荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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亡国の残光

陰謀 その1

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(ど、どういうことだ!?)
 エダークスは邸宅ていたくの地下にかまえた秘密の書斎しょさいで困惑していた。
 執務机しつむづくえの上には羊皮紙ようひしが広げられ、そこには日数を数えるように短い線がいくつもしるされている。
 目下もっか、エダークスを悩ませているのは、その線の数だった。
 線は全部で二十三本。数えやすいように五本ずつでまとめているので、間違えようがない。
(二十三日った! なのに何も起こらないだと!?)
 エダークスは机にし、にらみつけんばかりに再度線を数えた。
 やはり二十三本しかない。つまりは明確に二十三日が経過したことを示している。
(とうに事が起こってもおかしくないはず! それが……それが!)
 現状が思惑とは違った結果だったらしく、エダークスは目をき出し、拳を強く握る。
(なぜだ!? 確かに……確かに届いているはずだ!)
 エダークスは立ち上がると、机のはしに置いてある巻物スクロールを見た。
 苛立いらだちに任せて巻物スクロールを握りつぶそうとするが、寸でのところで思いとどまった。
(だ、駄目だ! これは切り札だ! これの所在が不明になってしまっては、その時は私も……)
 エダークスは机に両手をついて苦悩した。
 必ず自分の思惑通りになる。
 その確信があったはずだった。
 なのに今、最も肝心な事柄が思惑からはずれてしまっている。
(何が……何が原因だ!?)
 エダークスは一連の流れを必死になって回想する。
 その中で、一人の女の声が脳裏をぎった。
『……来る頃だと思っていましたよ』
 そう言って振り向くみすぼらしい姿の囚人が記憶によみがえった。
(まさか!? いや、そんなはずはない! そもそもあの時に知って動いたなら、すでに遅すぎる! そんなはずは、ない! だが、ならばなぜ!?)
 エダークスがいくら考えても原因は分からない。ただただ焦りだけが渦を巻くばかりだった。
(こうなったら計画を前倒ししてでも!)
 エダークスは燭台しょくだいの明かりを消すと、急いで地下の書斎を後にした。
 書斎の扉の向こうから、『サエウムを呼べ!』とエダークスが命令を叫ぶ声が聞こえる中、誰もいなくなった書斎の石畳いしだたみの一つがわずかに動いた。
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