黒龍の娘

レクフル

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第2章

心の傷

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 俺が施した魔法で、怪我をした人々は回復し、魔物に壊された建物なんかは修復できた。

 けれど、セームルグの力を持ってしても、亡くなった人がいたのは事実で、それはもうどうにも出来ないことで……

 リュカはその様子を、涙を流しながら悲しそうな表情で見渡していた。

 涙を拭いて、リュカを抱き上げて頭を撫でて、それからヴィオッティ邸へリュカと一緒に入らせて貰う。ここは強力な結界が施されてあったので、邸にいた人達は無傷だった。良かった。


「あ、リュカちゃん!大丈夫でしたか!?いきなり外に飛び出して行って……あ、あの、貴方は……」

「あぁ、俺はエリアスと言う。リュカの保護者だ。迎えに来たところで、この騒動があったからな。もう魔物は大丈夫だ。」

「そうだったんですね……ですが、もう魔物は大丈夫って……」

「……粗方俺が討伐しといた。街も修復はさせたし、怪我人も回復させておいた。けど、亡くなった人も大勢いる。それはどうにも出来なかった。すまねぇ。」

「え?あの、それはどういう……」

「リュカ!無事だったんだね!さっき飛び出して行ったって聞いて……」


 向こうから急いだ感じでバタバタと駆けて来た男が、リュカを見て、それから俺を見て立ち止まった。


「あ、あの、貴方は……」

「俺はリュカの保護者のエリアスだ。オルギアン帝国から来た。」

「オルギアン帝国のエリアス……えっ?!Sランク冒険者のっ?!貴方が!」

「リュカが世話になったみてぇだな。感謝する。」

「いえっ!とんでもございません!僕は領主の息子のレオナルド・ヴィオッティと申します!」

「もう魔物は大丈夫だ。街の状況を確認して、国王に報告してくれ。あぁ、建物とかは修復させている。被害者のフォローをして貰えるように言ってやってくんねぇか?俺もまた国王に会いに行って報告すっから。今はとにかくリュカを安心させてやりてぇんだ。」

「あ、はい!分かりました!」

「レオ……」

「あ、リュカ、どうしたんだい?」

「ありがとう、うれし、かった」

「リュカ……僕もリュカと過ごせて楽しかったし、嬉しかったよ!またいつでも遊びにおいで!」


「この礼はまたさせて貰う。じゃあな。」

「いえ、お礼等……」


 レオナルドに一礼してから、空間移動でオルギアン帝国の帝城の俺の部屋へと戻ってきた。
 リュカは辺りをキョロキョロ見て、少し表情を和らげた。


「リュカ、この部屋は覚えてるか?」

「ゾラン、ミーシャ、いっしょに、しょくじ、した」

「そうだ。やっぱり龍のリュカだったんだな……いや、分かってたんだけどな、実感したって言うか……なぁ、リュカ……」

「うん?」

「なんで俺の前でリュカはずっと龍でいたんだ?」
 
「りゅうのリュカ、エリアス、やさしい、にんげんのリュカ、すき、わからない」

「その姿の時もなんかあったのか?!」

「……わからない……こわかった」

「そうか……ずっと不安だったんなだな……けど、もう大丈夫だ。」

「だいじょうぶ?エリアス、にんげんのリュカ、すき?」

「当然だ!龍のリュカも、人間の……今の姿のリュカも好きだ!大好きだ!」

「だい、すき?」

「好きよりもっと好きってことだ。」

「エリアス、だいすき」

「マジかっ!やべぇ……!」


 ソファーに座って、俺の膝の上にリュカをのせて、抱きかかえるようにしながらギュッてして、優しく何度も頭を撫でる。
 こうできるのが嬉しくて、嬉しすぎてたまんねぇ……


「ずっと俺と一緒にいよう。これからは俺がリュカを守るから。」

「ずっと?いっしょ?」

「あぁ。あ、けど、リュカが嫁に行ったら一緒にはいられねぇか……って、嫁にとか考えらんねぇー!」

「よめ?いく?」

「あ、いや、それはまだ先の話だし、嫁に行かなくても全然良いんだけどな!とにかく!俺はリュカが必要と思ってくれてる間は一緒に居続けるから!約束する!」

「やくそく……いっしょ、ずっと?やくそく?」

「あぁ!約束だ!」

「やくそくだ!」


 そう言ってニッコリ笑うリュカが可愛くて、すっげぇ可愛くて、思わず強く抱きしめちまう。


「うぅーっ……エリ、アス、いたい……?」

「あ、悪い!リュカが可愛くてつい!」

「リュカ、かわいい?」

「あぁ、可愛いぞ!あ、そうだ、リュカ、腹減ってねぇか?」

「はらへって?」

「あ、いや……お腹空いてないか?」

「おなか、すいた!」

「そうだよな。もう昼過ぎだからな。じゃあ、ちょっと用意して貰うように言ってくるな!」


 俺の膝からリュカを下ろしてソファーに座らせる。部屋から出ようとしたところで、後ろからリュカが俺を呼ぶ。


「エリアスっ!」

「え?」

「いっしょ!」

「え、リュカ?」

「いっしょに!」


 不安そうな顔をして、リュカが俺の元まで走ってやって来て、俺の腕を両腕で掴んで抱きしめるようにする。
 少しの間離れるのも嫌がるくらい、リュカは不安なんだろうな……


「じゃあ、一緒に行こうか。」

「うん!」


 ホッとしたような表情になって、俺を見て微笑む。やべぇな……可愛い過ぎる……!

 リュカと手を繋いでゾランの執務室まで足を運ぶ。帝城の中を歩くのが初めてのリュカは、あちらこちらへと視線を向け、物珍しそうにキョロキョロしていた。その様子も可愛くて、思わずじっと見続けちまう。

 執務室に着いて、扉をノックして入室する。俺がリュカを連れてるのを見て、ゾランは嬉しそうに近づいてきた。


「リュカ……だよね?!うわぁ……本当に似ている!アシュリーさんの生き写しじゃないですか!」

「そうだろ?そっくりだろ?可愛い過ぎんだろ?」

「はい!これはエリアスさんがメロメロになるのも仕方がないです!」

「メロメロとか、恥ずかしいヤツだな!けど、そうだな。やっとリュカに会えた。それが嬉しくて仕方ねぇ。」

「良かったです!エリアスさん!良かったですね!」

「あぁ、マジで俺もそう思う。で、ちょっとリュカに飯食わせてやりてぇんだけど……」

「あ、はい、では用意させますね!」

「それと、後で話がある。ピンクの石で話す。」

「え?……はい、分かりました。」


 ピンクの石は対になっていて、離れた場所でも持っている者同士が話す事ができる優れものだ。それは頭の中で会話が出来るので、聞かれたくない事もそれで話ができたりする。
 俺もゾランとの連絡用に持っていて、それを使って話をするつもりだ。

 今回のラパスの街で起こった事をゾランに報告しねぇといけないんだけど、リュカの前では話したくなかった。
 これ以上、リュカに悲しい思いをさせたくはねぇからな。

 ゾランの部屋から、空間移動で俺の部屋まで戻る。

 しばらくして、部屋に食事が運ばれた。食事を持ってきてくれたのはミーシャだ。
 ミーシャはリュカを見て驚いてから、アシュリーにすごく似ている、と言って涙ぐんだ。リュカもミーシャに会えて嬉しそうに笑っていた。

 こうやって、これからもリュカが笑っていられるようにしてやらねぇとな。

 リュカと一緒に飯を食ってる時も、俺と目が合うと微笑んでくれるリュカ。けど、ふとした瞬間に悲しそうな顔をする。その顔を見てると、俺の心もギュッてなっちまう。

 リュカが負った心の傷を癒してやりてぇ……

 リュカを探しだすことばっか考えてて、じゃあ戻ってきたらどうすんだって、具体的に考えてなかった。

 これからどうするかをちゃんと考えないといけないな。



 


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