31 / 86
31話 内部事情
しおりを挟む
「なんですって?! メリエル・アイブラー、そんな事は許されませんよ!」
いきなり何を言うのかと侍女長ノエルは驚き、すぐにメリエルの発言を止めようとする。しかしメリエルはそんな事は百も承知で、この事に関しては簡単には引き下がりたくはなかった。
「ですが侍女長! 私は今回の事……食事の事も移動の事も納得できないんです! セヴラン様、お願い致します! 公爵様にお目通りを!」
「そんな事でリュシアン様のお時間を割く訳にはいきません。抗議があるのでしたら書面にて受け付けます」
「それが受け付けられるのはいつなんですか! すぐに対応していただけるんですか?!」
「精査するのに時間は頂きます。それまでは本邸での勤務とします」
「ですからそれが納得できないんです!」
「何が納得できないんだ?」
「え……あ、公爵様!」
セヴランが来た時に開けっ放しにされた扉の向こう側から、リュシアンがゆっくりと入ってくる。
リュシアンは侍女長にメリエルの移動の件と、メリエルについて詳しく聞こうと思い侍女長室まで来ていたのだが、そこにメリエルがいて何やらセヴランに抗議をしている。何があったのか。不満があれば取り除いてやりたい。リュシアンの頭の中にいるノアを思うと、自然とメリエルへと足が向く。
「騒がしくして申し訳ありません」
「構わない。それでアイブラー嬢、なにが納得いかないんだ?」
「それは……」
「リュシアン様、この件はこちらでちゃんとしますから。お手を煩わせませんので……」
「セヴラン、私はアイブラー嬢に聞いているのだ」
「は……申し訳ございません」
差し出がましい事をしたと、セヴランはうしろに控えた。それを見計らってメリエルはズイッとリュシアンの前に出る。
「申し上げます。移動の事です。私はなぜ別邸から……シオンお嬢様付きの侍女から本邸への勤務に変更になったんでしょうか?」
「それがアイブラー嬢の為だと思うからだが」
「私の為? それはどういう意味ですか?」
「貴女はあの女……シオン嬢に酷い仕打ちにあったのだろう? だからその職場から開放しようと言ってるのだ」
「私はシオンお嬢様から酷い仕打ちなんて受けておりません!」
「脅されているのか? 誰にも言わぬように言われているのだろう?」
「いえ! そんな事は決してありません! それを言うならここでの皆の対応の方が酷いです!」
「それはどういう事だ?」
「何を言ってるのですか! メリエル・アイブラー! いい加減な事を公爵様に言うつもりですか?!」
「侍女長、私は貴女の意見を聞いているのではありません」
「ですが侍女達の問題は全て侍女長である私の管轄でございます! 公爵様の貴重なお時間をこれ以上頂く訳には……!」
「黙れと言っているのだ」
「……っ!」
言われて、侍女長ノエルは口を噤んだ。やっと静かになったとばかりに、リュシアンは優しくメリエルに確認する。
「アイブラー嬢、ここで……この本邸で何か酷い事でもあったのか?」
「はい……今日の昼食ですが、食堂に改装工事がはいるだとかで別の場所に移されたようなんですが、誰も私にその場所を教えてくださらなくて……」
「なに?」
「会議室1だと伝えましたわ!」
「それは私が問いただしたからです! それにきっと今行っても、もう昼食は片付けられているんですよね?」
「セヴラン、食堂の改装工事というのはどういう事だ? 私は何も聞いていないが?」
「そ、それは私も聞いておりませんが……」
「これはどういう事なのか。侍女長」
「あ、それ、は……その……」
「私はここに来てすぐに別邸での勤務となりましたので、本邸の内部をよく分かっておりません。急に別の場所に食堂を移したと言われても、それが会議室になったとしても、そこが何処にあるのかも分からなかったんです。しかも毎日場所は変わると言われて、その場所を知らせる用紙も無くなったと言われてしまえばどうすれば良いのか……」
それを聞いたリュシアンは、眉間にシワを寄せる。聞くだけでも、それは悪質なイジメだと認識できる。しかもそれは一人で行われる事ではなく、使用人達が挙って行ったという事も。
「……侍女長、なぜそんな事を?」
「……わ、私は、あ、の……」
「一人の侍女を皆で虐めていたと言う事か。これがモリエール公爵家の使用人達の実情とはな。情けない」
「それは……っ!」
「何が違うのか」
「…………」
「私一人を虐めていた訳ではありませんよね?」
「それはどういう事だ?」
ここぞとばかりにメリエルは言わなければと、リュシアンを見てから、目線をセヴランに移す。
「シオン様達の食事ですが、なぜあんなに質素な物を用意なさるんですか?」
「な、何を言ってるんですか?!」
「貴族の……しかも公爵様の奥様です。なのに私達使用人よりも酷い食事をご用意されていましたよね? セヴラン様」
「……そうなのか? セヴラン……?」
「えっと、な、なんの事、でしょう……」
まさか自分に飛び火が降りかかってくるとは思わず、セヴランは思わず後退る。顔色を悪くして冷や汗をかき、目は何処を見ていいのかあちらこちらへと動いている。
自分の知らない所で何がこの邸で起こっていたのか、リュシアンは知らなければと思ったのだった。
いきなり何を言うのかと侍女長ノエルは驚き、すぐにメリエルの発言を止めようとする。しかしメリエルはそんな事は百も承知で、この事に関しては簡単には引き下がりたくはなかった。
「ですが侍女長! 私は今回の事……食事の事も移動の事も納得できないんです! セヴラン様、お願い致します! 公爵様にお目通りを!」
「そんな事でリュシアン様のお時間を割く訳にはいきません。抗議があるのでしたら書面にて受け付けます」
「それが受け付けられるのはいつなんですか! すぐに対応していただけるんですか?!」
「精査するのに時間は頂きます。それまでは本邸での勤務とします」
「ですからそれが納得できないんです!」
「何が納得できないんだ?」
「え……あ、公爵様!」
セヴランが来た時に開けっ放しにされた扉の向こう側から、リュシアンがゆっくりと入ってくる。
リュシアンは侍女長にメリエルの移動の件と、メリエルについて詳しく聞こうと思い侍女長室まで来ていたのだが、そこにメリエルがいて何やらセヴランに抗議をしている。何があったのか。不満があれば取り除いてやりたい。リュシアンの頭の中にいるノアを思うと、自然とメリエルへと足が向く。
「騒がしくして申し訳ありません」
「構わない。それでアイブラー嬢、なにが納得いかないんだ?」
「それは……」
「リュシアン様、この件はこちらでちゃんとしますから。お手を煩わせませんので……」
「セヴラン、私はアイブラー嬢に聞いているのだ」
「は……申し訳ございません」
差し出がましい事をしたと、セヴランはうしろに控えた。それを見計らってメリエルはズイッとリュシアンの前に出る。
「申し上げます。移動の事です。私はなぜ別邸から……シオンお嬢様付きの侍女から本邸への勤務に変更になったんでしょうか?」
「それがアイブラー嬢の為だと思うからだが」
「私の為? それはどういう意味ですか?」
「貴女はあの女……シオン嬢に酷い仕打ちにあったのだろう? だからその職場から開放しようと言ってるのだ」
「私はシオンお嬢様から酷い仕打ちなんて受けておりません!」
「脅されているのか? 誰にも言わぬように言われているのだろう?」
「いえ! そんな事は決してありません! それを言うならここでの皆の対応の方が酷いです!」
「それはどういう事だ?」
「何を言ってるのですか! メリエル・アイブラー! いい加減な事を公爵様に言うつもりですか?!」
「侍女長、私は貴女の意見を聞いているのではありません」
「ですが侍女達の問題は全て侍女長である私の管轄でございます! 公爵様の貴重なお時間をこれ以上頂く訳には……!」
「黙れと言っているのだ」
「……っ!」
言われて、侍女長ノエルは口を噤んだ。やっと静かになったとばかりに、リュシアンは優しくメリエルに確認する。
「アイブラー嬢、ここで……この本邸で何か酷い事でもあったのか?」
「はい……今日の昼食ですが、食堂に改装工事がはいるだとかで別の場所に移されたようなんですが、誰も私にその場所を教えてくださらなくて……」
「なに?」
「会議室1だと伝えましたわ!」
「それは私が問いただしたからです! それにきっと今行っても、もう昼食は片付けられているんですよね?」
「セヴラン、食堂の改装工事というのはどういう事だ? 私は何も聞いていないが?」
「そ、それは私も聞いておりませんが……」
「これはどういう事なのか。侍女長」
「あ、それ、は……その……」
「私はここに来てすぐに別邸での勤務となりましたので、本邸の内部をよく分かっておりません。急に別の場所に食堂を移したと言われても、それが会議室になったとしても、そこが何処にあるのかも分からなかったんです。しかも毎日場所は変わると言われて、その場所を知らせる用紙も無くなったと言われてしまえばどうすれば良いのか……」
それを聞いたリュシアンは、眉間にシワを寄せる。聞くだけでも、それは悪質なイジメだと認識できる。しかもそれは一人で行われる事ではなく、使用人達が挙って行ったという事も。
「……侍女長、なぜそんな事を?」
「……わ、私は、あ、の……」
「一人の侍女を皆で虐めていたと言う事か。これがモリエール公爵家の使用人達の実情とはな。情けない」
「それは……っ!」
「何が違うのか」
「…………」
「私一人を虐めていた訳ではありませんよね?」
「それはどういう事だ?」
ここぞとばかりにメリエルは言わなければと、リュシアンを見てから、目線をセヴランに移す。
「シオン様達の食事ですが、なぜあんなに質素な物を用意なさるんですか?」
「な、何を言ってるんですか?!」
「貴族の……しかも公爵様の奥様です。なのに私達使用人よりも酷い食事をご用意されていましたよね? セヴラン様」
「……そうなのか? セヴラン……?」
「えっと、な、なんの事、でしょう……」
まさか自分に飛び火が降りかかってくるとは思わず、セヴランは思わず後退る。顔色を悪くして冷や汗をかき、目は何処を見ていいのかあちらこちらへと動いている。
自分の知らない所で何がこの邸で起こっていたのか、リュシアンは知らなければと思ったのだった。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の代行、はじめました。
みるくてぃー
ファンタジー
「突然だけどこの家を出て行ってもらえるかしら」
ホント突然だよ!
いきなり突きつけられた金貨100枚の借用書。
両親を失い家を失った私は妹を連れて王都へ向かおうとするが、ついつい騙され見知らぬ領地に取り残される。
「ちょっとそこのお嬢さん、あなたのその聖女の力、困っている人たちを助けるために使いませんか?」
「そういうのは間に合っていますので」
現在進行形でこちらが困っているのに、人助けどころじゃないわよ。
一年間で金貨100枚を稼がなきゃ私たちの家が壊されるんだから!
そんな時、領主様から飛び込んでくる聖女候補生の話。えっ、一年間修行をするだけで金貨100枚差し上げます?
やります、やらせてください!
果たしてティナは意地悪候補生の中で無事やり過ごす事が出来るのか!?
いえ、王妃様の方が怖いです。
聖女シリーズ第二弾「聖女の代行、はじめました。」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?
せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。
※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる