荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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亡国の残光

二組の撃剣 その6

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「……何だと? どういう意味だ?」
 ミトラの一言を聞き、エダークスはかえって冷静になった。
理解わからなかった? なら理解わかるように言ってあげる」
 ミトラはグラディウスを持っていない左手で拳を作り、親指を立て、
「あなたのどんなところが違っていたとしても、この反乱は成功しなかった、と言ったのよ」
 その左手を逆さに返してみせた。
「こ……こ……この女郎めろうがあああ!」
 その仕草を見て、エダークスは怒りのままに剣を振るってきた。
 今度は軌道を見切っていたので、ミトラは難なく受け止め、再び鍔迫つばぜり合いの状態に持っていった。
「もはや愚弄という言葉で足るものか! この私が! 最初から敗者! 敗者だったというのか! 結果が決まっていたというのか! 認めぬ! 断じて認め―――」
「ただし―――」
 ミトラはまた鍔迫り合いから体勢を崩し、今度はエダークスの剣を狙って払い落とした。
こころざしが違っていれば、また結果は違っていた。わたしはそう思う」
 エダークスの剣は床を転がり、ミトラの剣の切っ先は、エダークスのこめかみをとらえた。
「志、だと!? バカな! 私はローマ国の復活を誰よりも―――」
「その時点でき違えている。国を取り返し、復興させたいというなら、すでに時がち過ぎている。数世代は遅い」
「では志とは何のことなのだ! 私は! いったい何に己の力をくべきだったというのだ!」
 エダークスのこめかみに当てていた切っ先を、ミトラはすんなりと離した。
「とうに滅びた亡き国を『掘りおこそう』とするより、いまる世のために、あなたの力を使うべきだった。事実、あなたは王宮づとめができるほど、有能だったではないか」
 ミトラにそう言われ、エダークスはハッと顔を上げた。
 そしてミトラが言った意味を理解してしまった。
 志が違っていれば・・・・・・・・、『結果』どころか『道』が違っていた。
 間違いなく、現在いまのような状況にはなっていない、ということを。
「う……うぐぐ……」
 だが、頭ではわかっていても、これまでの全てが水泡すいほうしてしまうのは、到底とうてい納得できなかった。
「では……では……」
 エダークスは最後の抵抗とばかりに、
「あなたは! どうなのだ! 今さら出てきたあなたこそ! 亡き国のために! スパルタークこの国に成り代わろうとしているではないか!」
 ミトラの目的について指摘した。
 しかし、当のミトラは動揺するどころか、まゆ一つ動かすことはなかった。
「そこも履き違えている。わたしは故国が滅ぶ遠因となった国が、しき国だと判断した場合、跡形もなく滅ぼそうと思っただけなのだから」
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