21 / 86
21話 勘違い
しおりを挟むお茶を用意したジョエルとメリエルはシオンの部屋まで戻って行く。
メリエルはまたシオンと会わなくてはいけない事に緊張していた。これからシオン付きになるのに、いちいち緊張していてはいけないと思ってはいるが、粗相をして怒らせればどんな罰を課せられるか分かったもんじゃない。
ジョエルからは有益な情報は得られなかった。必要な事だけしか話さないジョエルだが、ここで仲良くなって円滑に仕事を進めないと、とメリエルは考えていた。
「ね、ねぇ、ジョエルさん。お茶請けはありませんが、どうしてですか? シオンお嬢様は甘い物はお嫌いなのかしら」
「いえ。好き嫌いなく何でも召し上がられます」
「茶葉も一種類しかありませんでした。あの銘柄をお好みなんですか?」
「……それしか頂けなかったので」
「えっと、それはどういう……」
颯爽と歩くジョエルに追いつこうとパタパタとついていくメリエルは、ジョエルの言っている事がよく分からなかった。
別邸に住んでいる事も不思議だったし、使用人がジョエルだけだったのも謎である。
厨房よりほど近い場所にあるシオンの部屋はすぐに着いた。メリエルは服装と髪を整えてジョエルの後に部屋へと入っていく。
ベランダにあるテーブルに用意したティーセットへお茶を注ぐと、ジョエルはソファーに座るシオンの手を取り、腰を支えて立ち上がらせた。その姿は愛し合う恋人同士のように見えて、メリエルは見てはいけないものを見てしまったような感覚になってしまう。
もしかしたらジョエルとシオンは男女の仲なのかも知れない。それならリュシアンは? 女性からの人気が高いリュシアンと婚姻を結べるという、誰もが羨む状態にいるのに、愛人を連れてきた、という事なんだろうか。
メリエルの妄想は勝手に膨らんでいった。
「メリエル、貴女も一緒にどうかしら?」
「はい?」
「ここで庭を見ながらね、お茶を飲むのが最近の日課なの。まだ庭の花はちゃんと植えられていないけど、そのうち綺麗にする予定なの。どこにどんな花を植えようか、なんて考えながらお茶を飲むのは楽しいものなのよ?」
「そ、そうなんですね……」
「で、どうされますか? 私もいつもお嬢様と一緒にお茶を頂くのですが、メリエル嬢はどうなさいますか?」
「あ、はい、私もそうさせて頂きます!」
使用人も一緒にテーブルに着くなんて、普通ではあり得ない事だ。それをいつもと言ってるジョエルとシオンの関係は、やはりそうなのだとメリエルは思った。
「ねぇジョエル。今度花の苗を買いに行きましょう? あ、馬車は貸して貰えるかしら。ここから一番近い街までどれくらい掛かるのか調べないとね」
「お嬢様、しかし…………」
「ふふ……お金なら大丈夫よ。前に刺繍をして売っていたでしょう? それを貯めておいたから、少しなら問題ないわ」
「ですが本来なら、お嬢様にあてられる金額という物がある筈です。公爵夫人なのですから」
「そうなんでしょうね。でもわたくしは公爵夫人としての役割は何も出来ないと思うの。支度金も殆ど実家からは出されなかったでしょう? それなのにお金を頂くのは申し訳ないわ」
「それでも! 最低限の事をしていただくのは当然です! こんな所に追いやって、質素な生活を強いてるなんて!」
「ここに来たのは自分の意志よ。私達が怒る事など何もないわ。それともジョエルはもっと優雅な生活を望んでいたの?」
「そうでは……っ!」
「分かっているわ。わたくしを思って言ってくれてる事は。でもわたくしは今の生活で満足よ。ほら、こうしてメリエルを寄越してくれたんだもの。全くの放置って訳ではないわ」
「侍女の一人でも付けてれば、公爵家は何もしていないとは言えないと考えたのでは?」
「ジョエル、またそんな言い方……!」
「ハァ……そうですね、言い過ぎました。では……苗は庭師に頼んで貰ってきます。なるべくお嬢様のお金は使わないようにしましょう。この先何があるか分かりませんので……」
「……分かったわ」
「あの……さっきからお二人の仰られてる事が、私よく分かってないんですが……」
「メリエル、ごめんなさいね。私なんかに付く事になってしまって」
「あ、いえ! そうじゃなく! その……ジョエルさんは格好いいのに、凄く怖い言い方をするんだなぁって思いまして……」
「それもわたくしの事を考えての事なのよ。メリエルも怖がらないでね」
「あ、はい……でも、こうやって親身になってくれる男性が傍にいるのは心強いですよね」
「え?」
「あ、その、何かあっても、やっぱりいざと言うときに男の人って頼りになるじゃないですか! ジョエルさんは、その、素敵、ですし!」
「メリエル。勘違いしてるかも知れないけれど、ジョエルは女の子なのよ?」
「え……? えぇーーーっ!!」
シオンは幼い頃より分かっていた事だが、他の人がどう見るかとは考えてはいなかった。
ジョエルは一見男性のように見えるし、そう振舞ってはいるが女性なのだ。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる