荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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亡国の残光

脱獄の行方 その2

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「ぷっは~! おいちかった~」
 囚人に配給される夕食と、兵舎へいしゃ厨房ちゅうぼうから失敬してきた果物を平らげたビーは、満足げにコロリと寝転んだ。
「スパルターク国は果物も美味うまいな。このブドウなんてミケナイ国で食ったやつより甘いぞ」
 エーラはそう言いながら最後の一粒を口に放り込んだ。
「ナツメヤシもおいちかった~。イサオも食べた? どうだった? どうだった?」
「お、おう。もちろん美味かった―――よ?」
 勇男いさおはビーと話しながら、ふと格子窓こうしまどの方を見た。
 そこには格子窓のふちに、夕食の食べカスや骨を置いているミトラの姿があった。
 カラスケメトに与えるエサを並べているのは勇男も知っていたが、いつもはすぐに戻ってくるミトラが、今日は随分ずいぶんと時間がかかっている。
 よく見れば、ミトラは格子窓の外、夜空を微動だにせずに見つめていた。
(そういえば占いがどうとかって言ってたな)
 最初に投獄された時、ミトラは勇男たちが来ることを知っていたようなふしがあった。
 占いに出ていた、と。
(星占いでもしてるのか?)
 少し興味がいたのと、聞いてみたいことがあったので、勇男は立ち上がってミトラに歩み寄った。
「何が見えるんだ? ミトラ」
「イサオ……」
 勇男から急に声をかけられたにも関わらず、ミトラは特に驚かずに勇男を一瞥いちべつした。
「そうね……五日後にあなたがエーラに全力でほおを張られて宙を踊ってるところ、かしら」
「うそ!?」
「嘘」
「な、なんだよ、もう。驚かすなよ」
 勇男は一旦胸をで下ろすと、気持ちを改めてミトラに向き直った。
「ミトラ。お前、脱獄した後どうするつもりなんだ?」
「……」
「オレたちはあと十日そこそこで牢屋ここから出られるだろうし、その頃には地下道も完成して、お前もめでたく脱獄ってことになるだろうけど……お前はその後どうするつもりなんだ?」
「……それって答えないといけないことかしら?」
「まぁ、できれば。疑いたくないが、後で凶悪な事件を起こした犯人を脱獄させた張本人だ、なんて言われたくないし―――」
 勇男はエーラとビーのいる方をちらりと見てから、
「―――言わせたくもないからな」
 と続けた。
「……そうね、教えてあげてもいいわ」
「え? 教えてくれるのか?」
「ただし―――」
 ミトラは勇男の耳元に顔を寄せると、ささやき声で交換条件をげた。
わたしと一晩付き合ってくれたら。肌を重ねながらとくと語ってあげるわ」
「!?」
 そう聞いた勇男は顔を真っ赤にしながら一歩飛び退いた。
「ふふ、冗談よ。申し訳ないけど、今は話すことができないの。ただ、あなたたちにとって重要なことが一つある。それは話せる」
「オレたちにとって重要な? それって何だ?」
 勇男にうながされるも、当のミトラは若干話しづらそうに眉根まゆねを寄せ、数秒ってから口を開いた。
「あなたたちは、牢屋ここからまともな方法で出られないかもしれない」
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