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第4章
成長
しおりを挟む「オルヴァーっ! 無事であったか!」
「父上! 漸く……漸く戻って来ることが出来ました! 私が生きていられたのはエリアス殿と父上のお蔭なのです!」
「それはどういう事なのだ?!」
オルヴァーに遺跡であった事を話して貰う。イェスベルは神妙な面持ちでオルヴァーの話をしっかりと聞いていた。
これでようやく調査隊に何があったのか、遺跡近辺の村や街がどうなっているのかを知って貰えた訳だ。この事を踏まえて聞いたイェスベルは、驚愕の表情を浮かべ、オルヴァーを見てから俺を見て、それが本当なのかと目で訴える。俺も近隣の村で見た事を詳しく話していく。
信じられない、と言った感じでいたイェスベルだったが、俺達の様子を見て真実だと悟ったようだ。
さぁ、これから対策を練っていかなきゃな。
「まず、このピアスと指輪に使われている黒い石を集める事が必要だな。それを身に付けて村や街へ行って、呪いにかかった人達にそれをつけさせる。その他にも対策として、呪術師を用意して欲しいな。」
「呪術師……」
「いねぇのか?」
「いや、いるのだが……」
「成る程な……派閥が違うか……けどソイツはあまりレベルの高い呪術師じゃねぇみたいだな。」
「な、なぜそこまで分かるのだ?!」
「何となくだ。あ、俺も一応呪術は使える。だから俺は封印されていた場所へ行って、呪いの元を何とかしてくるよ。その間にアンタ等は呪いに蝕まれた村や街を救ってくんねぇか?」
「それは勿論だ。だがなぜ貴殿は、他国の、しかも金にも特にもならん事を率先してしようとするのだ?」
「国とか関係ねぇだろ? 苦しんでいる人がいたら助けたいって思うのは当然の事じゃねぇのか? それとも、この国は関係ねぇ奴等は見殺しにすんのか?」
「いや……そう、か……貴殿はそういう人物なのだな……」
「とにかく、乗り掛かった船だ。俺で出来ることはしてやるよ。派閥やら何やらは知ったこっちゃねぇし、俺には関係ねぇ。けど、自国の民くれぇは守ってやってくれ。」
「うむ……そうだな。」
「黒の石は集まりそうか? 俺も探すけどな。どうだ?」
「王都の宝石店を片っ端から当たってみる。商人にも確認し、宝庫でも探してみよう。」
「そうだな。まずは広げない事が先決だ。放っときゃ、いずれここまで来る可能性もあんだぞ? それをしっかり王に伝えてやってくれ。アンタはまともだ。けど、あの王の周りにいるのは酷ぇ奴ばっかりだ。なんとか王の力になってやってくれ。」
「あの少しの時間の会談でそこまで分かったのか?!」
「俺、ある程度の思考は読み取れたりすんだよ。心から頼れる奴がいなくて、アイツ辛そうだったからな。」
「そうか……私で力になれれば良いのだが、なかなか近寄らせて貰えんのでな……」
「んなこと言ってる場合かよ。このままじゃこの国は衰退していく一方だぜ? 分かるだろ? とにかくこの件を何とかして、アンタが優位に立つようになりゃ良い。国の一大事を救う英雄相手に、誰も無下にできねぇだろ?」
「それはそうだが……」
「まずは事の重大さを知って貰う必要がある。現場に連れていきゃ、すぐに分かるだろうけどな。それはそっちでどうにかしてくれ。俺は俺の出来ることをするだけだ。」
「うむ……承知した!」
色々ややこしい事になってきた。けど放っておくことが出来ねぇからな。あんな光景を見てしまったら、何もせずにいるなんて事は出来るわけねぇ。これは俺の性分なんだ。
ゾランに連絡を入れ、これまでの事を報告し、ラリサ王妃とウル、それに大商人マルティンに鉱石を集めて貰うように言って貰う。
皇帝の奥方であるウルリーカ王妃は、実はエルフだ。
その昔、ウルはエルフの森に住んでいた。その近くに鉱石場があった。そこでは様々な鉱石が採掘されるらしく、知る人ぞ知る場所となっている。
ラリサ王妃も錬金術を使えるから、鉱石の類いには詳しい筈だ。
次に、俺は使いにくいダンジョンへやって来た。と言うのも、遺跡は広くて複雑で、地下の牢獄に行くまでに結構時間が掛かるらしい。
だから、今日行くのは辞めにして、ひとまずサービスで請け負ったダンジョンの最適化をしに行った。ってか、この依頼自体がもう全部サービスなんだけどな。
少しはこれでオルギアン帝国に恩を感じてくれて友好を築けたらいいんだけど、今のこの国の現状じゃ難しいかな。
ダンジョンに着いて、中を改善させていく。これはもう手慣れているから、然程時間も掛からずに難なく済ませる事ができた。
それから高ランクの魔物から左手の能力を解放し、光を奪って目に能力を宿していく。何体も倒して、漸く呪術のレベルを何とか上げる事ができた。ってか、ついでに他の能力も上がってしまったけどな。
まぁ、今日ダンジョンに来たのは、実はこの呪術のレベルを上げるのを目的としてたんだけどな。
気づくと夕暮れ時で、今日はリュカが家に一人でいるから早めに帰ることにした。
家に着くと、リュカは一人で夕食の用意をしてくれていた。
「あ、エリアス! おかえりなさい!」
「リュカ、一人で用意してくれたのか? 大変だったろ?」
「大丈夫!時間掛かっちゃったけど、頑張ったんだよ!」
「そっか! すげぇな! 早速頂くとするか!」
「うん!」
やっぱりリュカの笑顔は癒されるな。昼間にみた悲惨な光景を忘れる事はできねぇけど、少しずつ元気が取り戻せてる感じがする。
やっぱ俺にはリュカが必要なんだな。
けど、いつも俺が帰ると真っ先に抱きつきに来てくれるのに、今日はそれがなかった。何でだ? 料理中で手が離せなかったからか?
ちょっと気になるけど、そんな事よりリュカが料理を作ってくれた方が嬉しかったから気にしねぇことにする。
リュカが作ってくれた料理は、少し味が濃かったり、ちゃんと火が通ってなったり、野菜の形がマチマチでイビツだったりしたけど、頑張ってくれたのがすげぇ分かるから、俺にはどんな旨い飯よりも価値があった。
嬉しそうに食べる俺を見て、リュカも嬉しそうに笑ってた。
食べながら、今日あった事をお互いに話していく。けど、リュカにあんな悲惨な状況を伝える事は出来なかったから、ゲルヴァイン王国でダンジョンの仕事をしたと話しておく。嘘じゃねぇしな。
リュカは一人でノンビリ過ごしていたらしい。もう体調も良くなったから、明日は帝城へ行くって言っていた。
それを聞いて俺は安心した。良かった。
食事が終わってから、片付けは二人でした。リュカの料理が食えて俺は上機嫌だ。嫌な事が全部吹き飛んだ感じだ。これはすげぇ付与だな。
「リュカ、そろそろ風呂にしようか。」
「え? あ、うん……あの、今日は一人で入る……」
「え……なんでだ……?」
「あ、えっと……一人で入りたい……から……」
「そう、か……分かった……」
俺がそう言うと、リュカは着替えを持って一人で風呂に入りに行った。
さっきまでの嬉しかった気持ちが途端にどっかへ行って、俺は奈落に突き落とされたような感覚に陥った。
いや、仕方ねぇ……
リュカも年頃の女の子って事だ。
そうだ、これはいずれやって来る事だったんだ。それが今日だったって事だ。父親と娘ってのはそういうもんなんだ。
分かってた事じゃねぇか。
仕方ねぇ……!
だから泣くな! 俺!
ガックリと落ちた肩に何とか力を入れて、ソファーにドカッて座って、リュカの成長を喜んでやらなきゃって思うけど……
ダメだ!
今はショックの方が大き過ぎて喜んでやれそうにねぇ!
リュカが風呂から出てきて、その後俺も風呂に入った。
湯船に浸かりながら、込み上げてくる涙を上を向いて我慢して、娘の成長を喜ぶように幼かったリュカとの思い出を噛み締めるようにして、悲しい気持ちをグッと飲み込んで、それから大きく息を吐く。
風呂から上がって、気を取り直してリュカに落ち込んでるとか思われないように、なるべく笑顔を向ける。
そうだ。大丈夫だ。親子は切っても切れねぇ縁なんだ……!
だからこんな事でクヨクヨすんな! 俺!
「じゃあ……そろそろ寝るか!」
「うん……あ、今日は一人で寝るね。」
「えっ?!」
「おやすみなさい。」
「あ……あぁ……おやすみ……」
こんなにイキナリ子供って親を必要としなくなんのか?
その成長に親がついていけねぇって事なのか?
なんだ? この言い様のない感情は……!
リュカ……!
そんなにすぐに大人の階段を上らないでくれっ!
頼むから俺を置いて大人にならねぇでくれーーーっっ!!
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