荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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亡国の残光

ミトラの謝礼 その1

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「むむむ~」
 てのひらおさまるほどの小さな四本の棒を握りしめ、ビーは祈るような、あるいは念じるような面持ちでうなりを上げている。
「来い~、来い来い来い来い~―――とりゃっ」
 意を決したビーが、四本の棒を床に放り投げる。
「どうだっ」
 動きの止まった棒の状態を確認するが、
「あ~、3だけだ~」
 ビーは結果にガックリと肩を落とした。
「残念でした、ビー。4だったらわたしに勝ってたのに」
「むむ~、まだビーの負けって決まったわけじゃないよ。ミトラが5進めなかったら次でビーが勝つもん」
「ならわたしが勝つか、ビーが勝つか、答えを天にゆだねてみましょうか」
 ビーから棒を受け取ると、ミトラは軽く手の中で転がし、すぐに床に投げ放った。
「む~? あっ! これって!」
「天はわたし微笑ほほえんだみたいね、ビー」
 勝ち誇った様子でみずからのこまを動かすミトラ。
「ふは~、やられた~」
「それではビー、夕食のスープの具はわたしが一つ多くもらうということで」
「う~、分かった~」
 負けたビーはションボリしながらこれを承諾しょうだくし、ミトラは上機嫌でいそいそと駒や投げ棒を片付ける。
 そんな二人の勝負を、勇男いさおは不思議な様子で横から見守っていた。
 ミトラと知り合ってから六日が過ぎた頃、その日、ミトラは地下道を掘る作業はある時間まで待つと言い出した。
 それまで退屈しないようにと、ミトラはある遊戯ゲームを提案してきた。
 何でもケメト―――ミトラが手懐てなずけたカラス―――が持ってきてくれた品物の中で、特に道具作成に使われなかった物を加工して作ったらしい。
 『わたし一人だけだったから占いにしか使わなかったけど、相手がいれば遊具としても使えるわ』、とはミトラの談だった。
 牢屋ろうやはしにある石畳いしだたみに三十個のマスがられており、そこに五つの持ち駒をそれぞれ初期配置し、投げ棒の表裏によって駒を進める数を決める。
 先に自分の持ち駒を全てマスの外に出せた者が勝ちという遊戯ゲームだった。
 それを聞いた勇男の感想は、
(なんか双六すごろくみたいだな)
 だったが、実際の対戦を見ていると本当に双六そのものだった。
 あまり地球むこうや日本にちなんだ言葉を出すと誤魔化ごまかすのが大変なので、あえて口には出さなかったが。
「さて……」
 壁の隠し穴に遊具を片付けたミトラは、格子窓こうしまどから外の様子をうかがった。
「……そろそろ頃合いね。みんな、作業を再開する準備をしてちょうだい」
「時間になったのか? いったい何を待ってたんだ?」
 勇男の質問に、振り返ったミトラは機嫌良く言った。
「前に話していた、あなたたちへのお礼よ」
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