしない。
背中がゾクリとする……
あの黒くなった人達みたいに、私も黒くなっちゃうの? 動けなくなって、黒いのが広がっていって、息が出来なくなって、そうして私も死んじゃうの?
すぐに飛び込むようにお風呂にザブンって入った。
呪いが出ていくように、洗い流せるように、何度もそう思って吐き出すようにして、体の中の呪いを追い出すように集中する……!
涙が溢れて止まらない……
さっきは寂しくて泣いちゃったけど、今は怖くてどうしようもなくて涙が出てくる……
お風呂に入ってて温かい筈なのに、体はガタガタ震えて止まらない……!
エリアス、エリアスっ! 助けて! エリアスっ!
ピンクの石をギュッて握って、何度も何度もエリアスを求める。
けれど、エリアスの声は聞こえない。
恐る恐る肩を見てみる……
あ……さっきより少し小さくなった……
その事に凄く安堵して、またいっぱい涙が出てきて、思わず大きな声をあげて泣いちゃった。
なんとかお風呂から上がって着替えて、もう一度黒いのを確認すると、太股のも、腰にあったのも、少し小さくなった感じがした。
良かった……良かったよ……
ここにいないとダメなんだ……
ここにいてちゃんと呪いを体から無くさないとダメなんだ……
それから寝室のベッドに一人で入って、今日もエリアスの枕を胸に抱いて、ピンクの石をずっと握りしめながら昨日と同じように一人で眠りにつく。
朝起きると、まだエリアスは帰ってきていなかった。
肩と腰と太股の黒くなった肌を確認する。
少しだけ小さくなった。体調は少しフラフラする感じ。でも昨日よりは全然良い。
やっぱりここにいた方が良い。それを伝えなくちゃ。けど、リオ達との連絡手段はない。だから仕方なく一度リオの部屋に行く必要がある。直接言うしかない。
起き上がって居間へ向かう。そう言えば昨日夕食を食べてなかった。食べることすら忘れていた。食べるの大好きなのに、忘れるなんて出来るんだ……
小麦で作った麺を茹でて、その上に昨日作ったスープをかけて朝食にする。うん、一晩寝かしたから、味が定着して美味しくなってる。我ながらよく出来たと思う。
エリアスから連絡がない。今日は帰って来るのかな? 帰って来ないのかな?
声が聞けないと不安で仕方がない。
一緒にお風呂に入ったり寝なかったりしたから、私の事嫌いになったのかな……
ううん、きっとそうじゃない。そうじゃないって分かってる。けど、ずっと一人だと不安でそんな事ばかり考えちゃう……
とにかく一旦帝城に行かなくちゃ。行って、ゾランに家にいる事を言おう。
本当は、誰かが家にいてくれたら良いのにって思う。けどそれは無理だから、誰もここには来れないから、エリアスと私しかここにはいられないから、一人でエリアスの帰りを待つしかない。
着替えを済ませて帝城へ空間移動で向かう。
リオの部屋には、ミーシャとゾランがいて朝食を摂っていた。
「あ、リュカちゃん、おはよう。早いのね。もう体調は良いの? 昨日は急に帰っちゃったから心配してたのよ?」
「ごめんなさい……あ、あの、体調は良くなってきたんだけど、まだ少し調子が戻ってないから家で休んでおこうって思って……」
「そうなの? 風邪でも流行ってるのかしら……リオとテオもね、熱が出て今寝ているのよ。リュカちゃんも一人じゃ何かと大変でしょう? ここでゆっくりしたらどうかしら?」
「ううん、家にいる。あの、リオとテオ、大丈夫なの?」
「僕が回復魔法を使ったんだけどね。まだ熱が下がらないんだ。僕の回復魔法はあまり強くないから、後でラリサ王妃にお願いしようと思ってるんだよ。だから大丈夫だよ。リュカこそ大丈夫かい?」
「うん。大丈夫」
「ここじゃなく、家にいた方が体が楽になりそうなのかい?」
「うん」
「そうなんだね。じゃあ仕方がないね。あ、食事は終わったかい? 一緒にどうかな?」
「あ、大丈夫。食べてきたよ。自分で作れるし……」
「分かった。エリアスさんはまだ帰って来れないみたいだし、連絡が取れない。リュカもそうかな?」
「うん……」
「不安だよね。でも、エリアスさんならきっと大丈夫だよ。時間の感覚が可笑しくなっていたみたいだから、こんなに時間が経っているって気づいてないかも知れない。だから気にせずに待とうね。きっと無事で帰って来てくれる筈だからね」
「うん……!」
「昼食とかどうするんだい? 自分で作るのかい? こっちで用意しようか?」
「大丈夫だよ」
「そうか、分かった。明日も、もし家にいることになっても、一度こうやって来てくれないかな? じゃないとこちらから様子を見に行けないからね」
「うん、分かった」
心配そうなミーシャとゾランだったけど、ゾランは私の家が特殊な事を知ってくれてるから助かる。
けど、リオとテオが風邪をひいて寝込んでるのが心配。大丈夫かな……
早く治ればいいのに……
0
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる