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亡国の残光
陰謀 その4
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玉座の間の床に、鉄製の兜の落下音が響く。
兜から解放され露になったのは、少し赤みのある茶髪と、翠玉色の瞳。
そして不敵に微笑う美貌の少女だった。
「なっ!?」
エダークスは目を見開き、口をあんぐりと開け、まさに驚いたという顔になった。
その瞳と声にはエダークスも聞き覚えがある。
しかし、その人物は監獄の牢屋に幽閉されているはずだった。
絶対に外に出ることはできないはずだった。
ましてや、いま宮殿の玉座の間にいるなど、あり得るはずはなかった。
「なっ!? なっ!? なっ!」
「驚きすぎて声も出なくなったかしら?」
擦り切れた囚人服ではなく、兵士の格好をした少女、ミトラを前に、エダークスの思考は完全に混乱していた。
が、まだ寸でのところで冷静さが残っており、数回ほど頭を振った後、エダークスは何とか平常を取り戻した。
「ど、どういうことだ? 『教えた』だと!? バカな! あなたがスパルタクスに助力する理由はないはず! いや、その前に、どうやって伝えたというのだ! 見廻りの兵士にすら、ほとんど反応を示さなかったと報告があったぞ!」
「スパルタクス王と一緒で、妾も絶対の確信があったわけじゃない。妾は星を見るのが得意で、二年ほど前に何か大きなことが起こると察知した。『国を揺るがす何か』が起こる、と」
「っ!」
それを聞いたエダークスは背筋が凍えるような気分だった。
機は熟したと見定め、反乱計画を始動させたのが、ちょうど二年ほど前だったからだ。
「それをスパルタクス王に伝えた」
「まっ! 待て待て! そこが一番おかしいぞ! そもそも重罪人を収監する監獄にいたあなたが、どうやって王に情報を伝えられたというのだ! まさかそれも星に伝えさせたとでも言うのか!?」
ミトラは腰の雑嚢に手を入れると、そこから何かを取り出し、エダークスに見せた。
「……な、何だそれは……」
「分からない?」
唖然としているエダークスをよそに、ミトラはそれを口元に運び、一口齧ってみせた。
「パン」
ミトラが咀嚼して飲み込んだのは、どこにでもあるような大麦で作った一個のパンだった。
「パ……ン?」
まだ呆気に取られるエダークスの前で、ミトラはパンを二つに割った。
開いた切り口を見せられると、パンには側面から中心にかけて、指で抉ったような穴が一本空いていた。
「これを見廻りの兵士たちの間で噂になるまで続けた。さすがに半年間、パンに手をつけずに返し続けるのは厳しかったけど」
「……」
エダークスはいよいよ言葉を発せなくなってしまった。
ミトラが何を言っているのか、全く理解が追いつかなくなったからだ。
「パンの暗号」
そんな中、玉座に座っていたスパルタクス王が口を開いた。
反射的にエダークスは振り返った。
「我が祖父、スパルタクス一世も使っていた。剣闘士の練成所から脱出する際、別の牢にいる仲間たちと、それで示し合わせていた、と。私もよく聞かされていたものだ」
「っ!」
「ようやく気付いたか、エダークスよ。虫が食い進んだように穴を空けられたパンは、「獅子身中の虫」を示す暗号。それが兵士たちを介して私の耳に届くまで、半年間かかったというわけだ」
「そ、それで私に疑いを持ったというのか!?」
エダークスは再びミトラに振り返った。今度は視線で射殺さんばかりの怒りを込めて。
「なぜだ! なぜ邪魔をする! あなたがスパルタクスに力を貸す理由など! 微塵もないはずだ! いや! むしろ恨みがあってもいいはずだ! そうではないのか!? カエサリネカ!」
怒り心頭のエダークスは、感情のままに叫びながら、ミトラに人差し指を突きつけた。
兜から解放され露になったのは、少し赤みのある茶髪と、翠玉色の瞳。
そして不敵に微笑う美貌の少女だった。
「なっ!?」
エダークスは目を見開き、口をあんぐりと開け、まさに驚いたという顔になった。
その瞳と声にはエダークスも聞き覚えがある。
しかし、その人物は監獄の牢屋に幽閉されているはずだった。
絶対に外に出ることはできないはずだった。
ましてや、いま宮殿の玉座の間にいるなど、あり得るはずはなかった。
「なっ!? なっ!? なっ!」
「驚きすぎて声も出なくなったかしら?」
擦り切れた囚人服ではなく、兵士の格好をした少女、ミトラを前に、エダークスの思考は完全に混乱していた。
が、まだ寸でのところで冷静さが残っており、数回ほど頭を振った後、エダークスは何とか平常を取り戻した。
「ど、どういうことだ? 『教えた』だと!? バカな! あなたがスパルタクスに助力する理由はないはず! いや、その前に、どうやって伝えたというのだ! 見廻りの兵士にすら、ほとんど反応を示さなかったと報告があったぞ!」
「スパルタクス王と一緒で、妾も絶対の確信があったわけじゃない。妾は星を見るのが得意で、二年ほど前に何か大きなことが起こると察知した。『国を揺るがす何か』が起こる、と」
「っ!」
それを聞いたエダークスは背筋が凍えるような気分だった。
機は熟したと見定め、反乱計画を始動させたのが、ちょうど二年ほど前だったからだ。
「それをスパルタクス王に伝えた」
「まっ! 待て待て! そこが一番おかしいぞ! そもそも重罪人を収監する監獄にいたあなたが、どうやって王に情報を伝えられたというのだ! まさかそれも星に伝えさせたとでも言うのか!?」
ミトラは腰の雑嚢に手を入れると、そこから何かを取り出し、エダークスに見せた。
「……な、何だそれは……」
「分からない?」
唖然としているエダークスをよそに、ミトラはそれを口元に運び、一口齧ってみせた。
「パン」
ミトラが咀嚼して飲み込んだのは、どこにでもあるような大麦で作った一個のパンだった。
「パ……ン?」
まだ呆気に取られるエダークスの前で、ミトラはパンを二つに割った。
開いた切り口を見せられると、パンには側面から中心にかけて、指で抉ったような穴が一本空いていた。
「これを見廻りの兵士たちの間で噂になるまで続けた。さすがに半年間、パンに手をつけずに返し続けるのは厳しかったけど」
「……」
エダークスはいよいよ言葉を発せなくなってしまった。
ミトラが何を言っているのか、全く理解が追いつかなくなったからだ。
「パンの暗号」
そんな中、玉座に座っていたスパルタクス王が口を開いた。
反射的にエダークスは振り返った。
「我が祖父、スパルタクス一世も使っていた。剣闘士の練成所から脱出する際、別の牢にいる仲間たちと、それで示し合わせていた、と。私もよく聞かされていたものだ」
「っ!」
「ようやく気付いたか、エダークスよ。虫が食い進んだように穴を空けられたパンは、「獅子身中の虫」を示す暗号。それが兵士たちを介して私の耳に届くまで、半年間かかったというわけだ」
「そ、それで私に疑いを持ったというのか!?」
エダークスは再びミトラに振り返った。今度は視線で射殺さんばかりの怒りを込めて。
「なぜだ! なぜ邪魔をする! あなたがスパルタクスに力を貸す理由など! 微塵もないはずだ! いや! むしろ恨みがあってもいいはずだ! そうではないのか!? カエサリネカ!」
怒り心頭のエダークスは、感情のままに叫びながら、ミトラに人差し指を突きつけた。
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