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第3章
誕生日
しおりを挟むエリアスに、仕事について行きたいって事を話した。
やっぱりエリアスは最初すごく反対した。心配してくれてるのは分かる。私も少し怖い、と言うのが本音だ。
ある程度の魔物であれば従わせる事はできる……はず。だけど、フェンリルみたいに高位の魔物であったら?私が連れ去られる、とかいう可能性はない?またあの洞窟での生活に戻るとか、そんな事を考えると怖くて仕方がなくなってくる。
魔物に襲われるとかが怖いんじゃない。またエリアスと離れ離れになるのが怖いんだ。
けど、これは私がどうにかしないと。それがお父さんの力を奪った私のやるべき事だから……!
今日はエリアスに勉強するよう言われて、大人しくそうすることにする。
いつも勉強している部屋に行くと、すでにリオは座って予習をしていた。けど、いつもよりなんだかリオの機嫌が良さそう。何でだろう?心を読むと……ん、と……たんじょうび?だから?みたい。けど、たんじょうびって何だろう……?
「リオ?たんじょうび?」
「あ、おはよう、リュカ!そうなんだ、今日は僕の誕生日なんだ!」
「たんじょうび……」
「あ、言葉を知らなかったのかな?えっとね、僕が生まれた日なんだ。だから今日はお祝いして貰えるんだよ!」
「おいわい?」
「うん!今日はね、お父様も早く帰ってくるって言ってくれたんだ!誕生日はね、なんでも言うことを一つ聞いて貰える事になってるんだよ!あと、プレゼントも貰えるし!」
「良かったね!」
「うん!あ、リュカの誕生日はいつなんだい?」
「たんじょうび……分からない……」
「えっと……それは生まれた日がいつか、分からないって事?」
「うん。」
「そう、なのか……リュカって……今何歳なんだろう?」
「んー……考えた事、ない……」
「そうなんだね……あ、じゃあさ、今日は一緒に祝って貰おうよ!ね?!」
「私……良いのかな……」
「良いに決まってるよ!僕からも言っておくから、ね!」
「うん……」
誕生日って生まれた日を言うらしくて、人間はそれを祝うらしい。生まれた事を祝うのか……けど、私は生まれてきて良かったんだろうか……?私が生まれなければ、今もお父さんとお母さんは生きていて、黒龍の加護でアーテノワ国には魔物に襲われる事はなくて……
私が生まれてしまったから、魔物の犠牲になって亡くなった人がいっぱいいる。そんな犠牲の上に私は成り立っている……
「どうしたの?リュカ?そんな沈んだ顔をして……」
「あ、ううん?何でもないよ!ちょっとね、朝食を食べ過ぎちゃって気分が悪くなっちゃって!」
「そう?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ!」
危ない!今日はリオの誕生日なんだ。リオの嬉しそうな顔からすると、凄く楽しい日になるんだろう。それを私が壊しちゃいけない!
私がいつ生まれたとかは分からない。けど、自分の名前が『リュカ』だと言うのは、なぜか分かっていた。私が喋れるようになって自分で『リュカ』だと名乗ると、お父さんはすごくビックリしていた。通常、魔物は名前なんて付けないから。
でも、何で私はエリアスの子供なのに、人間なのに、黒龍のお母さんから生まれたんだろう?これは前から疑問だった。でも、それを確認する機会も無かったかな……
ううん、違う。聞くのが何だか怖いって思っちゃったんだ。エリアスに聞いても理由は分からないかも知れない。けど、聞いちゃいけない気もした。何でかは分からないけど……
その日、リオは終始ご機嫌だった。午前の勉強を終えて昼食を摂っている時も嬉しそうにしていたし、午後からの勉強も積極的に質問とかして、すごくやる気が伺えた。誕生日って、そんなに良いものなんだろうか……
もう少しで陽が落ちるという頃に勉強が終わって、リオと一緒に居間へ行くと、そこには部屋中に飾りが施されてあって、料理もいつもよりいっぱい並んであって、ゾランも子供を抱いたミーシャもいて、それから見たことがない子供達も十人程いた。
私とリオの姿を見ると、皆が一斉に「おめでとうー!」って言って、パンっ!て何かが弾けるような音がして、細長い色とりどりの紐のような物が飛んできた。それから皆が拍手をする。
その様子に驚いて、暫く何も言えずに佇んでいると、リオが私の手を取って皆の輪の中に連れて行った。
「みんな、ありがとう!リュカ、ここにいるのは僕の友達なんだ!みんなお祝いに来てくれたんだね!嬉しいよ!」
「この子が言ってた、エリアス様のお子様なのね!すっごく似ているね!可愛い!」
「はじめまして!よろしくね!」
「おめでとう!リオと同じ誕生日なんだね!」
口々に話し掛けられるけど、今はどうすれば良いかが分かる。ニコニコ笑って簡潔に「そうだよ」とか、「よろしくね」とか言って握手をしたりする。
それから、みんながリオにプレゼントと言って、色の鮮やかな入れ物やリボンのついた箱を渡していく。私には、「急だったから用意できなくてごめんね」と謝られるけど、こうして貰えるだけでも充分過ぎるから、両手をブンブン振って、「全然!大丈夫だよ!」って笑顔で答える。
でも、ゾランからは「プレゼントだよ」って言って、小さな箱を手渡された。不思議そうな顔をしていると、「開けてみて!」ってニッコリ微笑む。開けてみると、中にはピンクの石がついた首飾りが二つ入っていた。聞くとこれは対になっていて、離れた人ともこの石を握ると話が出来るんだって言っていた。「これをエリアスさんに渡しておくと、離れていても会話が出来るよ」と、教えてくれた。このプレゼントが凄く嬉しかった!これでエリアスと会えなくても話せる!そう思うと嬉しくて嬉しくて、ずっとニコニコ笑っちゃう!
何度もゾランに「ありがとう!嬉しい!」って伝える。あまりに嬉しくて、思わずスキップしてそこら辺をクルクル回る。それを見たみんなが何故か嬉しそうに笑う。私も嬉しくなって、また笑っちゃう。
それからみんなで食事をする。いつも美味しいんだけど、今日は種類もいっぱいあるし、ジュースも何種類もあるし、お菓子もいっぱいある!凄いんだな、誕生日って!
ひとしきり食べて、それから大きなケーキって言うのが蝋燭に火が着いた状態でやってきて、そうしたら部屋が真っ暗になって、皆が歌を歌い出す。歌に私とリオの名前を入れて、「歌い終わったら蝋燭の火を吹き消すんだよ」ってリオがこっそり教えてくれて、その時を待ってリオと二人で蝋燭の火をフゥーって吹き消した。
火が消えて部屋が真っ暗になったけど、すぐに灯りがついて部屋が明るくなって、それから皆が手を叩いてまた「おめでとう!」って口々に言う。
メイドのマドリーネがケーキを切り分けてくれて、皆でケーキを食べる。それが凄く美味しかった!今まで食べた物の中で、一番美味しいって思った!すごい!やっぱり人間ってすごい!こんなに美味しいのを作れるなんて!
パクパク食べて、半分食べたところでフォークを置く。
「リュカちゃん、どうしたの?もういいの?美味しくなかった?」
「ううん、ミーシャ!すっごく美味しい!ケーキってすごい!」
「良かった!でも、ならどうして残しているの?」
「これはエリアスに……美味しいの、エリアスも食べたいと思うから……」
「リュカちゃん……!良い子っ!」
「大丈夫だよ、リュカ。エリアスさんの分も残しているから、全部食べても良いんだよ?」
「……うん……でも、やっぱり残しておく!あとでエリアスと一緒に食べる!」
リオにもそう言うと、「そうか!」って分かってくれた。それからリオの願い事は、ゾランの仕事場に見学に行かせて貰う、ということだった。ゾランは少し照れ臭そうにしながら、リオの申し出に微笑んで承諾していた。
ケーキを食べてからも、皆でゲームとかして遊んだ。皆が目隠しをして、柔らかい棒みたいなのを持って、人の気配がしたらその棒で叩くっていうゲームで、最後まで残った人が優勝なんだって。
目隠ししても気配を辿れば何処に誰がいるのかは大体分かるから、すかさず叩いていくと、気づくと私一人になっていて優勝してしまった。皆にすごいね!って言われて、人間があまり気配とか読めない事に気づく。手加減すれば良かった。
そんな感じで遊んでたら、あっという間に時間が過ぎた。誕生日ってすごく楽しいな。リオが朝から嬉しそうにしてたのが分かった!
子供達の親が迎えにきて、ゾランとミーシャがお礼を言ってたりして話しをしてる。そこにエリアスもやって来た!嬉しくなって、すぐに駆けていく。
「おかえり、エリアス!」
「ただいま、リュカ!今日はリオの誕生日だったな!おめでとう!リオ!」
「ありがとうございます。あの、エリアスさん、リュカは誕生日を知らないって言ってたんで僕と一緒にお祝いしたんですが、良かったでしょうか?」
「そう、か……!すまねぇ、リュカ……リオ、ありがとな?」
「あ、いえ!……良かった……!」
「プレゼントとか分かんねぇから、これ、持ってきた。」
「え、これ……何ですか?木の枝?えっ!何これ!」
「それ!ニレの木の!」
「あぁ。リオ、それはな?魔力を帯びた木の枝なんだよ。持つと変な感じするだろ?」
「はい……!何かゾワゾワした感じが持った手から入ってきそう、と言うか……」
「そうなんだ。それが魔力でな。そのゾワゾワしたのを受け入れたり押しやったりしてると、自分の体の中の魔力の流れが段々分かるようになってくる。そうやって練習しておくと、魔法を使う時にすっげぇ役立つぞ?」
「すごい!そんな木があったんですね!ありがとうございます!すっごく嬉しいです!」
リオは嬉しそうにして、ゾランの元へと行く。ゾランもエリアスに軽く会釈をする。
「エリアス!ケーキ!すっごく美味しいの!エリアスのもあるよ!」
「そうか。俺のも残してくれたんだな。」
「ふふ……そうなんですよ。リュカちゃん、自分が食べてるのを半分残してエリアスさんにあげるって。」
「そうなのか?ミーシャ。」
「でも、ちゃんとエリアスさんの分もあるよって言うと、その半分はエリアスさんと一緒に食べるって、そのまま残してるんですよ。」
「そうか……ありがとな、リュカ。ケーキ、旨かったか?」
「うん!すっごく美味しい!一番好き!」
「ハハハ、そっか。やっぱ女の子だな。じゃあ後で一緒に食べような。」
「うん!」
リオにお礼を言って、エリアスの部屋にケーキを持って戻った。今日は楽しかった。誕生日ってすごいな。すごく楽しいんだな。
給仕の人にお茶を入れて貰って、二人でケーキを食べることにした。やっぱりケーキは凄く美味しい!ジャムになってないベリーイチゴに、白いフワフワのクリームが口の中で混ざって、絶妙な味になる!
「ケーキ、すごいね!人間はこんなの作れて、すごいね!」
「そうだな。……ごめんな?俺気づかなくて、リュカに誕生日とかちゃんとしてやれてなかった……」
「ううん!私の誕生日とか、いつかは分からないもん。」
「そう、か……」
「エリアスの誕生日は?」
「俺か?俺も分かんねぇな。」
「誕生日は生まれた日を祝うって……」
「そうだな。」
「私、生まれて良かったのかな……」
「リュカ……!んなの、良いに決まってんだろ!」
「でも……」
「俺が望んだんだ!生まれて欲しいって……!」
「でも……じゃあ私は、なんでお母さんから……龍から生まれたの?」
「それは……っ!」
「エリアスは理由を知ってるんだ……ねぇ、どうして?」
「リュカ……」
エリアスが凄く辛そうな顔をする……どうしたの?何があったの?
知りたいけど、エリアスのそんな顔を見たくなくて、それ以上何も聞けなくなった。
私……生まれてきて良かったの……?
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