黒龍の娘

レクフル

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第3章

対話

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 裏組織のアジトは大方殲滅出来た。

 残っているアジトはグリオルド国にあって、そこも既に監視の対象となっている。その場所に、捕らえて俺が操った、副リーダーだった男を含む三人を潜入させる事にした。

 コイツ等には事前に綿密に打ち合わせをしておいた。俺の言うことは何でも聞いてくれるからすっげぇ便利だ。けど、こんな事に慣れちゃいけねぇな。言うことを無条件で聞いてくれてるのを見ると、何だか俺が偉くなった感じがする。けれどそれは錯覚だ。それに溺れちゃいけねぇ。こういうのに慣れると、コイツ等みてぇになっていくんだろうな。気をつけねぇと。だからやっぱり、なるべくこの力は使わない方が良い。

 副リーダーにはピンクの石を指輪にして持たせている。必要な時に石を内側にして握らせ、話しをする為だ。もちろん、幻術も解いておいた。

 暫くそうやって三人を放置していたら、翌日潜入出来たと連絡が入る。キッチリ仕事してくれてるみてぇだな。良かった。
 アジトにいた仲間は人員が増えた事を喜んでいたみたいで、それにより取引先へ行く日を早めるようだ。副リーダーの男は結構な遣り手だったらしく、戻ってきた事をすごく有難がられていた。

 取引は明日の夜、シアレパス国の北側にある街、ルテフィエで行われる。
 この事が分かってからすぐに、俺はムスティス公爵に報告に行った。カータレット侯爵とは仲が悪いとは言え、シアレパス国の領地で行われる事だからな。筋は通しておきたいってのもあるが、他の事も合わせて言っておきたかったからだ。


「エリアス殿、もうお体は大丈夫なのか?」

「あぁ、もう大丈夫だ。って、なんで知ってんだ?」

「まぁ、これ位の情報は入ってくるものだからね。無事で良かったよ。」

「そんな情報通のムスティス公爵が、今回の人身売買の事を知らなかったとはな……」

「これは耳が痛い。しかし、カータレット侯爵とは反りが合わなくてね。何度か友好的に同盟を結ぼうと交渉したのだが、全く相容れなかったのだ。と言うより、カータレット侯爵が私を嫌っているようでね。最近は話し合いにも応じてくれなかった程なんだよ。」

「最近も連絡を取り合ったりしたのか?」

「あぁ。フレースヴェルグについても聞きたかったのでな。」

「それは……手間を掛けさせた……」

「ハハハ!気にしないで欲しい!私もカータレット侯爵とは歩み寄りたいと思っているんだ。だからこの機会は好都合だと思ったのだが、それがなかなかでね。会う事すら叶わなかったよ。」

「そうなのか……」

「それでも、何か情報を得ようと思って諜報員に調べさせていたんだがね。あ、これは今回だけの事じゃなく、ずっと以前から行っていることなんだよ。それでも、特に変わった報告も無かったのでな。だから今回の話を聞いた時は正直驚いた。」

「その諜報員が懐柔されている、という可能性は?」

「それは……無いとは……言い切れん、か?あ、しかしだな、諜報員は毎回同じ者と言う訳ではないんだぞ?定期的に担当する場所を変えていてな。だから懐柔されている、という事は無いとは思うのだが……」

「けど、あらゆる可能性を考えて行動しといた方が良いかもな。ムスティス公爵は人が良すぎる。もっと色んな事に疑念を持った方が良いかも知んねぇぞ?……でも、それがムスティス公爵の良いところなんだろうけどな……」

「なんだ?誉められてるのかどうか分からんな!ハハハハ!」

「誉め言葉として受け止めてくれ。で、フレースヴェルグの事なんだけど、何か分かった事とかはあるか?」

「あぁ、その件は此方でも調べてみたのだがな。東側で目撃された情報と、北側へ帰ったとの情報を得たな。土砂災害の被害者を貪り喰った後、北側へと戻ったようだが、その後の情報は無いな。」

「そうなんだな……」

「カータレット侯爵の領地で人身売買の噂は聞かなかったのだが、ある話しを聞いたのだ。最近、あの地域で埋葬方法が変わったらしくてな。まぁ、魔物の供物にするという昔からの風習を古いと感じている若者が多くいたようでな。時代と共に淘汰されていく事柄は色々あるが、その一つとして埋葬方法が変わった訳だ。」

「それはフレースヴェルグの餌となる死体が無くなったって事なのか……だから餌を求めて東側まで……」

「そうかも知れん。北側の街や村でも、フレースヴェルグの目撃情報は得ておる。今までその姿を見せた事が無かった魔物が、こうも目撃されるのには理由があった、という事だったのだな。」

「なるほどな。今回の件が済んだら、俺はフレースヴェルグを討伐する。どこで戦えば被害は無いんだ?」

「どこでって……北側の街まで行くのではないのか?」

「まぁ、勿論そうなんだけど、俺、アイツを引き寄せる術を手に入れたんだ。だから、ある程度なら場所をこちらが決める事が可能だ。」

「そうなのか?!」

「今じゃ負ける気もしねぇな。」

「なんだ?その自信は……いや、だが過信してはいけないぞ?また先日のように……」

「あぁ、慎重にしねぇといけないのは分かってる。それに周りに被害を出さないようにしねぇとダメだしな。」

「そうだな。場所はまた候補を出しておこう。兵達を動かす手筈も必要となるだろうしな。あ、これは戦闘に参加させるのではなく、エリアス殿に何かあった際の対策として必要だと言うことだ。おそらく、供物として遺体を置いていた場所になるとは思うが。」

「そこは広いのか?」

「そうだな。山の麓にあって、遺体を置く以外は誰も近寄りもせん場所だ。もちろん村や街からも離れていて、馬車で半日程はかかる。噂では犯罪等で遺体が出た場合も、その場所に遺棄しに行くと証拠が残らないと裏組織では言われていたようでな。これは最近分かった事だがな。」

「そうか……葬儀の遺体だけじゃ餌として成り立ってないんじゃねぇかって思ってたけど、そういう事だったんだな。」

「だから余計に犯罪者はこの国にやってくる。もしかしたら……!」

「それを知った上で受け入れていた可能性があるな。遺棄する場所を提供するのに金を取っていても不思議じゃねぇ。」

「それではカータレット侯爵は犯罪で容認しているとでも……?!いや、だがしかしっ!」

「あり得る話しだが、これも踏まえて調査するか。向こうに非があれば今回の件も付け入る隙が出来るしな。」

「奴隷を取り返すのにか?」

「あぁ。これがカータレット侯爵のアキレス腱になるかも知んねぇからな。まぁ、俺に任せてくれよ。」

「助かる。協力に感謝する!」

「いや、それはこっちの台詞だ。ありがとな。」


 しっかり握手をして、クレメンツ邸を後にする。こうやって協力してもらえる事が有難い。流石アシュリーの義父だ。アシュリーの義父って事は、俺の義父という事だ。まぁ、これは本人には言えねぇけどな。

 さぁ、話しもついた事だし、カータレット領へ乗り込むとするか。



 
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