荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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亡国の残光

牢屋の邂逅 その3

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「ミトラ、じゃあまず聞くが、アンタ何やってたんだ?」
「何って、見ての通り―――」
 ミトラは今しがた自身が出てきた石畳いしだたみを軽く拳で叩き、
「脱獄よ、脱獄」
 さも当然のようにあっけらかんと答えた。
 あまりにもはっきりした物言いに、勇男いさおは内心あきれたが、
(まっ、これだけの図太さがなきゃ、脱獄なんてやったりしないわな)
 と、逆に納得もしていた。
「今度はこちらから質問いいかしら? あなたたちはどんな罪状で投獄されたの?」
「あ、ああ。オレたちは―――」
 ミトラにうながされるままに、勇男はスパルターク国へ来た経緯いきさつと、牢屋ろうやに連れてこられた理由を話した。
 別に交換条件で話すと約束していたわけではなかったが、勇男は自然と話し始めていたことに、途中から気付かされた。
ミトラコイツ……話の持って行き方がスゴい上手い……のか?)
 一通り勇男たちの事情を聞き終えたミトラは、
「ふ~む、ふむふむ。あなたたち、実質無罪で牢屋ここに来てしまったと。なるほどなるほど」
 入手した情報を整理しているのか、あごに手を当て、しきりにうなづくような仕草をしている。
「で? あたしたちは待ってれば無罪放免になるだろうけど、あんたは何の罪で牢屋ここにいるんだ?」
 何か気になったことがあったのか、次に質問したのはエーラだった。
「わざわざ脱獄なんてくわだてるなら、ソッチもそれなりの事情があるんじゃないの?」
「……そのことは申し訳ないんだけど、今は話せないわ」
「話せない? あたしたちの事情は聞いといて?」
「ズルいズルい!」
 ミトラの返答に、エーラだけでなくビーも一緒になって抗議する。
「オレもそう思うぜ。今の状態ってオレたちにとってもアンタにとっても、かなり危ないトコロじゃないのか? そんな中でオレたちと話し合う素振りを見せたってことは、一蓮托生いちれんたくしょうだってアンタもわかってるからだ。なのにアンタは全部を話さないのか?」
 ミトラがどんな人物かは未知数だが、大人しく話し合いに応じてきたことで、勇男はまだ話の通じる相手だと考えていた。
 だが、ここにきて素性を全て語らないというのでは、その認識も怪しくなってくる。
 もしかしたら、勇男たちの事情だけを聞き、それを材料エサに脅迫まがいの行動に出るやも――――――と、勇男が思いかけた時だった。
 ミトラは勇男たちの首元よりも深く頭を下げてきた。
 意外なほどにうやうやしい行動をミトラが取ったために、勇男たちは驚きのあまり猜疑心さいぎしんを忘れた。
不躾ぶしつけなのは解ってる。けれどわたしにはどうしても牢屋ここを出たい理由がある。そのためにあなたたちの力を貸してほしい。代わりにあなたたちの身柄は何があっても守ってみせる。太陽をつかさどる神に誓って」
 その一言一句にいたるまでにじみ出る覚悟から、勇男たちはミトラが嘘を言っていないと確信できた。
 どんな事情があるのかは知りえないが、ミトラには偶々たまたま知り合った勇男たちに、これだけの礼を尽くしてでもげたい何かがあるということだ。
 勇男、エーラ、ビーは互いに顔を見合わせ、頷き合うと、
「頭を上げてくれ、ミトラ。それで、オレたちは何をすればいいんだ?」
 改めてミトラに向き直り、今後の行動についてたずねた。
「ありがとう。イサオ、エーラ、ビー」
 姿勢を正したミトラの顔は、伸びた髪であまりよく見えなかったが、感謝の笑みを浮かべているようだった。
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