黒龍の娘

レクフル

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第2章

人間って大変

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 食事が終わって、それから皆がお風呂に入るって言い出した。

 一階の奥の方にお風呂があって、男の子と女の子と一日交代でお風呂に入るって事が決められてるらしい。で、今日は女の子が入る日だって、アーネって名乗った子が言いに来た。


「ねぇリュカ!一緒にお風呂入ろう!」

「え……おふろ……」

「そうだな、リュカ、皆と入ってきたらどうだ?」

「でも……」

「着替えとかは脱衣場にあるから大丈夫だよ!ほら、行こう!」


 アーネは私の手を引っ張って、強引にお風呂へと連れていった。もう触っても大丈夫かな……大丈夫みたい……良かった。
 ドキドキしながら、その場所まで足早で歩いていく。他の女の子達も同じようにお風呂へと向かっている。

 脱衣場と言われた所に着いて、ここに脱いだものを置いておくんだよ!って教えてもらう。他の子も皆服を脱ぎ出して、大きなカゴに着ていた服を入れていく。私も同じようにして服を脱いだ。


「キレイな服だよねー……これはエリアスに買って貰ったの?」

「ふく……ちがう、ロレーナがきせた」

「ロレーナ?」

「うん、ロレーナはめいど」

「メイド?!凄い!そんな人がいる所に住んでたんだ!」

「え?!なになに?!凄い所って?!」

 
 アーネの言った事に皆が反応して、私の周りに女の子達がやって来る。なんでだろう?緊張する!


「リュカね、メイドさんがいる所に住んでたんだって!お嬢様だよ!凄くない?!」

「そうなんだ!私、メイドって見たことない!」

「えー!じゃあここに来たときビックリしたんじゃない?!リュカが住んでた所より大きくなくて!」

「どきどき、した」

「そっかぁー、そうだよね、あ、でも、ここはそんなに悪い所じゃないんだよ!大人達は皆優しいし、勉強も教えて貰えるしさ、三食食べられるって凄い事だしね!」

「それはリュカには当然の事でしょ!」

「エリアスも優しいし格好いいし、スッゴい強いしさ!だってオルギアン帝国のSランク冒険者だよ?!そんな人が私達の面倒を見てくれてるんだよ!凄いよねー!」

「そんな人がお父さんって、リュカは良いよねー!」

「あたし、理想の男の人がエリアスなんだー!あたしさ、大人になったらエリアスと結婚したいんだよねー!」

「それはここにいる皆がそうでしょ!でもエリアスはアシュリーだけだしさ!」

「そうなんだよねー!でも、そういうところも良いんだよー!」

「アシュリーが完璧だったからさ、もう他の人とか無理なんじゃない?」

「ちょっと天然なとこも可愛かったし、でもスッゴく優しいし綺麗だし、理想の女性だったよねー!」

「ほら、ルーナも狙ってんじゃん?でも、エリアスは鈍感だからさー?何にも気づいてないんだよ。エリアスにはハッキリ言わなきゃダメだよねー?!」

「そんなことより!リュカの事を聞きたい!」

「ねぇ、なんで離れて暮らしてたの?」


 矢継ぎ早に色んな話があちこちに飛び交って、理解しようと考えるだけで精一杯で、何をどう答えて良いか分からない…… 
 

「あ、の……とおくにいて、やっと、あった……」

「遠い所にいたんだ。やっとって、じゃあ、ずっと会えてなかったんだ……」

「それはなんでなの?」

「なんで……わからない……」

「リュカにも分かってない事があるんだ……まぁでも、お嬢様だったって事は分かったよね!」

「おじょうさま?」

「そ!リュカの事!」

「あ、リュカ、その腕輪は取らないの?」

「うでわはこのまま」

「両方の手首に別々のがついてるね。一つは……エリアスと一緒のだ!」

「えー!良いなぁ!お揃いなんだー!」

「良いよねー!あたしも欲しいー!」

「それは仕方ないよ!だって、リュカはエリアスの子供なんだから!」

「そうだけどさー」

「とりあえず早く入ろうよ!寒くなってきた!」


 裸のままで喋ってた子もいて、皆バタバタとお風呂へ向かった。私も下に着ていた肌着を脱いで裸になる。


「リュカ……なに、これ……」

「え?」

「背中になんか……黒い線みたいなのが二つあるの……」

「せなか……それはつばさ」

「つばさ?え?なに?なんか刺青みたいなのを入れたってこと?!」

「いれずみ?」

「あ、ううん、いいよ、なんでもない!なんか事情があるかも知れないし!」

「じじょう……」

「なんでもないよ!あ、ねぇ、早く入ろう?!」

「おふろ、はいる」


 私の背中を見て、アーネはビックリしていた。これは翼なんだけど、そう言えば他の子達には無かったな……そうか、龍になれる私にだけにあるって事なのか……

 フェンリルといた時、これも練習して、人間の姿のまま翼だけを出して飛ぶことが出来るようになった。その名残なのかな?

 浴室の扉を開けると、ムァーってした感じが全身にきて、体が湿気に纏われて温かくなる。洗う場所で皆座って、体を洗ったり頭を洗ったりしていた。
 アーネは、これで頭を洗うんだよ、とか、体はこれを使って洗うんだよ、とか色々教えてくれた。優しいんだな。
 小さい子を、大きな子が洗ってあげたりしてる。皆仲が良さそう。

 教えられたように、私も自分の体を洗う。他の子達の洗い方とかを見ながら、真似をするようにして洗っていく。体が泡だらけになって、凄く不思議だ。
 
 体を洗って、それからお湯に浸かる。それがすごく気持ちいい!「髪は束ねとくんだよ」ってアーネが言って、私の髪をゴムで束ねてくれた。

 お湯に浸かりながらも、皆、私への質問は止まらなかった。


「ホント、アシュリーとソックリだよねー!アシュリーは凄く綺麗な人だったから、リュカも大きくなったらもっと綺麗になるんだろうねー?」

「アシュリー……」

「リュカは会ったことはないの?」

「ない……」

「そうなんだ……でもなんで離れて暮らしてたんだろうね?エリアスとアシュリーなら、我が子を絶対離したりしなさそうなのにね?」

「きっと何か事情があるんだよ!あんまり聞いちゃダメだよ!」

「そうなの?……その、背中のも……」

「ダメだって!アユラ!」

「えー?でも色々聞きたいじゃん!私達は親から捨てられたり死別したり、奴隷にされてたりしたのを助けられてここにいるんだよ?なのに、リュカはお嬢様でさ、裕福に暮らしてたんだよ?私達とは違う人種なんだよ?苦労も何も知らないでさ、エリアスの愛情をいっぱい貰ってさ、どういうつもりでここにいるのか、聞いてみたいじゃん!」

「そりゃそうか。それは気になる。」

「そんな事言ったら、リュカが可哀想だよ!言えない事情とかあるかも知れないし、リュカも知らない事があるかも知れないしさ!」

「なによアーネ!良い子ぶっちゃってさ!」

「そんなんじゃないよ!」

「アーネも裕福に育った口だもんね?親が盗賊に襲われるまでは……」

「か、関係、ないでしょ……」

「シモーヌ、それは言っちゃダメだって!」

「そうだよ、目の前でアーネはそれを見たんだから……あ、ごめん……」


 言われて下を向いたアーネがポロポロ涙を流しだした。私のせいで、なんだか皆が言い合いみたいになってる。皆が私の事をおじょうさまって言ってる。でも、それって何なんだろう?その、おじょうさまってのがダメなのかな?なんで皆が言い合ってるのか分からないよ……

 そんなことがあったから、それから皆私に何も聞かなくなって、アーネを慰める子がいたりして、徐々に皆お風呂から上がっていった。

 外に出ると、「これで体を拭いてね」って布を渡されて、「ここに着替えがあるからね」って教えて貰って、皆の様子を見ながら私も同じようにした。
 アーネはあれから喋らずに、ずっと涙ぐんで下を向いたままだった。
 
 どう言っていいのか、私が悪いのか、どうしたら良いとかが分からなくて、アーネを見ながらゆっくりと脱衣場から出ていく。

 なんか、人間って大変……

 アーネ、大丈夫かな……?



 

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