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亡国の残光
密約 その2
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時間は少し遡り、エダークスがミトラに協力を要請するため、牢屋を訪れた夜。
「また誰か来たのか!?」
「か、隠れなきゃ隠れなきゃ」
「いえ、今回は隠れなくても大丈夫」
気配を察して動こうとしたエーラとビーを、ミトラは落ち着いて制止した。
「いま言った『協力してほしいこと』に関係のある御仁だから。そうでしょう?」
牢屋の前で足を止めた人物に、ミトラはそう言いながら振り向いた。
「エダークスはもう帰ったようですな、カエサリネカ様」
エダークスと入れ違いで来たのは、同じく身なりの良い初老の男だったが、こちらはエダークスと違い野心的な雰囲気は放っていなかった。
「ちょうど例の件を妾に打診しに来ていたところですわ、アミーソス様」
「そうですか。では近く決起するということですな?」
「十中八九」
「な、なぁミトラ。さっきからいったい何の話をしてるんだ?」
アミーソスとミトラの顔を交互に見ていた勇男は、途中でそれとなく聞いてみた。
「スパルターク国は謀反を起こされそうになってるってこと」
「謀反? って、本能寺とか明智光秀とかみたいな?」
「……ホンノージとアケチミツヒデは知らないけど、このままだと反乱を起こされて、スパルターク国は転覆するわね」
「へ?」
「なっ!?」
「ほへっ?」
勇男、エーラ、ビーは三者三様に驚いていたが、数秒後には全員が事態の深刻さを受け止めた。
「スパルターク国も王様が三代目になって久しいのに、今さら『ローマの残光』なんてものが出てくるなんて」
「あなたがパンに仕込んだ暗号がなければ、兆しすら掴めなんだところ。エダークスはやはり優秀でした。最も腕の良い密偵に探らせてようやく―――」
「それで? ミトラ。謀反が起きそうってのは分かったけど、あたしたちに『協力してほしいこと』ってのは何だ? あとこのおっさん誰?」
勇男に続き、エーラもミトラの横に並び、ミトラとアミーソスの顔を交互に見やった。
「これは失礼。まだ名乗っておりませんでしたな。私はアミーソス。祖父のクリクススの代からスパルタクス王の側近を任されております」
アミーソスは姿勢を正すと、牢屋の中の四人に対して恭しく頭を下げた。
「あ~、その、荒雲勇男です」
「あたしはミトラ」
「ビーはビーだよ」
「お三方がお持ちになった巻物は拝見しております。ウルク国からはるばるお約束の杉をお届けいただいたのに、このような仕打ちをしてしまったこと、王に代わり深く陳謝いたします」
アミーソスはさらに低頭し、勇男たちが居心地が悪くなるくらいに謝辞を示した。
「じゃあオレたちがウルク国から正式に派遣されてきた人間だって信じてくれたってこと?」
「あの巻物を見た時、エダークスがこれを利用して謀反を実行に移すであろうことは予測がつきましたゆえ。私も、王も。そこで先手を打たせていただきました。エダークスはあなた方を始末するつもりだろうと思い、エダークスの伝令には中止を伝え、私が用意した伝令にあなた方を牢屋へお連れするように」
「ここ……牢屋なんだけど……」
「ウルク国からの使者をこんなところに招いているとは、エダークスでも見抜けんだろうと思いまして」
「あ、ああ、そう……そりゃごもっともで?」
微妙に納得しづらいが、勇男はとりあえず何も言わないことにした。
「それで、こうして参じてくれたということは、取引に応じてくれる、という答えで良いのでしょうね?」
居住まいを正したミトラが、改めて話を進めた。
「王も承諾いたしました……が、三つのうち二つの要求が空白なのは何故なのでしょうか?」
「それは一つ目の要求、『監獄から出してスパルターク国の街を見せてもらう』が叶ってから決めます。代わりに妾たちは、誰にも気づかれないうちに謀反を鎮圧してみせる」
「また誰か来たのか!?」
「か、隠れなきゃ隠れなきゃ」
「いえ、今回は隠れなくても大丈夫」
気配を察して動こうとしたエーラとビーを、ミトラは落ち着いて制止した。
「いま言った『協力してほしいこと』に関係のある御仁だから。そうでしょう?」
牢屋の前で足を止めた人物に、ミトラはそう言いながら振り向いた。
「エダークスはもう帰ったようですな、カエサリネカ様」
エダークスと入れ違いで来たのは、同じく身なりの良い初老の男だったが、こちらはエダークスと違い野心的な雰囲気は放っていなかった。
「ちょうど例の件を妾に打診しに来ていたところですわ、アミーソス様」
「そうですか。では近く決起するということですな?」
「十中八九」
「な、なぁミトラ。さっきからいったい何の話をしてるんだ?」
アミーソスとミトラの顔を交互に見ていた勇男は、途中でそれとなく聞いてみた。
「スパルターク国は謀反を起こされそうになってるってこと」
「謀反? って、本能寺とか明智光秀とかみたいな?」
「……ホンノージとアケチミツヒデは知らないけど、このままだと反乱を起こされて、スパルターク国は転覆するわね」
「へ?」
「なっ!?」
「ほへっ?」
勇男、エーラ、ビーは三者三様に驚いていたが、数秒後には全員が事態の深刻さを受け止めた。
「スパルターク国も王様が三代目になって久しいのに、今さら『ローマの残光』なんてものが出てくるなんて」
「あなたがパンに仕込んだ暗号がなければ、兆しすら掴めなんだところ。エダークスはやはり優秀でした。最も腕の良い密偵に探らせてようやく―――」
「それで? ミトラ。謀反が起きそうってのは分かったけど、あたしたちに『協力してほしいこと』ってのは何だ? あとこのおっさん誰?」
勇男に続き、エーラもミトラの横に並び、ミトラとアミーソスの顔を交互に見やった。
「これは失礼。まだ名乗っておりませんでしたな。私はアミーソス。祖父のクリクススの代からスパルタクス王の側近を任されております」
アミーソスは姿勢を正すと、牢屋の中の四人に対して恭しく頭を下げた。
「あ~、その、荒雲勇男です」
「あたしはミトラ」
「ビーはビーだよ」
「お三方がお持ちになった巻物は拝見しております。ウルク国からはるばるお約束の杉をお届けいただいたのに、このような仕打ちをしてしまったこと、王に代わり深く陳謝いたします」
アミーソスはさらに低頭し、勇男たちが居心地が悪くなるくらいに謝辞を示した。
「じゃあオレたちがウルク国から正式に派遣されてきた人間だって信じてくれたってこと?」
「あの巻物を見た時、エダークスがこれを利用して謀反を実行に移すであろうことは予測がつきましたゆえ。私も、王も。そこで先手を打たせていただきました。エダークスはあなた方を始末するつもりだろうと思い、エダークスの伝令には中止を伝え、私が用意した伝令にあなた方を牢屋へお連れするように」
「ここ……牢屋なんだけど……」
「ウルク国からの使者をこんなところに招いているとは、エダークスでも見抜けんだろうと思いまして」
「あ、ああ、そう……そりゃごもっともで?」
微妙に納得しづらいが、勇男はとりあえず何も言わないことにした。
「それで、こうして参じてくれたということは、取引に応じてくれる、という答えで良いのでしょうね?」
居住まいを正したミトラが、改めて話を進めた。
「王も承諾いたしました……が、三つのうち二つの要求が空白なのは何故なのでしょうか?」
「それは一つ目の要求、『監獄から出してスパルターク国の街を見せてもらう』が叶ってから決めます。代わりに妾たちは、誰にも気づかれないうちに謀反を鎮圧してみせる」
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