叶えられた前世の願い

レクフル

文字の大きさ
上 下
9 / 86

9話 二人の道程②

しおりを挟む

 魔力の殆どを与えたノアは、歩くのもやっとな状態となる。自身に与えられた使用人部屋にたどり着くのも、ヨロヨロとした覚束ない足取りになり時間がかかる。

 その状態を知ったリアムは、フィグネリアの部屋から出てきたノアを支えて自分達の部屋へ連れ帰る事を日課とした。

 毎朝ノアは魔力をフィグネリアに与え、そして自室で体力と魔力の回復を待つ。ベッドに生気なくグッタリとして眠るノアを、リアムはいつも悲しそうに見守るしか出来ない。

 しかし、他の使用人達はノアの状態を知る由もない。だからいつもノアを、サボってばかりいるただメシ食らいの役立つだと罵っていた。

 魔力譲渡の事を他人に話す事は許されていない。それを知っているのはリアムだけだった。
 
 以前二人が孤児院にいた頃、老朽化した教会をノアが魔法で新築のようにした事があった。その時ノアは5歳で、幼い体で膨大な魔力を一気に使ったものだからその場で立てなくなり、意識も朦朧とした状態となったのだが、毎朝フィグネリアの部屋から出てくるノアはその時と同じ状態で、だからリアムはノアから聞かずともそうと知ったのだ。

 そしてノアが、人に魔力を渡す事が出来ると口にしていた事があったのもリアムは思い出す。
 それを聞いていた司祭からは誰にも言わないようにと、キツく言い聞かせられたのだが。

 だからノアに起こっている事をリアムだけは知っていた。そしてノアを庇うように、リアムは人一倍働いた。
 少し動けるようになるのは夕方頃。その時にやっと部屋から出てくるノアに、使用人達の態度は冷たい。ノアは何をさせてもトロい、グズだと皆から罵られる。だがそれは魔力が完全に回復していないからだ。しかしそんな事を言える筈もなく、ノアは自分が出来る事を一生懸命取り組んでいた。

 働かないからと、食事も残飯を与えられる。それを見兼ねたリアムは、いつも自分の分も半分ノアに分けるのだ。
 だからいつも二人はお腹を空かせていた。成長期に必要な栄養を与えられず、二人は同じ年の子らよりも幼く痩せていた。

 それでも二人でいられた事が嬉しかった。それはノアもリアムも同じ気持ちで、より支え合うように生きていった。その時の二人にはそうするしか出来なかったのだ。

 しかしそんなある日、リアムの様子が可怪しい事にノアは気づく。

 いつも元気を装うリアムから笑顔が消えていく。ノアを前にすると笑おうとするのだが、それは無理をしているのだとノアにはすぐに気づいてしまう。物心つく頃には一緒だったリアムの変化に気づけるのはノアだけだった。

 二人は兄妹だと思われており一緒の部屋になっていたのだが、夜中リアムの苦しそうな声でノアは目を覚ました。


「う……うぅ……っ!」

「リアム? リアム、どうしたの?」


 暗がりの中、ノアはリアムのベッドまで歩み寄ると、リアムは冷や汗をかきながら何かに耐えるように体を震わせていた。


「リアム、具合悪いの? 熱でもあるの?」

「なん、でもな……い……大丈夫、だ……」

「大丈夫そうじゃないよ。ねぇ、どうしたの? 苦しいの?」


 ノアに背を向けて見られないようにしているリアムに、ノアはそっと優しく触れるように背中を撫でる。が、その途端、リアムは激しく声を上げた。


「うぁぁっ!!」

「な、なに?! リアム!!」


 痛みに耐えるように体に力を入れ、浅く荒い呼吸を何度も繰り返す。そんなリアムを見たのは初めてで、ノアは思わずリアムの上着を捲った。

 リアムの背中には無数の切り傷や赤い痣が至る所にあって、所々血が滴り落ちていた。
 それを見てノアは驚愕した。なぜこんな事になっているのか、誰がこんな事をしたのか。気にはなったがそれよりもこの状態のリアムを放っておくことは出来ないと考えた。

 だからノアはリアムの背中に手を添え、良くなるようにと念じた。するとノアの掌からは淡い緑の光が放たれた。それはリアムの体を優しく守るように包み込んでいった。その光が少しずつ無くなっていくと、あれほど苦しんでいたリアムの呼吸は楽に、痛みも無くなっていた。


「ノア……何をしたんだ……?」

「あ、その……えっとね、リアムが痛くないようにって、苦しくないようにって願ったの。それだけなの」

「ノア……駄目だ、こんな事をしちゃ……!」

「でも! リアムが痛そうだったもの! それは私が嫌だったもの!」

「ノア! ……よく聞いて。ノアがしてくれた事は嬉しい。すごく有難く思う。でも、この力を他の人に知られちゃいけないんだ。そして、僕にこの力を使った事がバレたら駄目なんだ」

「うん……だけど……」


 リアムはそっとノアを抱き締める。そして優しく慰めるように何度も頭を撫でる。


「ありがとう、ノア。でも言ってる事、分かって欲しい」

「うん……」


 リアムの胸に顔を埋めるようにして、ノアはゆっくりと頷く。それしかその時のノアにはできなかったのだ。





    
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった

Blue
恋愛
 王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。 「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」 シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。 アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...