荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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亡国の残光

脱獄計画 その2

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 勇男いさおたちがミトラと出会ってから二日ほどは、脱獄計画の講義レクチャーついやされた。主にここまでの経過と作業手順について。
 ミトラが脱獄をくわだてるきっかけとなったのは、たまたま座った石畳いしだたみの固定がゆるんでいたことだった。
 それまでのミトラは果てがあるかもわからない刑期を待つだけだったらしいが、石畳の緩みを見つけた際にひらめきがあったそうだ。
 数日かけて牢屋ろうや内の石畳を―――見廻みまわりの兵士に気取けどられないよう無気力な囚人を演じながら―――一つ残らず調べ上げ、最も緩くはずれやすいものを見つけた。
 そこからは計画をりつつ、作業に必要な道具を調達することに専念した。
 スパルターク国では囚人にもそれなりの食事が用意されるらしく、時には肉や魚が振舞われることもあった。
 食べ終わった後の骨などを気付かれない程度に頂戴ちょうだいし、それを加工し、髪の毛を使ってり合わせていくつかの道具を作成した。
 もちろんそれだけでは脱出経路を作るに充分ではない。
 ミトラは食事の際、骨だけでなく、パンや野菜、肉や魚の欠片かけらも取っていた。
 自分用に取っておいたわけではなく、それを換気と明かり取り用の格子窓こうしまどに置き、牢獄付近を縄張りにしているカラスに餌付えづけするためだった。
 時間はかかったが、運良くミトラの思惑は叶った。
 美味うまい餌を提供してくれる代わりに、カラスは返礼として何かしらの品物を運んでくるようになった。
 その返礼品の中には、とらわれの身であるミトラでは入手できない、金属製品も含まれていた。
 材料あるいは道具をそろえつつ、兵士の目を盗んでわずかばかりでも作業を進め、数ヶ月ほど前にようやく階下の牢屋に到達したらしい。
 そこからはさらに階下の牢屋で石畳の緩い箇所を見つけ、勇男たちが来る数日前に地下道の掘削に着手したとのことだった。
 ここまででゆうに五年の歳月をけたとミトラは言った。

「……ちょっとスゴ過ぎないか? それ」
 ミトラのこれまでの作業工程を聞いた勇男は、脱獄に対する相当な執念を感じ取っていた。もはや執念を通り越してる気もするが。
「どうしても確かめたいことがあるの。そのためにわたしは最も確実で、最も安全な方法でもって、この脱獄を進めてる」
 そう口にするミトラの目は、静かではあったが石よりも堅実な覚悟をたたえていた。
「で? あたしたちは何をすればいいっての?」
「ビーたちが壁をドカーンってやればいいの?」
 エーラとビーの質問に、ミトラは小さく顔を横に振った。
「そんな大それたことはしなくていい。そもそも脱獄を気付かれたら、あなたたちだって極刑になってしまうわ」
 二人は『そうだった』と、担当官から言われていたことを思い出した。
「あなたたちには―――」
 勇男たちが来るまでの経過を話し終えると、ミトラは今後の動向についてを話し始めた。
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