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亡国の残光
裁定 その3
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カエサリネカは剣を、執行人は刀剣を、それぞれ構えて向き合った。
二人に身長差はそれほどなかったが、執行人の腕や脚の太さと比べれば、カエサリネカの体躯はあまりにも貧相だった。
そうでなくてもカエサリネカの足は、長年の投獄によっておぼつかず、まともに足の構えができていない。
さらには伸びきった髪が顔にまでかかり、視界も相当に悪いはずだった。
罪人が『誇り』を選んでも助命の機会がないとはいえ、これほど不利な条件が重なっては、誰もカエサリネカが勝利するなどとは思わなかった。
もっとも、第一の執行人が倒されたとして、罪人の命が尽きるまで執行人は投入されるわけだが。
「……」
執行人は一歩だけ間合いを詰めた。
『誇り』をもって死すことを許す処刑であっても、罪人に死を与えることには変わりない。
罪人の方から攻めてこないのであれば、執行人から攻めるまで。
執行人として、至極当然のことだった。
スパルターク国外の出身者であるならば、腰が引けてしまうこともあっただろう。
この処刑を望んだスパルターク国人で、怖気づいた者はこれまで一人としていない。
カエサリネカも恐怖に動けないのかと思われたが、
「っ!」
剣を腰だめにして、執行人に突貫してみせた。
「ふぬっ!」
だが、執行人は難なくカエサリネカの切っ先をかわした。
弱りきった足では、充分な速さなど出せるはずもない。
「おおあぁ!」
執行人は自らの刀剣でカエサリネカの手元を打った。
握りも甘かった剣が、あっさりと地面に叩き落される。
決死の突貫を避けられ、剣も失い、カエサリネカはもう抵抗の力はないとばかりに両膝をついた。
まるで首を差し出すような姿勢になったカエサリネカに、執行人は刀剣を大きく振りかぶった。
柄を両手でしっかりと保持し、
「うおおああ!」
渾身の気合とともに、カエサリネカの頚椎目がけて振り下ろした。
「っ!」
刀身は見事にカエサリネカの頚椎に食い込み、その瞬間、カエサリネカの身体がビクリと跳ねた。
それが命が断たれた合図だった。
カエサリネカの身体からは力が抜け、ゆっくりとうつ伏せに倒れこんだ。
動かぬカエサリネカの身体からは、真っ赤な血溜まりが拡がっていった。
これをもって刑は執行された。
闘技場に集まった市民たちは、カエサリネカの死を確信すると、全員立ち上がり、胸に手を当てて悼み弔った。
それはスパルタクス三世も同じであり、誇りをもって死したカエサリネカに敬意を示していた。
「罪人カエサリネカは誇りとともに旅立った! いま! この者の罪は贖われた!」
スパルタクス三世の声が、高らかに闘技場に響き渡った。
同時に、観覧席から花が投げ入れられる。
市民たちが一人一輪ずつ持参した、手向けの花だった。
色とりどりの花が舞う闘技場の真ん中で、執行人は静かに、細く長い剣を鞘に収めた。
二人に身長差はそれほどなかったが、執行人の腕や脚の太さと比べれば、カエサリネカの体躯はあまりにも貧相だった。
そうでなくてもカエサリネカの足は、長年の投獄によっておぼつかず、まともに足の構えができていない。
さらには伸びきった髪が顔にまでかかり、視界も相当に悪いはずだった。
罪人が『誇り』を選んでも助命の機会がないとはいえ、これほど不利な条件が重なっては、誰もカエサリネカが勝利するなどとは思わなかった。
もっとも、第一の執行人が倒されたとして、罪人の命が尽きるまで執行人は投入されるわけだが。
「……」
執行人は一歩だけ間合いを詰めた。
『誇り』をもって死すことを許す処刑であっても、罪人に死を与えることには変わりない。
罪人の方から攻めてこないのであれば、執行人から攻めるまで。
執行人として、至極当然のことだった。
スパルターク国外の出身者であるならば、腰が引けてしまうこともあっただろう。
この処刑を望んだスパルターク国人で、怖気づいた者はこれまで一人としていない。
カエサリネカも恐怖に動けないのかと思われたが、
「っ!」
剣を腰だめにして、執行人に突貫してみせた。
「ふぬっ!」
だが、執行人は難なくカエサリネカの切っ先をかわした。
弱りきった足では、充分な速さなど出せるはずもない。
「おおあぁ!」
執行人は自らの刀剣でカエサリネカの手元を打った。
握りも甘かった剣が、あっさりと地面に叩き落される。
決死の突貫を避けられ、剣も失い、カエサリネカはもう抵抗の力はないとばかりに両膝をついた。
まるで首を差し出すような姿勢になったカエサリネカに、執行人は刀剣を大きく振りかぶった。
柄を両手でしっかりと保持し、
「うおおああ!」
渾身の気合とともに、カエサリネカの頚椎目がけて振り下ろした。
「っ!」
刀身は見事にカエサリネカの頚椎に食い込み、その瞬間、カエサリネカの身体がビクリと跳ねた。
それが命が断たれた合図だった。
カエサリネカの身体からは力が抜け、ゆっくりとうつ伏せに倒れこんだ。
動かぬカエサリネカの身体からは、真っ赤な血溜まりが拡がっていった。
これをもって刑は執行された。
闘技場に集まった市民たちは、カエサリネカの死を確信すると、全員立ち上がり、胸に手を当てて悼み弔った。
それはスパルタクス三世も同じであり、誇りをもって死したカエサリネカに敬意を示していた。
「罪人カエサリネカは誇りとともに旅立った! いま! この者の罪は贖われた!」
スパルタクス三世の声が、高らかに闘技場に響き渡った。
同時に、観覧席から花が投げ入れられる。
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