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32話 笑顔
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セヴランが自分から進んで言う事はないだろうと、リュシアンはメリエルに詳細を聞くことにした。
「アイブラー嬢、どういう事か説明して貰えるか」
「はい。セヴラン様が別邸に持って来られたシオンお嬢様たちのお食事は、私達使用人が食す物よりも質素な物でした。使用人達にはビュッフェ形式で様々な料理が用意されていますが、そこから少しばかりの量を取り分けて持って来ていたんですよね? セヴラン様?」
「……そんな事をしていたのか?」
「い、いえ、そんな、事は……」
「料理長に食事の改善をお願いしに行きましたが、いつも取り合って貰えませんでした。ですから私がシオンお嬢様達の食事を用意させて頂こうと思ったんです。せめてメインくらいはご用意させて頂きたくて……」
「そうだったのだな……それが本当であれば、改善の余地が必要だな」
「私は嘘は言っておりません!」
「そうだな。いや……」
メリエルの言う事は全面的に信じたい。だが、シオンに言わされているだけかも知れない。脅迫されているのかも知れない。
とは言え、こんな嘘を言う必要があるのか? もし事実であれば、セヴランがシオン達を虐げていた事になる。なのにあの悪女が何も言わなかったのか?
そうリュシアンは思いを巡らせるが、メリエルが、ノアが関わっている以上、捨て置く事は出来なかった。
「分かった。この事は改善させる。使用人たちの行動も調べてみよう。昼食はまだなのだな? すぐに用意させる」
「あ、ありがとうございます!」
「他には何もないか?」
「あ、えっと……私はシオンお嬢様の侍女で良いんですよ、ね……?」
「アイブラー嬢が嫌でなければ、だが……」
「もちろんです! 良かったぁ!」
移動の話が無くなってやっとメリエルは安堵し、思わず笑顔を綻ばせた。その笑顔はノアを思い出させる。思わずリュシアンはメリエルの笑顔に釘付けになった。
そうだ。ノアは笑顔が素敵な女の子だった。それがフィグネリアの元へ行ってからは笑顔が消えてしまったのだ。元より泣き虫な子だった。そんなノアの笑顔を守りたくて、リアムはいつもノアの傍で力になり支えようとしたのを思い出した。
「本当にありがとうございます! 安心しました!」
「そうか。それなら良かった」
「はい! あ、それからもう一つ!」
「なんだ?」
「先程別邸に来られてお怒りになられたとお聞きしました。あの……なぜいけなかったんでしょうか……?」
「それは当然だろう?」
「ですが荒れた庭を丁寧に整えているだけなんです! 季節の花を植えて、少しでも見栄えをよくしようと……」
「は? 庭?」
「はい。庭を整備した事を怒っていたのではないんですか?」
「そんな事で怒る訳がないだろう」
「では何を怒っていらっしゃったんですか?」
「それは……」
メリエルの口調からは、リュシアンがシオン達に理不尽に怒っているように感じられる。
しかし、リュシアンはメリエルがシオンから酷い目にあったと思い込んでいたのだ。それがリュシアンの思い違いであった可能性がここにきてでてきた。
しかしこうも考えられる。メリエルはシオンに良いように使われているのかも知れない。洗脳されているのかも知れない。だから簡単にはメリエルの言う事全てを鵜呑みにしてはいけない。リュシアンはそう考えを巡らせる。
「な、なんにせよ、勝手な行動は謹んで頂きたい、と言ったに過ぎないのだ」
「では、事前に相談させて頂いたら許可をくださる、という事でしょうか?」
「そう、だな……」
「では! 庭を手入れさせて頂いても良いでしょうか?!」
「……許可する」
「ありがとうございます! シオンお嬢様がお喜びになります!」
そう言うとメリエルは嬉しそうに微笑んで、リュシアンに深々と礼をしてから侍女長室を後にした。
話せば分かってくれる方だった。さっきシオン達を怒ったと言うのが信じられない程、メリエルに向けるリュシアンの目は温かかった。やっぱりリュシアンがシオンを冷遇していると言う事はなかったんだ。何か誤解があったかも知れないけれど、ちゃんと話せば分かる人だと、メリエルは安堵した。
一方、侍女長室に残ったリュシアンとセヴランと侍女長ノエル。
自分の預かり知らぬ事があった事に苛立ちを覚えたリュシアンは二人を問い質そうとするが、威圧的な態度に恐怖を感じたのか、セヴランも侍女長も何も言えない状態だった。
諦めるようにため息を吐くと、リュシアンは侍女長室を後にした。
「ユーリ」
「は!」
リュシアンがその名を呼ぶと、何処からともなく一人の男が姿を現した。
「使用人達の内情を調べて貰えるか」
「それは今回の事を含めて、ですか?」
「なんだ。もう調べてあるのか?」
「勿論です」
「流石だな」
ユーリと呼ばれた男はモリエール公爵家に仕える暗部の者だ。
外交において情報を得るために必要であったり、近隣の村や街、他領等にも諜報員として派遣されていたり、それは他国にも及ぶ。
その中でもユーリはモリエール家内部の事情に特化させていて、リュシアンの影の側仕えとも呼ばれている。
とは言えやはりユーリは暗部の者なので、リュシアンも滅多な事では呼び出したりはしない。今回も自分で解決できると思ったからこそ、何の情報も得ないままに別邸に一人で赴いたのだが、それが間違いだったと考えを改めた。
そしてリュシアンは、今公爵家で何が起こっているのかを知ることになるのだった。
「アイブラー嬢、どういう事か説明して貰えるか」
「はい。セヴラン様が別邸に持って来られたシオンお嬢様たちのお食事は、私達使用人が食す物よりも質素な物でした。使用人達にはビュッフェ形式で様々な料理が用意されていますが、そこから少しばかりの量を取り分けて持って来ていたんですよね? セヴラン様?」
「……そんな事をしていたのか?」
「い、いえ、そんな、事は……」
「料理長に食事の改善をお願いしに行きましたが、いつも取り合って貰えませんでした。ですから私がシオンお嬢様達の食事を用意させて頂こうと思ったんです。せめてメインくらいはご用意させて頂きたくて……」
「そうだったのだな……それが本当であれば、改善の余地が必要だな」
「私は嘘は言っておりません!」
「そうだな。いや……」
メリエルの言う事は全面的に信じたい。だが、シオンに言わされているだけかも知れない。脅迫されているのかも知れない。
とは言え、こんな嘘を言う必要があるのか? もし事実であれば、セヴランがシオン達を虐げていた事になる。なのにあの悪女が何も言わなかったのか?
そうリュシアンは思いを巡らせるが、メリエルが、ノアが関わっている以上、捨て置く事は出来なかった。
「分かった。この事は改善させる。使用人たちの行動も調べてみよう。昼食はまだなのだな? すぐに用意させる」
「あ、ありがとうございます!」
「他には何もないか?」
「あ、えっと……私はシオンお嬢様の侍女で良いんですよ、ね……?」
「アイブラー嬢が嫌でなければ、だが……」
「もちろんです! 良かったぁ!」
移動の話が無くなってやっとメリエルは安堵し、思わず笑顔を綻ばせた。その笑顔はノアを思い出させる。思わずリュシアンはメリエルの笑顔に釘付けになった。
そうだ。ノアは笑顔が素敵な女の子だった。それがフィグネリアの元へ行ってからは笑顔が消えてしまったのだ。元より泣き虫な子だった。そんなノアの笑顔を守りたくて、リアムはいつもノアの傍で力になり支えようとしたのを思い出した。
「本当にありがとうございます! 安心しました!」
「そうか。それなら良かった」
「はい! あ、それからもう一つ!」
「なんだ?」
「先程別邸に来られてお怒りになられたとお聞きしました。あの……なぜいけなかったんでしょうか……?」
「それは当然だろう?」
「ですが荒れた庭を丁寧に整えているだけなんです! 季節の花を植えて、少しでも見栄えをよくしようと……」
「は? 庭?」
「はい。庭を整備した事を怒っていたのではないんですか?」
「そんな事で怒る訳がないだろう」
「では何を怒っていらっしゃったんですか?」
「それは……」
メリエルの口調からは、リュシアンがシオン達に理不尽に怒っているように感じられる。
しかし、リュシアンはメリエルがシオンから酷い目にあったと思い込んでいたのだ。それがリュシアンの思い違いであった可能性がここにきてでてきた。
しかしこうも考えられる。メリエルはシオンに良いように使われているのかも知れない。洗脳されているのかも知れない。だから簡単にはメリエルの言う事全てを鵜呑みにしてはいけない。リュシアンはそう考えを巡らせる。
「な、なんにせよ、勝手な行動は謹んで頂きたい、と言ったに過ぎないのだ」
「では、事前に相談させて頂いたら許可をくださる、という事でしょうか?」
「そう、だな……」
「では! 庭を手入れさせて頂いても良いでしょうか?!」
「……許可する」
「ありがとうございます! シオンお嬢様がお喜びになります!」
そう言うとメリエルは嬉しそうに微笑んで、リュシアンに深々と礼をしてから侍女長室を後にした。
話せば分かってくれる方だった。さっきシオン達を怒ったと言うのが信じられない程、メリエルに向けるリュシアンの目は温かかった。やっぱりリュシアンがシオンを冷遇していると言う事はなかったんだ。何か誤解があったかも知れないけれど、ちゃんと話せば分かる人だと、メリエルは安堵した。
一方、侍女長室に残ったリュシアンとセヴランと侍女長ノエル。
自分の預かり知らぬ事があった事に苛立ちを覚えたリュシアンは二人を問い質そうとするが、威圧的な態度に恐怖を感じたのか、セヴランも侍女長も何も言えない状態だった。
諦めるようにため息を吐くと、リュシアンは侍女長室を後にした。
「ユーリ」
「は!」
リュシアンがその名を呼ぶと、何処からともなく一人の男が姿を現した。
「使用人達の内情を調べて貰えるか」
「それは今回の事を含めて、ですか?」
「なんだ。もう調べてあるのか?」
「勿論です」
「流石だな」
ユーリと呼ばれた男はモリエール公爵家に仕える暗部の者だ。
外交において情報を得るために必要であったり、近隣の村や街、他領等にも諜報員として派遣されていたり、それは他国にも及ぶ。
その中でもユーリはモリエール家内部の事情に特化させていて、リュシアンの影の側仕えとも呼ばれている。
とは言えやはりユーリは暗部の者なので、リュシアンも滅多な事では呼び出したりはしない。今回も自分で解決できると思ったからこそ、何の情報も得ないままに別邸に一人で赴いたのだが、それが間違いだったと考えを改めた。
そしてリュシアンは、今公爵家で何が起こっているのかを知ることになるのだった。
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