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第3章
強い心
しおりを挟む自分の身を確認してみる。身に着けていた物を見てみると、何も取られたりはしていなかったみたい。まだ少し頭がズキズキする。これは投げ飛ばされた時に頭をぶつけたからなんだろうな。
胸元にあるピンクの石を握る。手足を拘束されてなくて良かった。暫く握ってると、エリアスの声が頭に響いてきた。
『リュカ、どうした?』
「エリアス!あのね、あの……えっと、心配しないで聞いてね?」
『ん?何かあったのか?』
「うん……えっとね、あ、今って何時頃かな?」
『え?今は昼過ぎ位だろ?なんでそんな事……』
「そうなんだ……あのね、今日マドリーネと帝都に買い物に行ってね?それではぐれたって言うか……」
『え?!迷子になったのか?!』
「迷子って言うより、その……連れ去られたって感じかな……」
『マジか?!誰にだ?!どこにいる?!すぐに助けに……!』
「待って!エリアス、待ってっ!!」
『なんだ?!どうしたんだよ?!』
「あのね、聞いてね、落ち着いて聞いてね?」
『落ち着くって、んな事っ!』
「聞いて!お願い!」
『分かった!分かったから、詳しく教えてくれ!』
「うん。今ね、どこにいるのかは分からないんだけど、私の他にもいっぱい子供がいるの。もしかしたら、売られるんじゃないかって、皆そう言ってて……」
『マジか?!天下のオルギアン帝国で人拐いって!あり得ねぇだろ!』
「そうだよね。でね、聞いたところによると、転送陣で移動したみたいでね?」
『転送陣?!なんでそんなもんが使えんだよ?!』
「なんか、裏組織で使ってるのとかがあるんだって。だから、ここは多分オルギアン帝国じゃないんじゃないかな?」
『マジか……!』
「それでね、これからどこに連れていかれるか、もう少し様子を見ようと思ってね?今は馬車で移動してるところだと思うから。」
『それは危ねぇだろ?!様子見るとか、んな事よりすぐに……!』
「ここにいる子供達の他にも、捕まった子供がいるかも知れないんだよ?!今ここでエリアスが助けてくれたら、他で捕らわれた子供が救えなくなるかも知れないんだよ?!」
『そうかも知んねぇけど!』
「だからね?どこに連れていかれるか分かんないけどそこまで行って、他にも子供がいるか確認してからエリアスには来て欲しいの。」
『囮になるってのかよ?!』
「そうしないと、悪い奴等を一網打尽にできないでしょ?」
『一網打尽って難しい事知ってんだな……あ、いや、そうだけど、危険じゃねぇか!』
「でもね!そうしないと犠牲になる子供がもっと増えるかも知れないし、助けてあげたいしっ!私なら大丈夫だもん!」
『大丈夫って、なんで言いきれんだよ!』
「だって、エリアスが必ず助けてくれるんでしょ?!」
『それは……!そうだ、けど!』
「信じてるもん!」
『……んなズルい言い方すんなよ……』
「私以外の子供の事も考えてあげて!お願い!エリアス!」
『……ったく……そうやって押切るとか……マジでアシュリーのまんまじゃねぇか……分かったよ……』
「ありがとう!」
『けど、ピンクの石は絶対にずっと握っててくれ!首から外してて紐を手首に巻く感じにして離さないように握って、いつでもこうして話せるようにしててくれ!』
「うん!分かった!」
『なんかあったらすぐに言うんだぞ?!すぐに駆けつける!』
「うん!」
『こっちも用意とかして討伐に向かうから!』
「うん!」
『頼むから、マジで頼むから無理だけはしねぇでくれ!』
「分かった!」
エリアスの声が途絶えた。心配してくれる気持ちが嬉しい。本当はさっきから心臓がドキドキ言って凄く怖いんだけど、エリアスが助けに来てくれるって思えるだけで強い心でいられる。それに、怖いって思ってるのはここにいる子供達全員がそうで、私だけが怖いんじゃないって思えるから気持ちを強く持てる気がする。
それから暫くの間馬車は揺れて、明るかった馬車の中が段々薄暗くなっていった。子供達はみんな寄り添うようにしていて、啜り泣く声があちこちから聞こえる。
馬車が停まった。
皆が抱き合うようにして固まって震えている。
何人かの足音がこちらに向かってやって来て、馬車の後ろの布が勢いよく開けられる。
「ほう……思ったより多いな。よくやったぞ。」
「そうなんですよ!それに希少な黒髪黒目もおりますよ!」
「本当か?どれだ?」
そう言うと、灯りをこちらへ向けてくる。
眩しい……!
「これか……なに?!黒髪黒目の女だと?!これは良い!だが怪我をしてるな……乱暴に扱ったのか?」
「あ、いや、それは!逃げ出そうとしたので……!」
「……まぁいい。ではこっちに持って来い。」
まるで物を扱うような言い方だ。本当にそうとしか思ってないんだろうな。
馬車はゆっくり動いて、少ししてから停まった。それから何人も男達がやって来て、檻から出るように言われて、皆ビクビクしながら檻から出て馬車を降りる。
私も同じように降りて地に足を着けたところで、さっき指示をしていた男に髪をグイッて掴まれて、顔を上に向けられる。
マジマジと私の顔を見たその男は、下卑た顔でニヤリと笑った。その瞬間、ゾクリと背筋に悪寒が走る。
……怖い……
やっぱり怖いよ……!
エリアスっ!怖い!
早く助けに来て欲しいっ!
心臓が早鐘を打つように鼓動が激しくなって仕方がなくて、それを抑えるように両手を握って胸にやる。
けどまだダメだ!まだ何も分からない!
ここは中間地点かも知れないし、他の子供達もまだ確認していない。まだエリアスが来ちゃダメなんだ……!
震える体を何とかしようと、大きく何度も深呼吸をして、心を落ち着かせるようにする。
大丈夫……まだ大丈夫だ。
うん、大丈夫。
そうやって自分に言い聞かせて、心を静めてから辺りをしっかり確認する。周りは木々が生い茂っていて、ここが街中とかじゃないのが分かる。この周りに何か術みたいなのが掛けられてある。知らずに来たら迷いそうだな。
そこに一軒家がある。見た感じは普通の家に見える。その中へ入るように促される。
恐る恐る、家の中へと入っていく。
先頭に剣と鞭を持った男が二人がいて、その後をついて行くように奥へ奥へと進んでいく。思ったより大きな家なのかな。いくつも部屋が両脇にあって、私達はひたすら廊下を歩いていく。
ある部屋の前まで来て、鞭を持った男は鍵を開けて扉を開けて入って行く。同じように私達も入って行く。
そこは普通の部屋だった。
テーブルと椅子とベッドがあって、小さな棚と洋服掛けもあり、宿屋の一室みたいな感じだった。
小さな棚を男が退けて、床にある窪みに指を引っ掛けて持ち上げると、下へ行く階段がそこにはあった。
地下へ下りるように言われて、皆戸惑いながらも反抗も出来ず、言われた通りに降りていく。
子供達の感情は恐怖で満ちていて、その感情に飲まれそうになってしまう。でもここで皆と同じようになってしまったら、私はすぐにエリアスを呼んでしまうかも知れない。だからしっかり気を持って、もう少しだけ我慢する。
さっきから足がガタガタ震えるけど、こんなことは何でもない。涙も知らずに溢れてくるけど、何も問題ない。
もう少し我慢するだけだから。
きっと大丈夫だから。
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