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亡国の残光
裁定 その1
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スパルターク国はローマ国の文化を引き継ぐ形となった国ではあるが、スパルタクス一世の意向で一部の文化は切り捨てられていた。
その一つは剣闘士の廃止だった。
スパルタクス一世自身がローマ国の剣闘奴隷出身とあって、スパルターク国が樹立してすぐに奴隷制度は消滅した。
だが、闘技場は解体が困難であることや、使い勝手の良さなども相まってそのまま残り、現在のスパルタクス三世の時代になっても二つの目的で機能している。
一つは軍の鍛錬場や余剰武器の保管庫として。
もう一つは、
「スパルタクス三世陛下、御出座ー!」
進行役の声に合わせ、スパルタクス三世は最高位のバルコニー席に着いた。
観覧席に集まった大勢の市民たちも、スパルタクスが座ったことを見届けて腰を下ろす。
「罪人をここへ!」
スパルタクスの傍に控えたアミーソスが、担当の兵たちに指示を出す。
闘技場の端にある扉が開き、手枷に繋がった鎖を兵たちに引かれ、罪人が暗がりから引っ立てられてきた。
闘技場のもう一つの役割は、国家を揺るがす大罪を犯した者を、王と重鎮、市民たちの前で罪状を明らかにする最高裁判所であるとともに、即座に刑を執行する処刑場だった。
鉄球付きの足枷を引きながら、罪人は闘技場の中央まで歩かされた。
ボロ布同然の囚人服に、手入れもされずに伸びきった長髪。かろうじて手足の細さと顔の線から、女性であることが分かる。
左右に並んだ兵たちに槍で押さえつけられるようにして、罪人は地に跪いた。
「この者、虜囚として収監される身でありながら、邪智を巡らし、国家転覆、民衆の虐殺を企てていた大罪人なり! あわやスパルターク国が日の入りを向かえようとしていたところ、一人の賢者によってその謀が暴かれ、此度、我が国は存亡の危機を免れた!」
アミーソスが読み上げた罪状に、観覧席の市民たちはどよめき出す。
まさかスパルターク国が滅亡の手前まで来ていたことなど、今日の今日まで知らなかったのだから。
「その悪辣なる首謀者の名は、かつて滅んだ王家の末裔! エジプラット王国最後の生き残り! カエサリネカ!」
兵に髪を掴まれ、罪人は面貌を衆目に晒した。
バルコニー席を向かされているが、その瞳は虚ろに宙を見つめている。
「これよりスパルタクス三世陛下による裁定が下される! 心せよ!」
スパルタクスは席から立ち上がり、闘技場の誰もが見えるように右手を翳す。
拳を握るようにしながら親指が立てられ――――――――――それは真逆にひっくり返された。
「ここに裁定は下った! 罪人カエサリネカ! 死罪!」
アミーソスの言葉が、静寂に包まれた闘技場内に響き渡った。
その一つは剣闘士の廃止だった。
スパルタクス一世自身がローマ国の剣闘奴隷出身とあって、スパルターク国が樹立してすぐに奴隷制度は消滅した。
だが、闘技場は解体が困難であることや、使い勝手の良さなども相まってそのまま残り、現在のスパルタクス三世の時代になっても二つの目的で機能している。
一つは軍の鍛錬場や余剰武器の保管庫として。
もう一つは、
「スパルタクス三世陛下、御出座ー!」
進行役の声に合わせ、スパルタクス三世は最高位のバルコニー席に着いた。
観覧席に集まった大勢の市民たちも、スパルタクスが座ったことを見届けて腰を下ろす。
「罪人をここへ!」
スパルタクスの傍に控えたアミーソスが、担当の兵たちに指示を出す。
闘技場の端にある扉が開き、手枷に繋がった鎖を兵たちに引かれ、罪人が暗がりから引っ立てられてきた。
闘技場のもう一つの役割は、国家を揺るがす大罪を犯した者を、王と重鎮、市民たちの前で罪状を明らかにする最高裁判所であるとともに、即座に刑を執行する処刑場だった。
鉄球付きの足枷を引きながら、罪人は闘技場の中央まで歩かされた。
ボロ布同然の囚人服に、手入れもされずに伸びきった長髪。かろうじて手足の細さと顔の線から、女性であることが分かる。
左右に並んだ兵たちに槍で押さえつけられるようにして、罪人は地に跪いた。
「この者、虜囚として収監される身でありながら、邪智を巡らし、国家転覆、民衆の虐殺を企てていた大罪人なり! あわやスパルターク国が日の入りを向かえようとしていたところ、一人の賢者によってその謀が暴かれ、此度、我が国は存亡の危機を免れた!」
アミーソスが読み上げた罪状に、観覧席の市民たちはどよめき出す。
まさかスパルターク国が滅亡の手前まで来ていたことなど、今日の今日まで知らなかったのだから。
「その悪辣なる首謀者の名は、かつて滅んだ王家の末裔! エジプラット王国最後の生き残り! カエサリネカ!」
兵に髪を掴まれ、罪人は面貌を衆目に晒した。
バルコニー席を向かされているが、その瞳は虚ろに宙を見つめている。
「これよりスパルタクス三世陛下による裁定が下される! 心せよ!」
スパルタクスは席から立ち上がり、闘技場の誰もが見えるように右手を翳す。
拳を握るようにしながら親指が立てられ――――――――――それは真逆にひっくり返された。
「ここに裁定は下った! 罪人カエサリネカ! 死罪!」
アミーソスの言葉が、静寂に包まれた闘技場内に響き渡った。
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