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21話 勘違い
しおりを挟むお茶を用意したジョエルとメリエルはシオンの部屋まで戻って行く。
メリエルはまたシオンと会わなくてはいけない事に緊張していた。これからシオン付きになるのに、いちいち緊張していてはいけないと思ってはいるが、粗相をして怒らせればどんな罰を課せられるか分かったもんじゃない。
ジョエルからは有益な情報は得られなかった。必要な事だけしか話さないジョエルだが、ここで仲良くなって円滑に仕事を進めないと、とメリエルは考えていた。
「ね、ねぇ、ジョエルさん。お茶請けはありませんが、どうしてですか? シオンお嬢様は甘い物はお嫌いなのかしら」
「いえ。好き嫌いなく何でも召し上がられます」
「茶葉も一種類しかありませんでした。あの銘柄をお好みなんですか?」
「……それしか頂けなかったので」
「えっと、それはどういう……」
颯爽と歩くジョエルに追いつこうとパタパタとついていくメリエルは、ジョエルの言っている事がよく分からなかった。
別邸に住んでいる事も不思議だったし、使用人がジョエルだけだったのも謎である。
厨房よりほど近い場所にあるシオンの部屋はすぐに着いた。メリエルは服装と髪を整えてジョエルの後に部屋へと入っていく。
ベランダにあるテーブルに用意したティーセットへお茶を注ぐと、ジョエルはソファーに座るシオンの手を取り、腰を支えて立ち上がらせた。その姿は愛し合う恋人同士のように見えて、メリエルは見てはいけないものを見てしまったような感覚になってしまう。
もしかしたらジョエルとシオンは男女の仲なのかも知れない。それならリュシアンは? 女性からの人気が高いリュシアンと婚姻を結べるという、誰もが羨む状態にいるのに、愛人を連れてきた、という事なんだろうか。
メリエルの妄想は勝手に膨らんでいった。
「メリエル、貴女も一緒にどうかしら?」
「はい?」
「ここで庭を見ながらね、お茶を飲むのが最近の日課なの。まだ庭の花はちゃんと植えられていないけど、そのうち綺麗にする予定なの。どこにどんな花を植えようか、なんて考えながらお茶を飲むのは楽しいものなのよ?」
「そ、そうなんですね……」
「で、どうされますか? 私もいつもお嬢様と一緒にお茶を頂くのですが、メリエル嬢はどうなさいますか?」
「あ、はい、私もそうさせて頂きます!」
使用人も一緒にテーブルに着くなんて、普通ではあり得ない事だ。それをいつもと言ってるジョエルとシオンの関係は、やはりそうなのだとメリエルは思った。
「ねぇジョエル。今度花の苗を買いに行きましょう? あ、馬車は貸して貰えるかしら。ここから一番近い街までどれくらい掛かるのか調べないとね」
「お嬢様、しかし…………」
「ふふ……お金なら大丈夫よ。前に刺繍をして売っていたでしょう? それを貯めておいたから、少しなら問題ないわ」
「ですが本来なら、お嬢様にあてられる金額という物がある筈です。公爵夫人なのですから」
「そうなんでしょうね。でもわたくしは公爵夫人としての役割は何も出来ないと思うの。支度金も殆ど実家からは出されなかったでしょう? それなのにお金を頂くのは申し訳ないわ」
「それでも! 最低限の事をしていただくのは当然です! こんな所に追いやって、質素な生活を強いてるなんて!」
「ここに来たのは自分の意志よ。私達が怒る事など何もないわ。それともジョエルはもっと優雅な生活を望んでいたの?」
「そうでは……っ!」
「分かっているわ。わたくしを思って言ってくれてる事は。でもわたくしは今の生活で満足よ。ほら、こうしてメリエルを寄越してくれたんだもの。全くの放置って訳ではないわ」
「侍女の一人でも付けてれば、公爵家は何もしていないとは言えないと考えたのでは?」
「ジョエル、またそんな言い方……!」
「ハァ……そうですね、言い過ぎました。では……苗は庭師に頼んで貰ってきます。なるべくお嬢様のお金は使わないようにしましょう。この先何があるか分かりませんので……」
「……分かったわ」
「あの……さっきからお二人の仰られてる事が、私よく分かってないんですが……」
「メリエル、ごめんなさいね。私なんかに付く事になってしまって」
「あ、いえ! そうじゃなく! その……ジョエルさんは格好いいのに、凄く怖い言い方をするんだなぁって思いまして……」
「それもわたくしの事を考えての事なのよ。メリエルも怖がらないでね」
「あ、はい……でも、こうやって親身になってくれる男性が傍にいるのは心強いですよね」
「え?」
「あ、その、何かあっても、やっぱりいざと言うときに男の人って頼りになるじゃないですか! ジョエルさんは、その、素敵、ですし!」
「メリエル。勘違いしてるかも知れないけれど、ジョエルは女の子なのよ?」
「え……? えぇーーーっ!!」
シオンは幼い頃より分かっていた事だが、他の人がどう見るかとは考えてはいなかった。
ジョエルは一見男性のように見えるし、そう振舞ってはいるが女性なのだ。
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