荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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亡国の残光

脱獄計画 その4

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「これ、なに?」
 きっかけはビーの一言だった。
 ミトラが自作した様々な道具の一つを指差して、純粋に質問しただけのことだった。
「これで柔らかい土をいたり削ったりするのよ」
 遠目から見ればスプーンと見間違えそうな『それ』は、加工した動物の骨と木片で作った小さなスコップだった。
「じゃあ、これは?」
「固い土はこの二つを使って少しずつ砕くの。音がするからあまり使いたくないのだけど」
 次は先端に小さな金属片を使用したノミと、石ころを製材して木片でを付けた小槌こづちの説明をした。
「これは?」
「掻きだしたり崩したりした土を、地下道の壁や天井にし付けて補強するための物」
 薄い板切れに取っ手を付けて作ったこてを持ち、ミトラは壁を圧す仕草をした。
 それからもビーは道具の一つ一つについて質問し、ミトラも丁寧ていねいにそれらに答えていった。
 ミトラは壁の穴や石畳いしだたみ隙間すきま、果てには自身の乱れ伸びた髪にさえ、実に様々な道具を隠していた。
 勇男いさおとエーラはそれらの道具の説明を、驚きともあきれともつかない気持ちで聞いていたわけだが、一通りの説明が終わったところで、
「ビーもやってみたい」
 と、ビーがいきなり言い出した。
 どうやら道具を解説されているうちに、興味が出てしまったらしい。
 最初こそ勇男も、
「協力するとはいっても脱獄の共犯にはならない方がいいんじゃ……」
 と言って止めようとしたが、
「早く終わった方がミトラだって絶対いいよ」
 というビーに押し切られた。
 ミトラ自身も『子どもの好奇心くらい付き合おう』というスタンスだったのか、わりとあっさりビーが作業することを了承した。
 ただ、これが意外な方向に転がることになった。
 ちょっと試してみるだけ、のはずだったが、ビーはミトラの作業スピードの二倍、あるいはそれ以上で、的確に地下道を掘り進めたのだ。
「……このはいったい何者なの?」
「あ~、なんていうか、ウルク国のだな―――」
「ウルク国の!?」
 勇男が全部答える前に、ミトラはウルク国の名前を聞いただけで驚いていた。
「なるほど。ウルク国の出身だったのね。ならこの器用さも納得できるわ」
「?」
 後で勇男が聞いたところ、ウルク国は昔から技術――特に建築――にひいでていることで有名だったらしい。
 そして、その話題になった時、
「んふふ~、実はウルク国の建物ビルや『ウトゥしんの小箱』って、全部ビーが考えたんだ~。えっへん」
 と、ビーは鼻を高くしていた。
 ビーの予想外の技術力の高さが判明すると、ミトラはしばらく黙って考え込んでしまった。
 見ているだけでもかなりの真剣さが伝わってきたので、勇男たちもつられて静かに、ミトラの思索しさくが終わるのを待った。
「……よし。これなら」
 考えがまとまったのか、ミトラは改めて勇男たちに向き直った。
「計画は修正したわ。今からあなたたちに話す」
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