荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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亡国の残光

脱獄の行方 その1

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 勇男いさおたちとミトラが出会い、ともに脱獄用の地下道を掘り進めて、ついに九日が経過した。
 ビーが思いのほか器用だったことがさいわいし、地下道は非常に効率よく建造されつつあった。
 そして二日前、勇男たちは浴場に並ぶ重要地点への到達に成功した。
「これおいちー!」
 鍋の中にあるスープ状の料理を、ビーは木匙きさじで味見して舌鼓したつづみを打っていた。
「ビー、あんまりやり過ぎると兵士たちに気付かれる」
「あっ、ごめんエーラ」
 ビーは木匙を元の位置に戻し、鍋の上にふたをそっと置いた。
「イサオ、これもお願い」
「お、おう」
 別方向では、ミトラが選別した果物くだものを、勇男が次々と腕の中に収めていた。
「このぐらい、かな? よし、戻りましょ」
 それぞれが持てる分の食料を持つと、ミトラを筆頭に四人は石畳いしだたみに空いた穴にもぐり、
「よっ―――こいしょ」
 最後にビーが穴の横に置いてあった石畳を持ち上げ、穴に入りながら何事もなかったように、丁寧ていねいに石畳を元の位置にはめ直した。
「では、牢屋ろうやに戻ってお楽しみにしましょう」
「この前は肉を多く取ったから、今回は果物だな」
「ビー果物大好き。楽しみー」
「……」
 地下道を通って牢屋に戻るまで、勇男を除く三人は、それぞれ今日の夕食に思いをせていた。

 二日前に開通した重要地点。
 それは監獄に併設へいせつされている兵舎へいしゃの食堂、の隣にある厨房ちゅうぼうだった。
 ミトラは共用浴場を秘密で使えるようになった次に、厨房で食料を確保するべく、地下道の拡張を進めた。
 新たに計画した地下道の掘削くっさくは見事に結実し、ただ囚人に提供される食事以上のものを調達できるようになった。
 もちろんあまり取り過ぎては、兵士たちに忍び込んでる者がいると気取けどられてしまう。
 なのでバレない程度に余った食料を失敬し、兵士たちの食事の時間が始まるまでに、牢屋に戻る。
 こうして牢屋にて四人は本来の食事と合わせて、より潤沢じゅんたくな栄養を摂取することができていた。
 勇男たちの監獄における生活は、兵士たちが知らないところで充実していってるわけだが、
(あれ? そういやオレたちがそもそも牢屋ここにいる理由って……)
 勇男はここまでのあわただしい生活の中で、忘れていたことを思い出しかけていた。
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