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第3章
覚醒
しおりを挟むエリアスが怒った。
それは私が傷つけられたから。
私が何も考えずに、迂闊に空間の歪みに踏み込んでしまったからで、まさかエリアスの元へ行くとは思ってなくて、しかも戦闘の真っ只中で攻撃を受けている最中だなんて考えもしてなくて……
ううん、そんな事はちゃんと考えたら分かった事で、空間を操る精霊は同じように歪みを作って何処かへ行ったし、だからあの歪みは何処かへ行く歪みって分かっていたし、あの時私はエリアスの事を考えていたし……
エリアスは今日は取引先に乗り込むって、朝ちゃんと私に言ってくれてた。だから今日は遅くなるって。
それなのに私は待てずに大人しく出来ずに、深く考えないであの歪みに向かって行ったんだ。
だからこれは私が悪い。こんな事があるから、エリアスは私に何度も勝手に何処にも行くなって言ってたんだ。
考えれば考えるほど、自分の軽率な行動に苛立ちを覚える。
あの時のエリアスは普通の状態じゃなかった。
髪も瞳も真っ赤になっていて、身に付けている物も全てが赤くなっていて、炎を纏っている訳じゃないけれど、エリアスの体は熱を帯びているように空気が揺らいでいた。
エリアスを見る皆の顔は恐怖に歪んでいて、それは感情も同じで、逃げ出したいけど逃げられない程に怯えていて、皆がエリアスに恐怖を感じていた。
それはエリアスが元に戻ってからもそうで、誰もエリアスに近づこうとしなかった。いつものようにエリアスに接していたのはゾランだけだった。
エリアスをあんな風にしてしまったのは私だ。
申し訳なくて、皆にエリアスは怖くなんかないって、凄く優しい人なんだって言いたくって、でも言えなくて、私が傷つけられたからあんなに怒って、それは嬉しかったんだけど、もうあんなふうに怒って欲しくなくて、そんな色んな思いで胸がいっぱいになっていって、それは自然と涙に変わっていった。
そんな私に、エリアスはやっぱり優しい。私が悪いのに、自分のせいだって言う。なんでいつもそんな風に私を甘やかすの?それは私に負い目があるから?
私を大切に思ってくれるのは嬉しい。凄く嬉しい。でも、ちゃんと怒っても欲しい。
そう思ってふと気づく。
私はエリアスに求めてばっかりだ。
こうして欲しい、こうしたい、そんな事ばかり言ってエリアスを困らせて、なのに自分は言うことを聞かなくて、今日もこんな事をしてしまって……
エリアスは私と一緒にいるようになって、大変に思うことが増えたんじゃないかな?私はエリアスに負担ばかりを背負わせているんじゃないかな?エリアスの優しさに甘えて、私はワガママになったんじゃないかな……
ベッドでエリアスの胸に顔を埋めていても、そんなどうしようもない思いがずっと胸渦巻いている。
私はこのままで良いの?
そんな風に考えながらも、頭の中で色んな景色が交差して、その意識は段々と無くなっていく……
夢かな……これは……夢なのかな……
私の目の前にセームルグとテネブレがいる。
私を見て、困惑した表情でいる。
どうしたの?
「リュカ、貴女に言っておく事があります。」
「なに?セームルグ?どうしたの?」
「貴女の能力が覚醒しました。」
「え?能力?覚醒?」
「我が手を貸したのでな。リュカに眠る力が目覚める事となった。」
「そうなの?」
「これにより貴女の能力が解放され、その制御に魔力を多く使う事となります。」
「魔力を……」
「元より多くの魔力をリュカは持っておる。しかしそれでは足らぬのだ。」
「えっと、それはどういう……」
「その力をなるべく私達で抑えます。けれど、それでも溢れ出る能力を抑えられるかどうか……」
「んー……よく分からないけど、じゃあどうすれば良いのかな?」
「まずは魔力を補って下さい。そして、この事をすぐにエリアスさんに告げて下さい。」
「うん、分かった。」
「そして、能力制御の腕輪をもう一つ、リュカに着けるように言って下さい。」
「もう一つ?」
「えぇ。エリアスさんは持っている筈です。」
「……分かった。」
「私達はこの能力を抑えるべく尽力致します。決して無理はしないで下さい。」
「うん……」
「覚えておくがいい。我はリュカを守る為に宿っている。この力を暴走等させぬ。」
「うん、分かった。」
そんな夢か現実か分からない夢?を見て、私はゆっくりと目を覚ます。外は少しずつ夜が明けてきている頃で、まだ起きるには早い時間。私の横にはグッスリと眠っているエリアスがいて、まだまだ目覚めそうもない。
エリアスを起こさないようにそっとベッドから抜け出して、窓から見える朝陽を眺めながら、さっきの事を思い出す。
能力が覚醒したって……
体を確認するように触ってみるけど、特に何も感じない。やっぱりさっきのは夢だったのかな?多分夢だ。うん、そうだ。
なんだか喉が渇いたな。水でも飲もうかな……
そう思った瞬間手のひらが光だして、それから大量の水が噴き出すようにして飛び出した。
それは帝都で見た噴水のようで、止めどなく水があとからあとから手のひらから噴き出している。
えっ?!これ、どうしたらいいの?!どうやって止めるの?!
「リュカ?!」
「あ……エリアス……あの、これは……」
エリアスが驚いた顔して私を見てる。早く水を止めないと!もういらないから止まって!止まって!!
そう強く思ったら、水はいきなりピタリと止まった。
ビックリして、呆然と自分の手のひらを見続ける。それからゆっくりと視線をエリアスに移すと、エリアスも凄くビックリした感じで私を見ていた。
辺りは水浸しになっていて、ベッドもグショグショに濡れていた。
エリアスが部屋中の水を風魔法で浮かして、窓を開けて窓の外から中庭の方へと落とす。それから風魔法に火魔法を加えて温かい風にして、全て乾かしていった。
私の体もエリアスの体も水に濡れていたけれど、それがすっかり元通りに戻っていた。
呆然としている私の元まで来て、エリアスは私の手を取って、それから膝をついて目線を合わせる。
「何があった?」
「あ、うん……水を飲もうと思ったら、手のひらからいっぱい水が出て……」
「そう思っただけなのか?」
「うん……」
「そっか……」
「あの、ね?夢でね?えっと……セームルグとテネブレが出てきてね?」
「え?!」
「それでね?私の能力が覚醒したって言ってたの。だから魔力を補いなさいって。」
「もう能力が覚醒したのか?!」
「あ、でもただの夢かも知れないから……」
「いや、これだけの水魔法って……能力が覚醒しねぇと無理だろ?」
「そう、なのかな……」
「あとは何か言ってなかったか?」
「能力制御の腕輪をもう一つ着けるようにって。エリアスがもう一つ持ってるって。」
「あぁ、持ってる。他には?」
「えっと……もうない……」
「そっか……能力が覚醒したか……」
「ごめんなさい……」
「ん?なんで謝るんだ?」
「だって、水浸しにしちゃったから……」
「それはもう元に戻したから大丈夫だ。魔法の使い方も教えねぇとな。魔力を抑えねぇといけねぇし、補う事もしなくちゃな。」
「うん……」
「昨日テネブレの力を借りたから、能力の覚醒が早まったか?」
「それは……」
「俺のせいだよな……」
「ううん!違うよ?!違うから!」
「あぁ、分かった。だからそんな泣きそうな顔すんな?」
「うん……」
エリアスが空間収納から腕輪を取り出す。私の右手首には従魔の腕輪がある。「外していいか?」ってエリアスが聞くから、私はゆっくりと頷く。従魔の腕輪を外して、それから能力制御の腕輪を右手首にエリアスが着けてくれる。それは手首に馴染むようにその形を変えてピッタリと嵌まった。
それを見てからエリアスは、何故か泣き出しそうな顔をして私を見てから、ギュッて強く抱きしめてきた。
それから何度も「大丈夫だからな。大丈夫だ。」って私に言うけれど、それはまるで自分に言い聞かすように言ってるみたいだった。
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