叶えられた前世の願い

レクフル

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26話 味方になる

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 メリエルは子爵家の三女として生まれた。

 5人兄妹で兄、姉、姉、弟、といった具合で、三女の立場であるメリエルはどうでもいい子の立ち位置だと思っている。

 とはいえ、アイブラー子爵家の夫婦仲は良く、兄妹間も悪くない。つつが無い領地経営で生活に困るどころかある程度裕福に暮らせていたし、優しい両親と兄弟達に囲まれて幸せに暮らしてきた、とメリエルは自覚している。

 だからシオンの育った環境が信じられなかった。親が子供を愛さないと言う事が理解しづらかった。が、慈善事業を介して知った孤児達がおかれてきた実情。両親が亡くなって仕方なく孤児になったとかではなく、虐待から逃げてきたり、貧困の為売られたり捨てられたりした経緯で孤児となった子達。
 
 そしてそれは平民だけではなく、貴族でも起こりうる事だったのだと知ったのだ。ただ、貴族の場合はお金に困ったら放り出すというよりは、富豪に嫁がせたりして再建を図るのだが。今回の場合はシオンが売りに出されたような感じなのだろうという答えに、メリエルは行き着いた。

 そう思うと、シオンがとても痛ましく思えてならない。
 

「シオンお嬢様、私、頑張ります!」

「メリエル、そんなに頑張ろうとしなくてもいいのよ。ここでは皆で楽しくノンビリ過ごせたらと思っているの」

「そう、ですね。でも……では、私は何をすれば良いんでしょうか?」

「特に何も……あ! そうだわ! お願いしたいことがあるの!」

「はい、なんでしょうか?」

「貴族としての振る舞いや勉強をね、教えて欲しいの!」

「貴族としての……」

「えぇ。わたくしはルストスレーム家では殆ど外出も出来ずにいたの。他に交流できた人は外部にいなかったし……あ、ダニエルくらいかしら」

「ダニエルさんって、ジョエルさんの婚約者の方ですか?」

「ですから婚約者とか、そういうのでは……!」

「ふふ、そうよ。彼は日用品や雑貨等を仕入れてくれる業者さんだったの。昔は傭兵をしていたらしいのだけど、怪我をして引退して今の仕事についたそうなの。彼が来る度ジョエルは剣術をこっそり教えて貰っていてね。その時にジョエルと愛を育んで……」

「育んでません!」

「まぁいいじゃない。だからね、貴族の知り合いは一人もいなかったの。デビューもできなかったし……」

「それで貴族の振る舞いを?」

「えぇ。礼儀作法も恥ずかしいんだけど見様見真似なの。わたくし以外の家族が食事しているのを扉からコッソリ覗いてマナーを見たり、図書室の本で勉強したり、独学でそんな事をしてたんだけど、やはり覚束ないと思うの」

「なんてお労しい……っ!」

「公爵夫人という立場になっても、わたくしにできることは何もないと思うんだけど、少しでも何か身に付けたいと思ったのよ」

「分かりました! 私でお役に立てるのであればどんな事でも!」

「ありがとう、メリエル。よろしくね」

「見様見真似と言いますが、お嬢様の覚えは早いです。恐らくマナーも問題ないと思いますし、脚に怪我をするまでダンスもお上手でした」

「アルトゥルの……あ、弟のね、ダンスレッスンもよく覗きに行ってたの。何度か見つかってつまみ出されちゃったけど」

「そうなんですね……ではまずお勉強をしてみましょうか。算術と国語は必須ですからね。マナーもチェックさせて頂きますね。あと、貴族令嬢の嗜みといえば……絵画や刺繍もいいですね。そう言えば、もうすぐ狩猟大会があるんです。モリエール公爵様はいつも上位にいらっしゃるんですが、婚約者や配偶者から刺繍を施した御守りを渡すのが通例となっているんです」

「御守り……」

「はい! 毎年モリエール公爵様には令嬢達から多くの御守りを贈られるのですが、婚約者がいるからと受け取った事は無いんです。ですから! シオンお嬢様が今年の狩猟大会に向けて御守りを作られてはいかがでしょうか?!」

「作りたい……でも……」

「御守りを受け取った人が優勝すると、その二人は永遠の愛が約束される、とも言われているんですよ!」

「作るわ!」

「お嬢様……っ!」

「モリエール公爵様は優勝候補です! きっと優勝なさいますし、そうなればお二人は永遠の愛が約束される筈です!」

「分かったわ! ありがとう、メリエル!」


 シオンのやる気に火がついた。

 しかし右手の怪我を負ってから、それまで得意だった刺繍は出来なくなっていた。
 それ以前はハンカチやスカーフに刺繍を施した物をダニエルに頼んで売りに出して貰っていたのだが、今はそれも出来なくなった。

 それでもシオンは挑戦してみたかった。リュシアンに刺繍を入れた御守りを渡したいと思ったのだ。

 刺繍糸や布、裁縫道具はメリエルの持ち物を貸し出してくれた。
 メリエルもまた、意中の人が現れれば刺繍入りの御守りを渡したいと思っていたからだが、本当はリュシアンに渡したいと思っていた。

 しかしそんな事をシオンに言えるはずもなく、淡い恋心というには幼くて、ただの憧れの気持ちとなったメリエルの想いは少しずつ小さくなっていった。

 シオンとリュシアンがもっと仲良くなればいい。誤解が解ければいい。

 メリエルはそう思うようになっていたのだった。



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