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亡国の残光
脱獄計画 その5
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そうして、勇男たちとミトラが出会ってから三日後、修正された計画に則た作業が進められていた。
本来、ミトラが単独で脱獄用の地下道を掘り、勇男たちが見廻りの兵士が来ないか見張って知らせる、というものだった。
しかし、ビーの予想外の器用さが発覚したので、ミトラは分担を大幅に変更した。
まずメインでの掘削はビーが行うことになった。
ビー自身、ウルク国にいた頃から野良仕事をはじめ、建築作業までもこなした経験があった。それも積み重ねた年数が尋常ではない。
ミトラが作業するよりも遥かに効率的だった。
そしてサブにはエーラが入ることになった。
ビーには流石に敵わないが、エーラも英雄ヘラクレスの血を引くだけあり、優れた膂力を持っていた。
ビーが掘削した土を、地下道の壁や天井に鏝を使って圧着、補強する役割を担う。
見廻りの兵士に対する見張りは、勇男一人が任されることになった。
ミトラは勇男とエーラの中継役兼作業の進捗状況を監督する立ち位置に移行した。
勇男が兵士の接近を感知すると、ミトラの元に伸ばした縄―――ミトラが長年かけて自分の髪の毛を使って編んだ物―――を引いて知らせる。
さらにミトラからエーラの元に伸ばした縄で、さらにエーラからビーに伸ばした縄で順繰りに知らせ、素早く上階の牢屋に戻る。
あとは兵士が去るまで他愛のない話でもして、脱獄など毛ほども考えていない、人畜無害な模範囚を演じるという寸法だ。
修正された計画では、これらが一連の流れとなっていた。
「見廻りの人、行っちゃった?」
「ああ、行ったみたいだな」
ビーと勇男は牢屋の格子から、兵士が曲がり角の向こうへ姿を消したことを確認した。
「むふふ、こういうのってワクワクするね」
「ビー、オレたち結構際どい立場にいること忘れないでくれよ。もし脱獄がバレたら即極刑なんだから」
「そうなった時は、妾が全力で弁明してあなたたちのことを守るわ」
一緒になって廊下の様子を窺っていたミトラが、勇男たちの後ろからそう言った。
「ミトラ……」
「巻き込んだのは重々承知しているわ。だからもし、脱獄が露見してしまった場合は、妾が裁判で持てる全ての弁論で抗する。だから安心してくれていいわ」
(裁判にかかることなく即行で首刎ね飛ばされなきゃいいが)
ミトラは自信満々に語るが、できれば何事もなく釈放されるようにと、密かに心の中で祈る勇男だった。
「ビー、今の地点から6キュビットほど掘り進めてから、左方向に直角に折れてくれるかしら?」
「大丈夫だけど、どして?」
「ここまで予想以上に進み具合が良いから、あなたたちにちょっとしたお礼をしようと思って」
相変わらず顔は髪で隠れて見えないが、勇男たちも少し慣れてきたので、ミトラが笑みを浮かべているのが判った。
脱獄という全く褒められたことではない行いに協力しているわけだが、こうなってくるとある種の連帯感のようなものが芽生えつつあった。
ただ、その中でエーラだけが、わずかにミトラを探るような目で見ていた。
本来、ミトラが単独で脱獄用の地下道を掘り、勇男たちが見廻りの兵士が来ないか見張って知らせる、というものだった。
しかし、ビーの予想外の器用さが発覚したので、ミトラは分担を大幅に変更した。
まずメインでの掘削はビーが行うことになった。
ビー自身、ウルク国にいた頃から野良仕事をはじめ、建築作業までもこなした経験があった。それも積み重ねた年数が尋常ではない。
ミトラが作業するよりも遥かに効率的だった。
そしてサブにはエーラが入ることになった。
ビーには流石に敵わないが、エーラも英雄ヘラクレスの血を引くだけあり、優れた膂力を持っていた。
ビーが掘削した土を、地下道の壁や天井に鏝を使って圧着、補強する役割を担う。
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ミトラは勇男とエーラの中継役兼作業の進捗状況を監督する立ち位置に移行した。
勇男が兵士の接近を感知すると、ミトラの元に伸ばした縄―――ミトラが長年かけて自分の髪の毛を使って編んだ物―――を引いて知らせる。
さらにミトラからエーラの元に伸ばした縄で、さらにエーラからビーに伸ばした縄で順繰りに知らせ、素早く上階の牢屋に戻る。
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「見廻りの人、行っちゃった?」
「ああ、行ったみたいだな」
ビーと勇男は牢屋の格子から、兵士が曲がり角の向こうへ姿を消したことを確認した。
「むふふ、こういうのってワクワクするね」
「ビー、オレたち結構際どい立場にいること忘れないでくれよ。もし脱獄がバレたら即極刑なんだから」
「そうなった時は、妾が全力で弁明してあなたたちのことを守るわ」
一緒になって廊下の様子を窺っていたミトラが、勇男たちの後ろからそう言った。
「ミトラ……」
「巻き込んだのは重々承知しているわ。だからもし、脱獄が露見してしまった場合は、妾が裁判で持てる全ての弁論で抗する。だから安心してくれていいわ」
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「ビー、今の地点から6キュビットほど掘り進めてから、左方向に直角に折れてくれるかしら?」
「大丈夫だけど、どして?」
「ここまで予想以上に進み具合が良いから、あなたたちにちょっとしたお礼をしようと思って」
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ただ、その中でエーラだけが、わずかにミトラを探るような目で見ていた。
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