92 / 116
第4章
左手の能力
しおりを挟むエリアスが心配してる。
エリアスは私の調子が悪いのは、昨日エリアスが我を忘れて力を暴走させてしまったからだと思っている。
本当はそうじゃないけど、勝手に他国へ行って見た事を言うわけにはいかなかった。
優しく私を労ってくれるエリアスに申し訳ない気持ちになって、何度か言ってしまおうかと悩んだけれど、やっぱり言い出す事はできなくて、何度も何度も言葉を飲み込んだ。
翌朝、私の様子を気にするエリアスは、今日はどうするかを聞いてくる。
体は大丈夫。だけど、気持ちがなんかくすぶってる感じがして、まだリオやミーシャに普通に接する事が出来なさそうだった。だから、今日は家でゆっくりしたいと告げる。
「俺も休もうか?」
って気にしてエリアスは言うけれど、私の事で何回も休ませるわけにはいかない。
だって、エリアスの仕事は誰にでもできる仕事じゃないから。魔物から人を救ったり街を救ったり、国を救ったりもする大きな仕事なんだ。だから簡単に休ませちゃいけない。
「大丈夫だよ!」
って笑顔で言うと、
「なんかあったら、すぐに連絡しろな?」
って言ってくれて、エリアスは仕事へと向かった。
一人で家にいると、やっぱり昨日の事を考えてしまう。
あの村にいた人たちは、もう皆あんなふうに黒くなって亡くなってしまったのかな……
他の場所でもそうなのかな……
凄く気になる。やっぱりエリアスに言った方が良かったのかな……
でも、エリアスがその場所へ行って、エリアスも同じようになってしまったら?
何故か私は大丈夫だった。セームルグが耐性があるって言ってた……と記憶している。
でもエリアスもそうだとは限らない。だからあの場所には迂闊には行って欲しくない。やっぱりこの事は言わない方が良いんだ。
部屋の片付けをして、庭に出て畑の種蒔きをする。
ニレの木を背にしてその場に座って、よく晴れた青空を見上げる。
ここにいると清々しい空気に触れられて、気持ちも洗われるようで、澱んでいたモノが吐き出されていく感じがする。
この場所が好き。
この空気が好き。
ここにいられるのが幸せだと思う。
清々しい気持ちになれる。
大きく息を吸うと、凄くスッキリした。
うん、大丈夫。
もうウジウジしない。
私はここに帰って来れたら、それだけで元気を取り戻せる。エリアスがそばにいてくれたら、きっともっと大丈夫。だから行ってみよう。もう一度あの場所へ。
空間移動で昨日の村へやって来た。
辺りを見渡す。黒くなった人達は、至るところにいる。昨日は助けを求めるような声や嘆く声が聞こえてきていた。けど今日は何も声が聞こえない。
村中を探すけれど、黒くなった人達ばっかりだった。それは、家の中にもそうだったみたいだけれど、外で横たわって亡くなっている人も多かった。
生きている人が見られない。この状況に言いようもない悲しみが襲ってくるけれど、何とか堪えて翼を出して飛び上がる。空から村や街を探すと、さっきの村の近くに小さな村があったので、そこに降り立つ。
入口には誰もいなくて、入るのは簡単だった。普通は門番らしき人がいるのに、もしかしたらここも黒くなる呪いに侵されているのかな……って思いながら村の中へと進んでいく。
ここも昨日のさっきの村みたいに、苦しそうに呻く声が聞こえてきた。
声のする方に行くと、ある建物の前で行列ができていた。
子供を抱いた母親が泣きながら子供に呼び掛けていて、
「この子を先に診て下さい!お願いします!」
と、建物へ向かって叫んでいた。
並んでいる人たちは皆、皮膚が黒くなっている人達ばかりで、恐らくここは診療所か何かなんだろう。
並んでいるおじさんに話しかけてみる。そのおじさんも手の甲が黒くなっていた。
「大丈夫? ここでちゃんと治して貰えるの?」
「え? あぁ、ここは診療所にはなっているけど診てもらえる人は少ないから、俺は薬だけ貰いに来たんだ。最近変な病気が広がってきていてな。」
「そうなの? みんな皮膚が黒くなっていっちゃってるの?」
「あぁ。なんの病気かは分からんが、熱が出てな、暫くすると皮膚が黒く固くなってくる。とにかくその熱を下げたら治るんじゃないか、とは思うんだが……で、お前はどこの子だ? 見掛けない顔だな。」
「あ、うん、親戚の家に遊びに来たんだよ!」
まだこの村は亡くなった人はいないみたい。回復魔法じゃ治らない。けど、試してみたいことがある。
さっきの子供を抱えた母親の元へ行って、様子を伺う。
「ねぇ、この子、大丈夫?」
「段々……皮膚が黒くなっていってるの……苦しそうにしていて熱もなかなか下がらないのよ……」
涙ながらに母親は子供の頭を撫でながら言う。
その子の黒くなった腕にそっと左手で触れて、巣食った呪いを左手で奪っていく。左手から何かが入ってくる感じがする。なんか凄く嫌な感覚……でもそれを続けていると、その子から黒い部分が無くなっていった。
その様子を見た母親は驚いて私を見る。熱に侵されていた子供は呼吸も普通に戻り、目を覚まして何事かと辺りを見渡す。
子供の熱は下がり、元の元気な状態に変わったのを確認してから、母親は私の手を握る。
「な、何をしたの?! この子の熱も黒くなった皮膚も無くなったわ!」
「あ、うん、良かった。もう大丈夫だと思うよ!」
「なんだ?! 何かしたのか?!」
「えっと、ちょっと回復させただけだよ……」
「私もしてみて! お願い! 足が黒くなって動かしづらくなっているのよ!」
「お、俺も頼む! 目の周りが黒ずんで、片目が見えなくなったんだ!」
診療所に並んでいた人達が私の元へ集まってくる。
さっきみたいに、左手で呪いを奪っていくと、途端に皆症状が良くなっていく。
良かった……私でも助けることが出来た……!
その場にいる人達の呪いを全て奪っていくと、回復した人達からは感謝され、お礼にと何かを渡そうとしてくる。
「いらないよ!大丈夫だよ!」
って断って、でもなかなか私を離そうとしない人達から逃げ出すように、翼を出して飛び上がる。
それを見た人達は凄く驚いて、呆然として私を見た。逃れる為につい翼を出してしまったけれど、知らない人達ばかりだから大丈夫だよね……?
村を飛び立って、それから空間移動で家に戻ってきた。
呪いを沢山奪ったから、流石に疲れちゃった……
右手から呪いを出すようにしてみると、ゾワゾワした紫の濃い色した不穏な動きをする煙の様なものが這い出てきて、地面にゆっくり浸透していく。
浸透した紫の煙みたいなのは、徐々に範囲を広げていくけれど、ニレの木の近くまで伸びると、それは何かに欠き消されていくようにして無くなっていった。
さっきまで紫に侵食されていた地面が、徐々に元通りになっていく。
やっぱり凄い!この場所は凄い!ここなら呪いを祓う事が出来るんだ!
良かった……って安心したところでフラついてしまう……
あれ?どうしたのかな……呪い、まだ全部出しきれて無いのかな……
肩がなんか皮膚が突っ張ってる感じがするから見てみると、五センチ程の大きさの黒く固くなっている部分があった。
もう一度右手から呪いを出すようにしてみると、それは少し小さくなった。
大丈夫かな……大丈夫だよね……?
ここにいてたら多分、呪いは浄化されると思う。だからきっと大丈夫。
ニレの木を背にして、そこで少し休むことにした。
少し頭がクラクラするけれど、もう少ししたら無くなるはず。
でも良かった。
私でも助けることができた。
あの村はもう大丈夫かな。
他の村や街は大丈夫かな?
また明日行ってみよう。
今日は疲れたから少しの間、ここで眠ろう。
起きたらきっと良くなるから。
ここは私を癒してくれる場所だから。
0
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる