荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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亡国の残光

脱獄計画 その1

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 勇男いさおたちが牢屋ろうやに入れられ、そこで謎の人物ミトラに出会ってから三日がった。

(…………来た。見廻みまわりの兵士だ!)
 廊下を見張っていた勇男が兵士の接近を感知すると、石畳いしだたみいた穴から階下の牢屋にびているひもを二回引いた。
(見廻りの兵が来た! エーラ!)
 ミトラは左手首に巻いていた紐が二回引かれたことを確認すると、その牢屋から掘られていた地下道に延びている紐を二回引いた。
(見張りの兵士が来たか。ビー!」
 人一人ひとりがようやく通れるほどの地下道で、補強作業をしていたエーラは、足首に巻いた紐が二回引かれたことで事態を把握した。
 そして地下道を後退あとずさりしてミトラの元まで戻ると、穴の中から持ってきた紐を二回引いた。
(あっ、見張りの兵士が来たんだ)
 両足首をしばるように巻いた紐が二回引かれ、ビーは手に持っていた道具を置くと両手足を伸ばし、体を可能な限り細い形状フォルムにした。
(いいよ、エーラ!)
(いくぞ、ビー!)
 息の合ったタイミングで、エーラが紐を引っ張ると、ビーの体が見事に地下道の入り口まで手繰たぐり寄せられた。
(ビー、今のうちに紐をほどいとけ)
 エーラは地下道からビーを出すと、ビーが足首の紐を解いているうちに、地下道の入り口に石畳をはめ込んで普通の床に戻す。
 その間、ミトラは勇男の助けを借りて、穴から階上の牢屋に戻る。
 ミトラが階上に上がると、続いてエーラとビーが自前の跳躍力を使って階上に上がった。
(ちょっ! 早く服! 服!)
 ほとんど裸の状態で上がってきたエーラとビーに、穴のそばに置いてある服を指差す勇男。
 二人が土埃つちぼこりをなるべく落とし、手早く服を着ている間に、ミトラが石畳を保持するための骨組みを穴にほどこし、そこへ勇男が石畳をはめ込んだ。
 そうして撤収てっしゅう作業が完了する頃、見廻りの兵士が牢屋を通り、
「いや~、スパルタークこの国に来てまだ三日か~」
「早く釈放されて美味うまいもの食い歩きたいよな~」
「ビー、おいしいお肉べた~い」
 と、勇男たちは円になって他愛のない話をしながら、兵士が去るまでやり過ごす。

 ここまでの一連の流れが、現状いまの勇男たちの生活の一部となっていた。

(やれやれ、ホント何でこんなことになってんだか……)
 勇男は心の中で溜め息をつきながら、ミトラと取り引きをわした三日前のことを思い出していた。
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