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第3章
討伐
しおりを挟む仕事を終わらせてゾランに報告をする。
リオの様子を聞くと、あれからも少し落ち込んでいたようだ。ゾランはリオにリュカの事を少し話したらしい。龍になることは伏せていてくれたようで、それ以外の事を簡単に説明したと言っていた。これからリュカと友達で居続けるのであれば、知っておいた方が良いと判断したみたいだな。
リュカは、銀髪の部族とそれ以外の人との間に生まれた子供である俺の子だ。生まれながらにしてその能力は高く、能力制御の腕輪をしなきと人に触れる事すら出来ない、と話したそうだ。能力に覚醒したリュカは、その大きすぎる魔力や能力に体が馴染まずにいて、今は大変な状態だと伝えたって言っていた。
そんな事を全く知らなかったリオは、自分が迂闊に「魔法を使って!」と言ったことを深く反省したようだ。
けど、こんなことを責める訳にはいかねぇ。誰だって能力に目覚めたらどんな力があるのか興味が湧く。それは自分以外であってもだ。リオの行動は至って普通で、通常であれば何も問題はない。これはきっとリュカに限っての事だ。
リオにあまり気にしないように伝えて欲しいと告げ、シアレパス国での事を報告する。カータレット侯爵領の奴等は後はムスティス公爵に任せるとして、こちら側がする事は捕らえた裏組織の奴等の量刑を決める事と、捕らえられた人達の今後の行く末をどうするか、だ。
アクシタス国にあった裏組織の村で、仕事がない人達や孤児になった子供達を住まわせて、村全体で孤児の世話をする。という計画が着々と進んでいる。これにはアクシタス国も援助してくれる事になったし、収益が出るまで税金の免除をして貰える事にもなった。
それからゾランに確認して貰っていた、ベリナリス国のニレの木のある土地だが、そこは誰も管理する事が出来ず放置状態だったそうで、俺が住みたいと言ったら驚きながらも「是非どうぞ!」って、喜んでいたらしい。あの近辺は魔物の多い場所で、オルギアン帝国のSランク冒険者のリーダーに土地を管理して貰えるとなったら、これだけ心強い事はない!興奮して言っていたそうだ。
とは言え、あの場所に大工を呼ぶわけにはいかねぇ。皆ニレの木の魔力にあてられるからだ。だから、俺の家の横にある空き地で大工達に家を作って貰い、それを空間収納で持ち運ぶ事にする。俺はニレの木の土地を整地しておく事にする。これは土魔法で簡単に出来た。家はすぐにできねぇから、あの場所に住むのはまだ先だけどな。
着々と事は進めていってる。明日はフレースヴェルグを討伐しに行く。これでリュカはこれからもずっと生きていける。
けど、昨日昼食後に眠って一度目を覚ましてから、リュカはまた目を覚まさなくなった。大丈夫なのか?このまま眠ったままとかにならねぇよな?
時間があれば、眠るリュカの背中を撫でるようにした。そうして欲しいって、眠る前に言ってたからな。
夜寝るときに、リュカの思考を辿ってみる。けど、リュカからは何も感じねぇし見えなくなっていた。何でだ?どうなってんだ?生きてるよな?息はしてる。ちゃんと寝息を立てている。良かった。けどやっぱり心配だ。大丈夫か?
朝になっても起きねぇ。けど、今俺がリュカにしてやれる事はなかった。なら、俺が出来る事をしに行く。それはフレースヴェルグを倒すことだ。
ゾランにその事を告げると、こっちからも数人兵士をつけると言ってきた。もし俺に何かあった場合、何も知らなかった、出来なかったじゃ済まないからだそうだ。俺の事情に巻き込む事に申し訳ねぇ気持ちにはなるけれど、一緒に行く奴等は凄腕の兵士で、「是非参考に戦いを見させて下さい!」と、自ら志願した奴等だそうだ。とは言え、近くにいると戦闘の邪魔になるから、かなり距離を取って貰う必要はあるけどな。
転送陣でシアレパス国まで行く。
首都ワルナバスにある転送陣に着くと、そこにはムスティス公爵が既にいて俺達が来るのを待っていた。そこからまた別の転送陣で、供物を奉納するのに一番近くにある転送陣まで移動した。
そこから出ると、既にシアレパス国の兵達がいて、近隣の街や村の避難は済ませてあった。ここから馬車で30分程進むと供物を奉納する場所へたどり着く。
ムスティス公爵に、ここからは自分一人で行く事を告げ、俺は風魔法を纏って走り出した。
俺が連れてきた兵達は馬車で近くまで来るらしいが、それを待たずに俺は走っていく。しばらく走って、拓けた場所へたどり着いた。
周りは木が生い茂っていて、正面には鉱山が高く聳え立っている。その奥の方に岩があって、上が平らな状態になってある。恐らくそこに供物を置くんだろうな。
辺りを見渡して気配を感じようとするけど、何も感じない。風の音と木々が揺れて葉が擦れ合う優しい音しか聞こえねぇ。
空間収納に納めていた幻夢境刀を取り出す。腰に装着して鞘から抜き出すと、そこから俺に向かって[気]がジワジワ這い出して、俺を乗っ取ろうとする。久しぶりの感覚だ。もちろんその[気]に俺が支配されることはねぇ。こっちからも[気]を放ち、幻夢境刀を俺が支配していく。
「来やがったか……」
感覚を研ぎ澄ませていたから分かる。真上に歪みが出来て、そこからでっけぇ魔物が降りてくる。
フレースヴェルグだ。
やっと戦える。その事が嬉しくて仕方ねぇ。恐ろしさとかは感じねぇ。むしろワクワクする。
俺を鷲掴みにしようと、勢いよく降りて来るのを即座に躱わす。距離を取って幻夢境刀を前に付きだす。それを見たフレースヴェルグは、大きな声で叫ぶように吠えた。
ビリビリ身体中が痺れるような感覚になる程のその声は、切なくて悲しそうにも感じられる。
幻夢境刀に炎を纏い、駆けていって飛び上がり、首を目掛けて勢いよく刀剣を振るう。刀剣はフレースヴェルグの首を大きく傷付け、そこから炎が燃え盛っていった。
そのまま全身に炎が回っていくか、と思いきや、フレースヴェルグは大きな翼をはためかせて風を生み出し、自分の身の回りをグルグルと風で纏っていった。
その風に弾かれるように、俺の体は投げ出される。何とか倒れずに着地し、体制を整える。
大きな翼は大きな風を生み出し、それは辺り一面に影響を及ぼす。木々は千切れそうな位に横に煽られ、砂利や石なんかが風に飛ばされていく。
俺の後を追ってきたオルギアン帝国の兵達は、あまりの強風に近づけないでいた。だがそれで良い。それ以上近づいてくるんじゃねぇぞ……!
「やっぱそう簡単には倒れてくれねぇよな……」
思わずニヤリと笑みが溢れる。手応えがねぇと戦ってる気がしねぇからな。
その大きな風の力はお前が奪った魂で得た力だろ?そんな力を持って生き永らえて、お前がしたかった事って何だったんだよ?ずっと一人で生き続けて、お前はそれで良かったのか?
俺の体にも風を纏い、フレースヴェルグの風に逆らって対抗するようにしてから、駆け寄って大きな風の流れに身を任せる。フレースヴェルグの纏う風に乗って、その体をグルリと一回りしてから頭目掛けて勢いよく幻夢境刀を額に突き刺した!
大きな鳴き声が辺りに響き渡り、その声に耳が千切れそうになり、頭がガンガンうなっていく。両手で幻夢境刀を握り締め、風に吹き飛ばされねぇようにしてしっかり目を見つめる。
お前のその大きすぎる力、俺が奪ってやっからな……!
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