荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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亡国の残光

ミトラの目的

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「ぐ……うぅ……」
 あまりにも冷徹に返してきたミトラに、逆にエダークスが動揺することになった。
(本気……だったというのか!? 先程さきほど語った目的というのは!?)

「ひとえに――――――母との約束のため」
「約束? 母との、だと?」
 エダークスはミトラの父については把握し、もしミトラが動く理由があるとすればそれだろうと考えていた。
 だが、ミトラが母について語りだすというのは、完全に慮外りょがいの行動だった。
「母はわたしを『埋蔵』する直前にこう言った。『我が国が滅んだ後の世を見極めなさい。そして、その時にはあなたの好きなようにしなさい』、と」
 ミトラの言葉は玉座の間に静かに響き渡ったが、エダークスとサエウムはまだ真意がつかめず、特に反応しなかった。
「……では、今の世を見極めて、あなたはどう考えたというのだ!? それがなぜ『ローマの残光われわれ』の邪魔をする、という選択肢になるというのだ!」
 エダークスはミトラに指を突きつけて問いただす。
 感情的になっているエダークスに対し、ミトラはあくまで冷静に答えていった。
わたしはローマ国に特に思い入れはなくとも、母の故国には少し思い入れはあった。たとえ双子として生まれた兄弟が王位を継承し、わたし自身は里子に出されたとしても、ね」
「ではあなたも滅んだ故国を復活させたいと願っているのか!?」
「滅んだものは仕方がない。国が隆盛するなら、衰退もまた国の運命だったということ。そして滅んだのも随分前。今さら元の国民を集めるのもかなわない」
「? なおのこと分からないぞ!? それならあなたは何のために動いているというのだ!?」
「故国が滅んだのは国力の低下が原因だった。しかし、ローマ国との関係が強固に結べていれば、まだ生き残れる可能性があった。それはスパルターク国の台頭でついえてしまったけれど……」
 ミトラは一瞬だけ、スパルタクス三世に目を向けてから話を続けた。
「そこに恨みつらみを持ち出す気は毛頭ない。ただ、わたしとしては、故国が滅んだことも、ローマ国が倒れたことも、後により良い国が立つためだったと思いたい。スパルターク国が二国の滅びをいしずえに、良き国を築いていたなら文句はない。しかし―――」
 そこからミトラの口調は一変した。
 静かでんだ声色なのは変わらないが、まるで鋭利なやいばを見せられた時のような、神経が冷え切る雰囲気を持つようになった。
「―――もしもしき国であったなら、その時はわたしの持てる知識を全て絞りつくし、スパルターク国を滅ぼそうと思っていた。すみやかに、穏やかに、跡形も残らぬように、と」
「……」
「それが、エジプラット王国最後の女王の娘たる、わたしの行き着いた答え」
 それを聞いたサエウムは戦慄せんりつし、スパルタクスは微動だにせずに傾聴けいちょうし、問いかけをした当人であるエダークスは表情を失っていた。
「これがわたしの目的とした全て。おわかりいただけたかしら?」
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