黒龍の娘

レクフル

文字の大きさ
上 下
32 / 116
第2章

感情を読む

しおりを挟む

 陽の光が優しく顔を照らす。

 眩しく感じて、思わず目をゆっくり開けると、そこにはエリアスの顔があった。
 エリアスは私を抱き包むようにしていて、温かい腕の中で私は眠っていたんだ、と気づく。

 眠っているエリアスの顔にそっと触れてみる。頬がスベスベしてる。サワサワって撫でて、それからつついたりつねったりしてみた。わぁ、皮が柔らかく伸びるー!

 ふふ……なんだか面白いな……私の肌とはちょっと違う感じだ。鼻もツンツンしてから、ギュッて摘まんでみる。あ、「ふがっ!」って言った!

 
「こら……何してんだ……?」

「うふ……うにーってなった」

「ハハ……面白かったのか?」

「うん」

「……おはよ……リュカ……」

「おはよう、エリアス」


 エリアスが微笑んで、私の頭を撫でてくれる。いいな、こうやって目覚めるの。凄く心地よく感じるし、嬉しい気持ちがいっぱいになる。思わずエリアスの胸に頭を埋めてグリグリしてしまう。エリアスは「何やってんだ?」って笑いながら言って、頭をワシャワシャする。ふふ……なんか楽しい……

 ゆっくり起き上がって、ベッドに座った状態で窓の外を眺める。朝の光が射し込んできていて、部屋の中全体が明るい。真っ暗じゃないって、すごく安心する。

 エリアスも起き上がって、私の頬をぷにーってつねった。「ハハ、柔らけぇ!」って笑ってる。つられて私も笑う。エリアスのそばは良いな……安心するし、嬉しい気持ちが溢れてくる。

 けど、私は昨日、いつの間に寝ちゃったんだろう?あまりよく覚えてないや……

 
「エリアス、きのうわたし、なんでねた?」

「え……あ、うん……疲れてたみたいでな。気づいたら寝てたぞ?」

「エリアス……?」


 エリアスの言葉と感情が違う感じだ。なんでだろう?


「それよりさ、昨日リュカは皆で風呂に入ったろ?どうだった?皆よくしてくれたか?」

「みんな、やさしい」

「そっか!それは良かった!」

「リュカは、おじょうさま?」

「え?」

「おじょうさまは、ダメ?」

「なんだ?なんでそんなふうに言ってんだ?」

「ふく、きれい、ロレーナにきせてもらった」

「ロレーナ?」

「ロレーナはめいど」

「あ……そうか……!昨日のヴィオッティ邸にいたメイドの名前がロレーナか!そういや、昨日着ていた服は……あそこで着せて貰った服だったな!ってか、俺も気が回らねぇな!」

「エリアス?」

「昨日着ていた服が綺麗だったから、リュカはお嬢様だって思われたんだな?で、服を着せてくれたロレーナはメイドだって言ったんだな?」

「うん」

「マジかー……いや、リュカは悪くねぇよ?!ってか、誰も悪くねぇからな!」

「うん……でも、アーネが……」

「アーネがどうした?」

「アーネ、やさしい、でも、とうぞく、おそわれたって」

「……アーネが盗賊に襲われた……?いや、アーネの両親が盗賊に襲われて……アーネは元々商人の娘だからな。裕福に暮らしていたのが一変して……え?それがどうしたんだ?」

「リュカ、じじょうあるから、きいちゃダメって、アーネいった、みんなアーネとけんか?した?」

「そっか……色々聞いてきたのをアーネが庇ってくれたのか?それで、逆にアーネが……」

「リュカ、わるい?リュカ、おじょうさま?」

「いや、リュカは何も悪くないからな!もちろんアーネも悪くないし、皆が悪い訳じゃない。それと、リュカはお嬢様とかじゃねぇ。リュカは……俺の子供だからな。」

「エリアスの……」

「まだ受け入れられねぇかな……うん、それはゆっくりで良い。急に何でもは難しいからな。でも、そっか……昨日のあの時間だけでもそうなるのか……」

「アーネ、なみだ」

「泣いちゃったのか……やっぱりリュカを理解して貰うのは難しいかな……」

「むずかしい?」

「いや……なぁ、リュカ。昨日はここで待っててくれって言ったけど、やっぱり俺と一緒に来るか?」

「うん!いっしょ!いく!」

「そうだな。そうしよう。やるべき事も出来たしな。」

「やるべきこと?」

「ん?あぁ……俺の仕事の事だ。」


 エリアスはニッコリ笑って言うけど、悲しい感情になってる。なんでだろう?


「エリアス、かなしい?」

「え?なに?なんで……」

「エリアスのきもち、かなしい、から」

「リュカ……?!もしかして……感情が読めるのか?!」

「わかる」

「マジか……ディルクの力でも受け継いだのか……すげぇな……」

「でぃるく?」

「あ、いや、ディルクはアシュリーのお兄さんでな、リュカの伯父さんなんだ。ディルクは人の感情が読めたんだ。」

「リュカ、れんしゅう、した」

「練習して出来るようになったのか?!」

「フェンリル、おしえて、くれた」

「えっ!?どうやるんだ?!教えてくれ!」

「んーと、ま、まりょく?を、かんじる」

「相手の魔力を感じるんだな?」

「うん、それと、おなじにする」

「魔力を感じて同じに?同じ……同期させるとか、同調させるって感じか?!」

「んー、そう?かな?」

「分かった。やってみる!」

「え?」


 エリアスは何やら難しそうな顔をして、手をグーにしたりパーにしたりして、それから目を閉じたり力を入れてるような感じにしたりして、そんな事を暫くしてから、私の顔をじっと見て手をそっと握った。

 どうしたのかな?大丈夫かな?練習してるのかな?


「どうしたのか……大丈夫……あぁ、うん、練習してたんだ。」

「エリアス?!」

「今リュカが思ってた事と合ってたか?」

「うん!すごい!エリアス、すごい!」

「いや、まだまだ練習が必要だけどな。触らねぇと読めなかったし。けど、これでリュカの気持ちが分かってやれるな。」

「わかる?」

「あぁ。俺、どうやら鈍感みたいでな。ハハ……これで少しでも人の気持ちが分かってやれるかな。」


 凄い!エリアスは凄い!私も練習して出来るようになったけど、こんなにすぐに出来るようになるなんて!

 私がビックリした顔をしてしていると、エリアスはニッコリ笑って頭をナデナデしてくれた。それから、ギュッって抱きしめてくれる。

 けど、昨日はここに残るように言われたのに、なんで一緒に行くことにしたんだろう?私はその方が嬉しいから良いんだけど……

 エリアスが食事に行こうって言ったから、うん!って答えて一緒に一階に下りていく。まだ皆いなくて、ルーナだけがバタバタと忙しく動いていた。


「あ、エリアス、おはよう!リュカもおはよう!」

「ルーナ、おはよう」

「今日も朝から忙しいんだな、ルーナは。」

「うん!あ、でももう食べられるよ?それとも皆が来るの、待っとく?」

「先に貰おうかな。自分でするから、ルーナは用意しててくれ。」

「あ、うん、分かった。」


 エリアスは私に、「ここに座ってろな?」って言って席に座らせてからキッチンに入って行って、二人分の朝食を乗せたトレーを持ってきてくれた。
 
 今日のも美味しそうで嬉しくなってくる!


「「いただきます!」」


 エリアスと手を合わせて言ってから、パンを口にすると、甘いのが口の中いっぱいに広がる……!ビックリして見てみると、赤いのがパンの中に入ってた。凄く甘くて美味しい!なにこれ!


「どうした?そんなビックリした顔して?」

「これ!おいしい!あかいの!」

「え?あぁ、それはジャムだな。ベリーイチゴって言ってな?甘酸っぱい味の果物なんだ。それを甘く煮て作るんだ。」

「べりいちご、じゃむ、おいしい!」

「え?リュカって、ジャム食べるの初めてなの?」

「あ、そう、なんだ……ろうな。」

「へぇー?お嬢様はジャムとか、庶民的なのは食べないもんなんだねー?」

「え?しょみん……てき?」

「ルーナ……何を聞いたか知んねぇけど、リュカはそうじゃないんだ。だからそんな風に言わないでやってくれねぇか?」

「え、でも……」

「なんか誤解されちまってるみてぇだけど、リュカは普通の子なんだ。お嬢様とか、そんなんじゃねぇからさ。」

「うん……分かった……」

「リュカ、おじょうさま、ちがう」

「分かったって……」

「あ、ほら、リュカ、また口のとこにパンくずつけてる。ったく、こんなところはアシュリーと一緒だな。」

「エリアスも、くち、じゃむ、ついてる」

「え?」


 背伸びしてエリアスの口についてるジャムを指で拭って、指についたのをペロリと舐めた。エリアスは私の口のとこについてたパンくずを取って食べた。二人で顔を見合わせて、ふふって笑う。なんか、楽しいな。

 そうしていると、ゾワッてした感じがきて、背筋がゾクゾクした。ビックリして見ると、ルーナがこっちを見てた。なんか……ルーナの表情は普通だけど、心は怒ってる……私とエリアスが仲良くしてるの、嫌なんだ……

 私がビックリした顔をしてるのと同じくらい、エリアスもビックリした顔をしていた。もしかして、エリアスにも分かったのかな……


「え、なに?二人してあたしを見て……なんか顔についてる?」

「あ、いや、なんでもねぇ……」

「なら良いんだけど……」


 そう言うとルーナは出来上がったおかずを向こうへ置きに行った。私とエリアスは二人、顔を見合わせて……


「リュカ……今の、感じたのか……?」

「……うん……」

「そうか……リュカはずっと……?」

「……うん……」

「分かってやれなくて……悪かった……」

「ううん?だいじょうぶ」

「今になってディルクの気持ちが分かるなんてな……あ、いや、リュカの伯父さんのディルクもな?小さな頃からそうだったから、時々頭がいっぱいになって倒れてたって言ってんだ。もっと詳しくリアルに感じてたんだとは思うけど……そうか……俺、全然分かってなかった……」

「エリアス、すごい、さわってない、わかった」

「あぁ……分かりやすい感情だったからなのかな……けど、そうだったのか……」


 ルーナの気持ちが分かったのか、エリアスはちょっと困ってる感じだった。けど、エリアスからの感情が分からなくなった。なんでかな?まぁ、エリアスは嘘を言ったりは多分しないと思うから、大丈夫だとは思うけど……

 私を見て、困ったように笑うエリアス。

 エリアスに感情を読むの、教えない方が良かったのかも知れない……






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

魔法の本

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女が入れ替わる話

異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび
ファンタジー
ある日、突然転生の為に呼び出された男。 しかし、異世界転生前に神様と喧嘩した結果、死地に送られる。 魔物に襲われそうな所を白銀の狼に助けられたが、意思の伝達があまり上手く出来なかった。 狼に拾われた先では、里ならではの子育てをする過保護な里親に振り回される日々。 男はこの状況で生き延びることができるのか───? 大人になった先に待ち受ける彼の未来は────。 ☆ 第1話~第7話 赤ん坊時代 第8話~第25話 少年時代 第26話~第?話 成人時代 ☆ webで投稿している小説を読んでくださった方が登場人物を描いて下さいました! 本当にありがとうございます!!! そして、ご本人から小説への掲載許可を頂きました(≧▽≦) ♡Thanks♡ イラスト→@ゆお様 あらすじが分かりにくくてごめんなさいっ! ネタバレにならない程度のあらすじってどーしたらいいの…… 読んで貰えると嬉しいです!

三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河

墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。 三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。 全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。 本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。 おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。 本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。 戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。 歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。 ※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。 ※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

処理中です...